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第62話 ルクシア・バレンタイン

「お待ちしておりました、ノアマリー・ティアライト様、並びにお連れ様」

「初めまして、ノアマリー・ティアライトよ。ルクシア・バレンタインさんとの約束があって来たわ」

「はい、主から伺っております」

「そう。では申し訳ないのだけれど、馬車を止めさせてくださる?」

「ご案内いたします」


 バレンタイン邸は広すぎず狭すぎず、質素だが貧乏というわけでもない、非常にしつこくない装飾で彩られた邸宅だった。

 王国の高いだけで趣味の悪い、下品な装飾に凝った連中に見せてやりたいと思えるほどに完成された雰囲気だ。


「ところで、不躾ですが一つお伺いしても?」

「なにかしら?」

「後ろの縛られている少女は………?」

「あれは気にしないでください、そういうオブジェだと思って頂ければ」

「は、はあ」


 未だ気絶しているオトハを乗せたまま、馬車が小屋に止められた。


「では、こちらへどうぞ」


 使用人のお姉さんの後に続き、邸宅の中に入る。

 中もまた、外と同じ印象を受ける。貴族制度がないこの国では一応この屋敷の主人も平民に分類されるはずなのだが、うちの王国貴族たちに見習ってほしいレベル。


「こちらでございます。ただいまルクシア・バレンタインをお呼びいたしますので、少々お待ちください」


 通されたのは応接間。

 既に人数分の飲み物が用意されていて、使用人の優秀さもうかがえる。


「お嬢。ここ、すごい」

「予想以上ね。さすが連邦設立時からこの国を支えてきた名門、バレンタイン家というところかしら」

「王国の豚共の品の無さを知っているので、なお良く見えますね」

「同感ですが、口が悪いですよオウラン。ここが既に、ノア様の婚約者となるかもしれない方の屋敷だということをお忘れなく」

「おっと、失礼」


 わたしたちがしばらく待機すると、扉が開き、先ほどの使用人ともう一人の女性が入ってきた。

 青い髪をした彼女は、完璧な作法で一礼し、こちらに微笑んだ。


「お初にお目にかかります、ノアマリー・ティアライト様。ルクシア・バレンタインと申します。本日はよろしくお願いいたします」


 歳は十五歳、ノア様とわたしの一つ上。

 青い髪を後ろで小さく縛り、両耳には小さなイヤリング。

 顔も非常に整っていて、小動物のような愛くるしさを感じる顔立ちだった。

 服装も、適度に可憐な上品さを感じるドレスで、その品位がうかがえる。

 ぽわぽわした独特の雰囲気があるが、それ以上になんだか、本能的に惹かれてしまいそうな感じを覚える。

 この感覚。おそらく彼女もノア様同様、生まれるべくして生まれた「王の素質」のようなものを持っている。

 一言で言えば、凄まじいカリスマ性を感じた。


「初めまして、ルクシア・バレンタイン殿。ノアマリー・ティアライトです、こちらこそよろしく」


 ノア様も立ち上がり、綺麗に一礼。

 ニッコリと作り笑いを張りつけ、そのまま流れるように座った。

 ルクシアさんもクスリと笑って、その正面に腰掛ける。


「お連れ様もどうぞお座りになってください」

「いえ、我々は主人や貴方様をお守りする立場。お気持ちだけで―――」

「あなた方三人の実力ならば、座ったままでも守ることが出来るでしょう?クロさん、ステアさん、それにオウランさん。今日はオトハさんはいらっしゃらないので?」

「………………」


 なるほど。わたしたちの情報は知っているぞと。

 名前を知っている、それに劣等髪と呼ばれているはずのわたしたちを評価しているこの姿勢。

 おそらく、わたしたちが魔法を使えることすら知っているはず。


「クロ、お言葉に甘えておきなさい」

「かしこまりました。では遠慮なく」


 そうならば、いかにも護衛というスタンスを作っておく理由もない。

 わたしたちはルクシアさんの言う通りに椅子に座った。


「では、少しお話ししましょうか」

「ええ、お互いのことは知っておかなきゃね」


 そこからは、三十分近く軽い雑談の時間が入った。

 趣味とか、好きな食べ物とか、そういう超典型的なお見合いの時の話。

 二人とも楽しそうに、お互いの従者の存在を忘れたように二人で話が弾んでいた。

 でも、何だろうこの違和感。

 ノア様が作り笑いなのは相変わらずだし、ルクシアさんは逆に心底楽しそうだ。

 でも、どことなく何かを隠しているような、そんな感じがする。


「ところでルクシアさんは、私のどこが気に入って声をかけてくれたの?」

「ふふっ、資料に書いてあったでしょう?」

「顔が気に入った?本当にそれだけ?」

「正直に言えば、打算的な側面があったことは確かです。あなたの光魔法は勿論、あなたの従者である四人も、未知の魔法を操る強者だと聞き及んでおります。皆様が我が国に嫁いでくだされば、その類い稀な力が連邦の財産となるわけですから。ですが、七割くらいは顔が好きというのが本音なんですよ?」


 ちょっと恥ずかしそうに言うルクシアさんの顔は、同性のわたしでもグッとくるほど可愛らしい顔だった。


「さて、そろそろ三時ですし、軽食でも挟んでお話の続きをしましょうか。ケーラ、持ってきてくれる?()()()()()()()()

「かしこまりました、お嬢様」


 あちらの従者、わたしたちを案内してくれたケーラと呼ばれた女性は、こちらにお辞儀をして出て行く。

 バレンタイン家の人間はこれでルクシアさんただ一人。

 対して、ティアライト家側のこっちは四人。普通はこんな状況にしない。

 つまりこれは、多分ルクシアさん自身が望んだこと。


「これでワタシ以外、ノアマリーさんの発言を聞いている人はいません。楽にしていただいて構いませんよ」

「あら、なんのこと?」

「その作り笑顔とか、雰囲気とか」


 バレてた。

 しかし、初対面でそれを見破るとは、やっぱりこの人。


「………ふうっ。すごいわね、あなた。私の演技を見破れるのなんて、クロとステアくらいだと思ってたわ」

「ノアマリーさんに言われると照れますね。それで聞かせていただけますか?この国に来た、本当の目的を」

「あー、あなたに会いに来るっていう名目で、連邦の劣等髪を見つけに来たのよ。で、あなたが良さげだったら婚約者だと言って、虫よけにしようとか考えてたわ、ごめんなさいね」

「ふむ、やはりそういうことでしたか。クロさんたちのような劣等髪と揶揄されている方々は、魔法が使えないと言われている。しかし実際には、ノアマリーさんの従者である四人はそれを使えている。ということはおそらく」


 ルクシアさんはニッコリと、どこか嬉しそうな表情で。


「クロさんたちが特別というわけではない。世間で噂されているように、ノアマリーさんの光魔法で浄化されて魔法が使えるようになったわけでもない。劣等髪と呼ばれる方々はもともと魔法を使える素質を秘めていて、しかし魔導書がないために使い方が分からないというだけ。本来であれば我々のような凡庸な髪色よりも遥かに素晴らしい魔法を操る才能を持っている」


 自分の予想を、淡々と語っていった。


「そしてノアマリーさんは、その才能を引き出す知識、あるいは魔導書を所有している。それがクロさんたちが魔法を使える理由………当たってますか?」

「………素直に驚いたわ。普通、そこに行きつかないわよ?」

「頭を柔らかくするコツは、その普通を疑うことです」


 ノア様はさっきまでの、どこか面倒そうな態度を崩した。


「いいわね、あなた面白い。正直、結婚云々は二の次に考えていたけど、気が変わったわ」

「おや、そうですか?」

「ええ、純粋に『ルクシア・バレンタイン』という個人に非常に興味が出てきた。聡明で美しく、今まで出会った権力者の中ではダントツの素晴らしい逸材だわ」


 ノア様は身を乗り出し、目を少し輝かせてそう言った。

 ルクシアさんはそんなノア様を見て頷き。


「それでしたらノアマリーさん。ワタシと取引をしませんか?」

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