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闇に染まった死神は、怠惰で強欲な聖女に忠誠を誓う  作者: 早海ヒロ
第3章 ピンクと黄緑の復讐編
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第52話 双子の復讐:序章

「この中に入れておけば、見つかることは無いわ。ただ念のため鍵をかけておくわね。そしてこの鍵は、あなたたちに渡しておく」


 ノア様は倉庫に鍵をかけ、その鍵をオトハとオウランに渡す。


「ここのスペアの鍵はクロに渡しておくわね。さすがに何も飲まないと死ぬから、クロは定期的にここに来て、水だけ飲ませてあげなさい。何とは言わないけど、漏らしてたら闇魔法で消してあげて」

「え、またですか?消すだけとはいえ、魔法で触れるのも正直ちょっと」


 既に下半身の汚物を大小共に処理した後なんだけど。


「気持ちは分かるけど我慢して、それが一番簡単なんだもの。で、オトハとオウランは、好きな時にここに来て好きなように復讐するなり話をするなりしていいわ。屋敷の人間にも、あなたたちのことは新しく見つけた子だと言ってあるから、屋敷の中を歩き回っても大丈夫。ただしここに来るときは見つからないように」

「わかりましたわ」

「私たちの魔法が必要なら呼びなさい、優先的にそっちに行くわ。ステアにあなたたちの記憶は消させたままだけど、復元する?」

「じゃあ、頼む」

「ん」


 ステアが指をパチンと鳴らす。

 これで、オトハとオウランの記憶がオウガとギフト伯爵に戻っただろう。


「私たちに出来るのはここまでよ。あとはあなたたちの自由。兄と父を殺すもよし、縄を解くもよし。ただ、処遇を決める時は私に一言告げてからの方が望ましいわね」

「………ありがとうございます」

「感謝するよ」

「お礼ならステアに言いなさい。この子が一番頑張ったもの」

「ん。頑張った」

「御馳走を用意していますよ。お腹が空いたでしょう、本当はこんな深夜にご飯を食べるのはちょっと体に悪いですが、今日は特別です」

「ホットケーキがいい」

「いっぱい焼いてあります」


 ステアはその場でピョンピョンと跳ねた。

 とても嬉しいらしい。


「早く食べる」

「はいはい、じゃあ部屋に行きましょうか」

「ん」

「オトハさんとオウランさんはどうしますか?」

「もう少し、ここにいますわ。オウランと少し相談もありますし」

「そうですか。ではノア様のお部屋にいますので、何かあればお尋ねください」

「わかった」


 わたしとノア様はステアを連れて部屋へと向かう。

 階段を上り、ノア様の部屋の扉を開けると、そこにはわたしとニナさんをはじめとする料理人たちが腕によりをかけて作った夜食が並べられていた。


「おおおおお」

「食べていいですよ。ただしちゃんと手を洗ってから」

「いただきます」

「はやっ!?ちょ、濡れタオルでいいのでせめて手の汚れを落としなさい!」


 ステアはかつてない速度で席に着き、ホットケーキにチキンを挟んで食べ始めた。


「まったくもう、一人での任務でちょっとくらい変わったのではないかと思いましたが、むしろ食い気は増したんですね」

「まあいいじゃない、頑張ったご褒美には。しばらく食べさせてあげましょう。ステア、美味しい?」

「コクコク」


 ステアも喜んでくれているようだし、作った甲斐があった。


「ノア様。オトハとオウランは、どうすると思いますか?」

「正直に言えば読めないわね。ただ、あの場で殺してしまうようなことはしないでしょう。少し様子見ってところかしら」


 ステアの絶え間がほとんどない咀嚼音を聞きながら、わたしは話を進める。


「わたしが彼らの立場なら、少しずつ少しずつ血を抜いて、その様子を眺めさせながら殺しますが。あの二人はどのような手段に出るのでしょうか」

「私なら致命傷ギリギリの傷を与えてから回復し、また傷つけるというのを心が壊れるまで続けるかしらね。あの二人がどんなことをするか、楽しみだわ」


 まあ、どんな手段をとるかはあの二人の自由だ。

 多少時間はかかるかもしれないけど、あの二人の意思は尊重しなければならない。

 その後、なんとしてもあの二人の信頼を勝ち取り、仲間に引き入れる。


「さ、私たちも食べましょうか。ステアを待ってて夕ご飯食べてないんだもの、お腹空いたわ」

「ええ、そうしましょう」


 わたしとノア様は、のどを詰まらせないかハラハラするレベルの速度で食べ物を口に入れているステアの横に座り、久しぶりの三人での食事を堪能した。




 ***




「―――ということがあってから、既に一週間が経過したわけですが」

「「………………」」


 オトハとオウランにあてがわれた使用人室の一つの中にて。

 わたしは微妙に顔をしかめて椅子に座るノア様の後ろで、ステアと共に立っていた。

 そう、あれから一週間。一週間もあれば、さすがに事態も動く。

 実際四日前の昼には、ノア様の御父上が部屋に飛び込んできて、こんな会話があった。


『た、大変だぞノアマリー!帝国のギフト家が治める地で内乱が勃発し、平民が武装蜂起したそうだ!』

『な、なんですって!?オウガ様やギフト伯爵は!?』

『その二人は消息不明だ、だが屋敷にいた者たちは全員殺害されたと―――クソッ、我々の計画が!』

『な、なんてことなの………』


 などという、白々しさにも限度があると突っ込みたくなるレベルの話し合いがあった。

 ステアの裏工作は、完璧に実を結んでいたわけだ。

 だがそれ以外は何もなかった。もっと言えば、何もなさ過ぎた。


「この一週間、まったく動かないというのはどういうつもりなの?」

「怪我の跡も、何かを仕掛けられた跡も見受けられませんでした。オトハさん、オウランさん、一体どうされたんです?」

「そ、それは………」

「中に入って話でもしていた?違うわよね、だってあなたたち、入ってもすぐに出てくるもの」


 オトハとオウランは、何も答えない。


「お嬢、心読む?」

「やめておきなさい」

「しかしノア様、このままでは埒があきません。そういった手段に出るのも一つの手ではないでしょうか」


 半分は鎌かけだが、半分は本気だ。

 しかしわたしのこの言葉でも、二人はちょっと気まずそうな顔をするだけで、何も答えなかった。


「クロ、あなたらしくないわね。こういうことは無理やり聞き出したって意味ないわ。自主的に言ってもらうことが重要なの」

「ですが………」

「私はね、今後もわたしのために働いてくれるかもしれない子たちには極力魔法を用いた交渉や話し合いをしないわ。何故かはわかるわね?」

「魔法に頼らない、本当の意味での信頼関係を築くため、ですか」

「正解。その主義がなければ話は簡単よ。そもそもギフト家を潰すなんて回りくどいことすら必要なかったわ。この二人をステアの精神魔法でちょちょいと操って、私たちを強制的に信頼するように仕向ければいいだけでしょう」


 それをしなかった、ということは。

 ノア様は、この二人を本当の意味で理解し、通じ合い、信頼を築きたいと思っているということだ。


「申し訳ございません、軽率な発言でした。お許しください」

「ええ、わかればいいわ」


 ノア様は満足そうにうなずくと、オトハとオウランの方に向き直った。


「食事をとらせていないから、あの二人の命はあと半月というところかしら。それまでに自分たちがどうしたいのか話し合っておきなさい。クロ、ステア、行くわよ」


 立ち上がったノア様は、扉を開けて出て行こうとして。


「………出来なかったんですわ」


 オトハが口に出した言葉でぴたりと止まり、振り向いた。


「出来なかったんだ。兄を、父を、殺すことが。あんなに恨んでたはずなのに、あんなに地獄のような人生を味わわされてきたはずなのに」

「いざ相対すると、『こんなことして何になるんだろう』という気持ちや、曲がりなりにも血縁だという意識が、武器を振り下ろす手を邪魔するのです。どうしても足がすくんで、傷つけることすらできない」


 ああ、そうか。

 この二人は、人を傷つけたことが一度もないのか。

 だからこそ、ちょっとした怪我を与えることすら躊躇ってしまうと。


「ノアマリーさん。私たちはどうすればよろしいのでしょうか?せっかく皆さんに頂いた機会を、このままでは棒に振ることになってしまいますわ」

「信用していない私たちにアドバイスを求めるのかしら?」

「もう、分かっている。あんたらが本気で僕たちを助けてくれようとしていることくらい。………だけど、まだどうしても、信用ってところまでいかないんだ」

「だから、教えてください。私たちがどうすればいいか。私たちはそれに従います。あなたを信用したいのです。どうか、私たちに―――」


 そう言ってノア様に助言を求める二人に、ノア様は。

 ため息をついて、ただ一言。


「知らないわよ、そんなの」

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