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第58話 二年後

「ねえ、このお茶入れたの誰?」

「私ですわお嬢様!それはもう、真心と愛をこめて」

「変なもの入れた?」

「入れましたわ!」

「あら正直」

「お嬢様に嘘は付けませんもの!」

「正直に言ったから三日間接触禁止で勘弁してあげる。クロ、この中から媚薬だけ消して」

「かしこまりました」

「そんなああああっ!?」


 相変わらず馬鹿をやらかして自分の首を絞めるオトハ。


「本当にいつもいつもすみません、うちの愚姉が」

「オウラン、ちゃんと手綱は握っておかないとダメよ」

「手綱を取り付けるのにも一苦労なんですよ、こいつの暴走馬度は」

「女の子に向かって暴走馬とはなんですの、失礼な!」

「じゃあ狂犬」

「もっとひどく!?」


 常にオトハに振り回される、わたしの振り回され仲間、オウラン。


「クロ、お腹空いた」

「相変わらずのマイペースねこの子は」

「ホットケーキ食べますか?」

「生クリームマシマシ、フルーツ多め、チョコソース致死量盛り」

「はいはい」


 もはや行きつけのラーメン屋みたいなノリでホットケーキを注文してくるステア。


「クロ、肩凝ったわ」

「ご自分の光魔法で治せばいいのでは」

「分かってないわね、クロに揉まれるのと自分で回復するのでは満足度が違うのよ」

「はあ。しかしいいんでしょうか、オトハが血涙を流しそうな目でこちらを見ていますが」

「いいんじゃない?オトハだし」

「ノア様、オトハの扱いだけが例によって雑ですね」


 いつも通り、数年前から何も変わらず怠惰なノア様。


「きいいい!お、お嬢様の肩をっ、なんて羨ましい!」

「あんたも相変わらず苦労人だね、クロさん」

「クロ、ホットケーキ」

「あー、そこそこ。あ、もうちょっと真ん中の方お願い」

「いっぺんに言わないでください、一人ずつ!」


 そしてわたし。


 オトハとオウランがノア様の配下に加わってから既に二年。

 十四歳になったわたしとノア様、十三歳のオトハとオウラン、十歳のステアは、二年経ってもあまり変わらない日常を送っていた。


「ところでクロ、今日の予定は?」

「御父上から、目を通しておけと言われている多数のお見合い写真に目を通して」

「全部廃棄しましょうお嬢様」

「そうね、全部捨てときなさい」

「かしこまりました」


 許嫁だったギフト家がサヨナラバイバイした直後から、ノア様の元には国内外問わず多数の「うちの息子とかどうですか?」写真が送られてきている。

 それもそのはず、ノア様を手に入れるというのは光魔法を手に入れるのと同義。

 巷では『聖女』なんて呼ばれているノア様だ、政略結婚はあまりにメリットが大きい。

 加えて。


「黙って座ってれば美人ですものね、ノア様」

「余計な枕詞が付いていたのは気のせいかしら?」

「何を言っていますのクロさん、お嬢様はどのような御姿、どのようなことをなさってもお美しいに決まっていますわ!」

「人類が全員、あなたみたいな全肯定型限界オタクだと思わないでください」

「全肯定型限界オタク!?」


 何故かショックを受けるオトハを後目に、わたしは部屋の隅にあった大量のお見合い写真を燃やすため、全て抱えて庭に持っていこうとした。


「おっとっと」


 あまりに多くて一枚落としてしまい、一旦写真を置いてそれを拾う。


「………ん?」


 するとその写真は、他の写真とは一ヵ所違う部分があった。


「どうしたのクロ?」

「ノア様、この写真なのですが」


 ノア様にその写真を見せると、他の三人もどれどれと集まってきた。


「女の子?」

「女の子ですね」

「しかも可愛いわ」

「整った顔立ちですね」


 そう、写真に写っているのは女性だった。

 青い髪をした、箱入り娘という感じのおっとりとした顔をした少女。

 年齢の欄には十五歳と書かれている。


「住所はフィーラ共和国連邦。ディオティリオ帝国とは逆側にある中立国ね」

「四十年前、三つの友好国が併合して出来た国でしたか」


 フィーラ共和国連邦は、この大陸でもっとも平和な国。

「いついかなる場合も平等な精神を」という言葉を基としているためか、劣等髪に対する差別すら少ない、このエードラム王国とは比較にならないほどいい国だと言われている。


「その国の豊かさから、移住者も後を絶たない国ね」

「そのためか、中立国といえどその武力は凄まじく、帝国に匹敵すると言われていた筈です」

「面白そうねぇ」


 あ、ノア様がニヤリと笑っている。

 何か企んでいる顔だ。


「………え?まさかお嬢様っ、行かれる気なのですかっ!?」

「ええ、弱くてムサイ男の所に行くよりはマシだし」

「ちょお!?お嬢様は私と結婚なさるのでは!?」

「誰がいつどこでそんな約束をしたのよ。それに結婚するなんて言ってないわ、ちょっと興味があるだけ」

「きききき興味がある!?いけません、いけませんわ!そんなふしだらなっ!」

「興味があるって言っただけでなんでふしだらなのよ、そうじゃないわよ、興味があるのは彼女にじゃなくて、この国に対して」

「え?ああ、そっちでしたか」


 オトハは髪色だけじゃなくて脳内までピンクなんだろうか。


「しかしノア様、何故またこの国にご興味を?」

「この二年で、国内はあらかた調べつくしたわ。その結果、もう国内に希少魔法の才能持ちはいないと分かった」

「ええ、そうでしたね」

「じゃあ他国に目を向けたいところだけど、残念ながら昨今、帝国と王国の溝は深まる一方。帝国を調べるのは厳しいし、それ以前にオトハとオウランが既にいたことから、帝国にいる可能性は低いわ」


 たしかに。

 ああ、なるほど、つまり。


「今度は共和国連邦に目を向けてみようと、そういうことですか」

「そういうこと。劣等髪に対する差別意識が薄いあの国なら、いる可能性は高いと思わない?」

「なるほど、一理ありますね。僕は賛成です」

「ぐぬぬ、お嬢様の婚約者候補など一蹴してやりたいところではありますが、そういうことなら仕方ありませんわ………」

「お嬢、旅行?」

「ええ、久しぶりにね。私と結婚したいっていうこの子の元に行くという名目で、希少魔術師候補を探しに行くわよ」

「では早速先方と御父上に連絡を入れましょう。馬車の手配をしてきます、それといくつかの準備期間を考えて―――出発は明後日の朝、ということでよろしいでしょうか?」

「ええ、よろしく」


 そういうことなら、早速ノア様の荷造りをしなければ。

 あとは明日足りないものを買い出しに行って、幾つか道具や護身用の武器を手配、ステアのホットケーキ。

 足りないものはまだある。


 しかし、遠出というのも久しぶりだ。

 フィーラ共和国連邦。一体どんなところか。

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