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闇に染まった死神は、怠惰で強欲な聖女に忠誠を誓う  作者: 早海ヒロ
第3章 ピンクと黄緑の復讐編
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第55話 毒と耐性

「では改めまして」


 オトハとオウランが兄と父を殺してから一夜明け、すっきりとした顔で挨拶してきた朝。

 ノア様の部屋では、その双子が膝をつき、ノア様に頭を下げていた。


「私たちは、貴方様に忠を誓うことをこの場で誓います。お嬢様の敵となるものを排し、生涯をお嬢様に尽くしますわ」

「僕も、右に同じく」

「ええ、よろしくね。期待してるわよ、オトハ、オウラン」

「ふ、ふふふ………お、おおお嬢様が、私にきた、期待!必ずやそのご期待に応えてみせますわお嬢様!」

「え、ええ。そうしてくれると助かるわ」

「オトハさん、鼻血出てます鼻血」

「あら本当、つい感極まってしまって、お恥ずかしいですわ」


 もはや完全にアイドルにガチ恋したオタクのような挙動のオトハにハンカチを貸す。


「あとクロさん、年齢的にもお嬢様の従者としてもあなたの方が先輩なのですから、オトハと呼び捨てで結構ですわ」

「ああ、僕もそれで構わない」

「そうですか?ではオトハ、オウラン、改めてよろしくお願い致します。では早速ですが、我々の秘密の部屋にご案内いたしますので、どうぞこちらへ」

「私のものになったんだから、あそこに連れて行っても大丈夫ね。ステア、あなたも行くわよ」

「ん、ちょっと待って」


 オトハもオウランも同じ立場になったんだから、あの場所に連れて行かなければならない。

 そう、あの大書庫へだ。






「わあっ………!」

「こ、こりゃすごい………」

「蔵書数五十万冊を上回りますが、その九割が魔導書です。王国の王立図書館の蔵書が二十万冊程度なので、その倍以上の知識がここに詰まっています」

「加えて、ここは千年前の大魔術師が作った、外界とは隔絶された場所。さっき通ってきたように、クロの闇魔法ないしはそれが込められた指輪を使わないと中には入れないわ」

「お、お嬢様、聞いてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「お嬢様はなぜこのような場所を知っていたのでしょう?闇魔法というものすら、私は聞いたことが今までございませんでしたわ」

「でしょうね。クロの闇魔法も、ステアの精神魔法も、希少魔法と呼ばれる今は失われた魔法。魔導書も焚書にされていて、ここにしか残っていないでしょう」

「では、なぜ?」

「ここを作った大魔術師というのが、前世の私だからよ」

「「へ?」」


 まあそりゃそうなるわ。

 ノア様は時間をかけ、自分の前世『黒染の魔女』ハルの人生や、希少魔法の力について二人に聞かせた。

 ついでにわたしが異世界からの転生者だという話も。

 いくら信用すると誓ったとはいえ、いくら信用とかいろいろ飛び越えてしまったのが若干一名いるとはいえ、さすがに荒唐無稽すぎて信じないんじゃないかと疑ったが。


「す………」

「す?」

「す、す、素晴らしいですわっ!!」


 うん、杞憂だったようだ。


「そうですか、そういうことだったのですね!お嬢様のその、私とそう歳も離れていないのに大人びた言動や、神と見紛うようなその威光、麗しい容姿、それが前世の記憶を持つ御方だと言うならば合点がいきます!」


 麗しい容姿は前世関係ないと思うけど。


「まあ、オトハの反応は大体想定内だけど、オウランは信じるの?」

「ええ、まあ。ただものではないとは思っていましたし、変に現実味のある話をされるより納得できます」

「そう。それならよかった」


 オトハと違ってオウランはマトモだなあ。

 手のかかる後輩が増えたけど、同じポジションの人が一人増えたからプラマイゼロだと思いたい。


「で、二人にはクロやステアと同じく、希少魔法について学んでもらうわ。オトハがピンク色の、オウランが黄緑色の髪だから―――」


 ノア様は書庫の中腹辺りで本を探し始め、やがて二冊の魔導書を持って戻ってきた。


「『毒劇魔法』と『耐性魔法』。それがあなたたちの才能ね」

「毒劇?」

「耐性?」

「オトハが才能を持つ毒劇魔法は、毒物や劇物を操る魔法。というか平たく言ってしまえば、有害なもの全てを操る魔法と言えるわ」

「人体に有害、ですか」

「で、オウランの耐性魔法は、読んで字のごとく耐性を操る。付与、解除、削除、弱化、強化、自由自在よ」

「へ、へぇ………?」


 オトハの毒は単純だけど、耐性魔法はピンと来ないかもしれない。

 だけど、わたしからしてみれば恐ろしく強力な魔法だ。


「つまり、自身や仲間の魔法耐性や物理耐性を操れば、敵の攻撃が通りにくくなる。逆に相手の耐性を下げてしまえば、普通に殴ったりしただけでそれが致命傷になると、そういうことでしょうか」

「そういうことね」


 なんだそのチート。


「そ、そんな力が僕に!?」

「耐性魔法は、極めれば全希少魔法の中でも五指に入る強力な魔法よ。しかも毒劇魔法と組み合わせれば毒劇魔法の性能を著しく引き上げるわ」

「毒の耐性、仲間にあげれば、オトハがいっぱい魔法を使っても、困らない」

「そういうことよステア」


 なるほど、凄まじい。


「オウランばかりずるいですわっ!私の魔法にも、お嬢様のお役立てる一面はありませんの!?」

「あるわよ、あるに決まってるじゃない。毒劇魔法は人体に有害なものすべてを操ると言ったでしょう?毒だけじゃないわ、細菌、ウイルス、それに薬だって副作用を考えれば人体に有害なものよ。そのすべてを自在に作り出せるのがあなたの毒劇魔法、攻撃力という面から見れば闇魔法にも劣らない素晴らしい力だわ」


 加えて言えば、この世界の毒知識だけじゃなく、わたしの異世界の知識も毒劇魔法には役に立つだろう。

 魔法が発達したこの世界では、科学知識の水準は正直低い。

 だけど異世界の化学の記憶があれば、毒の調合の参考くらいにはなるだろう。

 こう見えて化学は得意だった。あの時代にも、無意識に親を殺したいとでも思っていたのだろうか。

 塩酸、シアン化カリウム、クロロ酢酸、水酸化ナトリウム。

 あの世界は毒を取り扱う免許があるほど、毒であふれていた。


「わたしの知識と重ね合わせれば、この魔導書に書かれている毒とは違う、異世界の毒物を作り出せるかもしれません」

「この世界の毒とあなたがかつていた世界の毒は、やっぱり違う部分もあるかしら?」

「ええ、ざっと魔導書を見ただけでも結構。ってうわ、毒劇魔術師にしか生成できない毒一覧なんてのもある」

「そこは高位魔法の領域だから、まだまだ先の話ね。他にも空気中に漂う魔力そのものを毒に変えたりするのも高位魔法」


 毒劇魔法と耐性魔法。

 オトハとオウランが習得すれば、希少魔術師はノア様を含めて五人になる。

 いよいよ、ノア様の世界征服の時は迫ってきている。


「じゃあ、魔力量を測りましょうか。えと、あれどこいったかしら」

「ここ」


 ステアは、近くにあった体温計―――もとい、魔力計測器をノア様に渡した。

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