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闇に染まった死神は、怠惰で強欲な聖女に忠誠を誓う  作者: 早海ヒロ
第3章 ピンクと黄緑の復讐編
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第51話 おかえりなさい

諸事情で今日はちょっとだけ早めの更新です。

 三日後、ステアが立ってから十三日後の深夜。

 草木も眠る丑三つ時、わたしとノア様、オトハとオウランは、屋敷の裏門にいた見張りをこっそり眠らせ、待機していた。


「ぶえっくしゅん!………来ないわねえステア、連絡が来た時間から考えて、そろそろ着きそうなものだけど」

「ですから、ノア様は中で待機していていいですと何度申せばよろしいんですか。ここはわたしが見ていますので」

「イヤよ、ステアが頑張って来たのに私だけぬくぬくしてるとか、傍から見てダメな主人じゃない」

「心配しなくても、ノア様はもうとっくにダメ人間です」

「クロ、主人に言っていいことと悪いことってあると思うのよ」

「まあそれは置いといて」

「置かないで、ねえ話聞きなさい、ちょっとこっち見なさい」

「そちらのお二人も、中にいていいんですよ?」


 わたしは噛みついてくるノア様をいなしながら、わたしは少し離れたところにいる二人に問いかけた。


「いえ、待ちますわ。あなた方が本当に約束を守ってくださったのか、見極める時ですので」

「そうですか」

「何無視してるのよ、ちょっとクロ。謝りなさい、ダメ人間って言ったこと謝りなさい」

「ゴメンナサイ、しかし本当に来ませんね。何かあったのでは」

「私も前世含めればそこそこ長いこと生きて来たけど、こんなにこころのこもってない謝罪を聞いたのは初めてだわ。もっとちゃんと謝って」

「そんなにダメ人間と言われたくないなら生活態度を改めてください」

「イヤ」

「………あんたら、本当に信頼し合ってる主人と従者なんだよな?」


 オウランの疑いのまなざしにそっと目を逸らし、なお止まらないノア様の謝罪要求にいい加減うんざりして、いっそ全員眠らせて一人でステアを待ってやろうか、でもノア様に危害を加えるのは、と心の中で葛藤していると。


「あ、蹄の音。来たかしら?」


 ノア様がそう言って、全員が一斉に全開になった門の方を向く。

 屋敷の前は坂になっているので、音はするけどまだ見えない。

 次第に音が大きくなり、馬の頭が見えてくる。

 そして馬車の全体が目に映ると。


「………え?」


 そう声を発したのは多分わたし。

 自分が発したのか確証が持てないほど自然に声が出た。

 それほどに、目の前の馬車は異様だった。

 作りは普通の馬車と変わらない。貴族御用達のものなのだろうが、お忍び用の質素なつくりだ。

 だが、その見た目は、お世辞にも普通の馬車と言えるものではなかった。

 恐らく気づいているのはわたしだけ。闇魔術師の特性で夜目が利くわたしだけがその異常に気付けた。


 まず、全体的にまんべんなく、凄まじい量の血がべっとりついている。

 あちこちに穴が開き、馬も心なしかフラフラだ。

 御者席に座っているのは見知らぬ男。生気のない顔で、がくがく震えながら馬を操っている。


「なっ………なに、これ」

「クロ?どうかしたの?」


 やっぱりノア様には見えていない。


「ノア様、緊急事態です。馬車がっ………」

「え、なに………って、なにこれ!?」


 馬車が停止して近づくことによって、ノア様も異常に気付いた。

 オトハとオウランも目を丸くしている。


「こ、これにステアが?」

「まさかっ………ステア!!」


 わたしは馬車へと走った。

 穴だらけの馬車の扉を開くと。

 そこには。


 血だらけになって倒れている、ステアの姿があった。


「嘘、ですよね?ステア?」

「クロ!中はっ………」

「ノア様、来てはだめです!」


 ノア様に確認させるわけにはいかない。

 わたしがやらなきゃ。


「嘘よね?ねえ、クロ?ステアはどうしたの!?」

「そ、そんな………」

「っ………」


 ノア様が叫び、オトハが口を覆い、オウランが歯を食いしばる。

 それを見て、わたしは意を決した。


 ステアに近づき、椅子の上で倒れているステアを抱きかかえる。

 ステアはピクリとも動かない。

 ただそこで。

 悠然と。



「すぴー………」


「………寝てるだけですね。傷一つないです」


 後ろの三人が盛大にずっこける音がした。




「痛たたた………で、でも、血だらけに見えるわよ?」

「全部返り血のようです。おそらく外側のこれも」

「か、返り血って誰のですの?」

「さあ。まあ、とりあえずステアのものではなかっただけよしとしましょう。ほらステア、起きなさい」

「んにゅ………」


 ステアの目が開き、パチパチと瞬きした後、ふぁぁ、と欠伸をする。


「おはようございます。よく眠れましたか?」

「………クロ?」

「はい、クロです。さっそくで申し訳ないんですが、この血とそこの御者の男の説明を」

「………お嬢」

「いるわよ」


 ノア様が近づいてきて、ステアの目線に合わせると。

 ステアはわたしとノア様の胸に飛びついてきた。


「寂し、かった」

「そうでしょうね。ごめんなさい、辛いことを任せてしまって。でもよくやったわ、誇らしいわよステア」

「はい。よく頑張りましたね」

「ん、頑張った」


 大人びているから忘れがちだが、この子はまだ八歳だ。

 やっぱり、想像以上に悲しい思いをさせてしまったらしい。


「もう、こんなの、いや」

「ええ、もうさせないわ」


 でも、本当に良かった。ステアが無事で。

 血だらけの姿を見た時は、本気で一瞬心臓が止まった。


「それでステア。この血はどうしたんですか?あと、そこの男は?」

「山賊」

「山賊ですって?」

「ん。襲われた」


 ほう、うちのステアを襲ったと。


「二十三人で、襲ってきた」

「それで?」

「全員、返り討ちにした。お互いが憎い相手に見えるように操って、互いに斬り合わせた。生き残ったのは、そこの男に斬らせた。そしたら壊れちゃったから、操って御者にした」


 ………おおう。

 二十二人の仲間が互いに殺し合うのを見せられて、挙句に生き残った血まみれの仲間を自分の手で殺した、人間だった人形がそこの男か。

 あまりのショックで精神崩壊を起こしたんだろう。自業自得とはいえ不憫な男だ。


「じゃあそいつもう用済みね」

「ん。クロ、殺していいよ」

「人を殺人鬼か何かのように言わないでいただきたいのですが。まあいいです、《強制経年劣化(マイナス・ライフ)》」


 御者台で震えていた男は、糸が切れたようにその場で死んだ。

 あの状態じゃ飲み食いもまともにできない。寿命が目前だったんだろう。


「オトハ、オウラン」

「………え?わ、私たち、ですの?」

「ん。ちゃんと、連れて来た」

「連れて来た?」

「中、見て」


 オトハとオウランは顔を見合わせ、決心したように馬車の中へと入っていった。


「こ、これは!?」

「マジかっ………!?」


 オトハとオウランの驚愕の声に、思わずわたしも中を覗きに行ってしまう。

 するとそこには。


「お、お兄様、お父様!?」


 縄でグルグルに縛られ、目も耳も塞がれてぐったりする、ギフト親子の姿があった。

 さっきはステアに夢中で気づかなかったけど、ちゃんと連れて来ていたのか。


「しかしステア、これ食事とか与えましたか?」

「あげてない。けど、あげた幻覚は見せた。クロが前言ってた、ぷらしーぼこーか」


 プラシーボ効果。

 超簡単に言えば、思い込みでけがや病気が治ること。

 何かが違う気がするが、まあたしかに、ステアの精神魔法に寄る幻覚の精度を考えれば、何も食べていないのに満腹感を与えるくらいは容易だろう。


「つまり、実際は三日間飲まず食わずですか。死にますよ」

「どうせすぐに死ぬんだもの、いいじゃない。むしろ弱らせるなんて偉いわステア」

「どやっ」


 変な言葉ばかり覚えるステアである。

 あ、いや、教えたのはわたしか。


「それでステアさん?内乱は引き起こせたのですか?」

「たぶん。九九パーセント」

「ほ、本当か?」

「ん、本当」

「まあ、起きたか起きなかったかはどうせお父様が情報を掴むわ。重要なのは内乱が起こったかより、こうしてこの二人がここに連れられてきていることよ。さ、運ぶわよ。誰も使っていない倉庫あったでしょう、あそこでいいわ」

「かしこまりました。ですがここには非力な子供が五人、どうせノア様はやる気ないでしょうから四人しかいません。運ぶのにも時間がかかりますし、誰かに見つかる可能性が無きにしも非ずです。いかがなさいますか?」

「それもそうね。ステア、悪いんだけど屋敷にひとっ走りして、腕っぷしのいい男たちを何人か操ってここに連れて来てくれるかしら?」

「わかった」


 ステアの精神魔法の便利さを改めて痛感させられる。

 ステアは庭師、執事、警備兵、清掃員を連れて来て、四人は二人の男を簡単に倉庫へと運んでくれた。

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