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闇に染まった死神は、怠惰で強欲な聖女に忠誠を誓う  作者: 早海ヒロ
第3章 ピンクと黄緑の復讐編
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第44話 雇われた男

 時刻は翌日の昼。

 わたしとノア様、ついでにオウガは、屋敷の中の案内のためにその辺を歩いていた。

 ステアはこっそりギフト家の全員の記憶を見て回ってもらっている。


「オウガ様、こちらが―――」

「ふむ、なるほど。こっちは―――」


 ノア様たちが話をしている間、わたしは考えていた。


 誰かに見られている感覚はある。

 ノア様がおっしゃっていたギフト家の斥候、ノア様を監視する無法者。

 絶対に殺す必要があるけど、姿が見えない。


(水属性の透明化の魔法で姿を消している?いや、それならわたしの生体感知に引っかかる。ということはまだ監視が始まっていなくて、感じる視線は気のせい?それも無い、ノア様がわざと見晴らしのいいところを優先的に歩いているから、ノア様も感じている。ということは―――)


 どこにいるのかとそれとなく周囲を見渡すけど、どこにもいない。

 ノア様たちから離れないようにしつつ、痕跡を探す。


「………ん?」


 注意深く見てみると、妙なものを見つけた。


(水滴?しかも変な形で、なんであの角度で下に落ちない?)


 近くにあった柱に、指先大の水滴を見つけた。

 はっとして周りを見渡すと、あちこちにそれがある。


 この形。妙な楕円形。

 レンズ?

 つまり。


「ノア様、所用が発生いたしました。申し訳ございませんが少々外させていただきます」

「ええ、わかったわ」


 わたしは水滴の後を追っていく。

 つまり斥候は、ノア様を水で作り出したレンズで監視していたのだ。

 恐らく昨夜設置したんだろう。

 絶妙な角度で水の光反射を利用し、自分の目そのものを監視カメラの映像を映す機械に変えている。

 でも、不自然じゃないように最低限のものしか設置されていないため、ダミーを仕掛ける余裕はなかったようだ。

 つまり、この水滴の角度から次のレンズの方向を予測し、辿っていけば、斥候の元にたどり着く。


 屋敷の中を駆け抜け、やがて外に出る。

 柱、壁、床の隅っこ、木の上、あちこちにあるレンズを追っていく。

 そして、無数に生える木の一本の上に、生体反応を感知した。


「見つけた」


 ノア様の従者となってから七年。

 あの御方をお守りするために、わたしはずっと努力してきた。

 魔法だけじゃない。身体能力も、前世では考えられないくらいに鍛え続け、周囲が森であることを利用してパルクールの真似事なんかもやってみている。

 今はそれが功を奏した。


「逃げないとは殊勝な心掛けですね」

「………………」

「いえ、逃げなかったんでしょうか。ギフト家との関係を知られないようにされているであろうあなたなら、わたしを殺してもギフト家にお咎めが行くことはないでしょうから」


 斥候―――いや、おそらく外部から雇われたプロは、一言も発することなく短剣を抜いた。

 顔つきから恐らく、わたしに負けるとは思っていない。

 けど、ここを見つけたわたしを侮ってもいない、そんなところだろう。

 半分正しい。けど半分間違ってる。


「《影縫い(シャドウジャック)》」

「っ!?」


 周囲の影を実体化して操るお気に入りの魔法。

 彼自身と木々の影を操り、男を縛る。


「我が主に牙を向けたんです。それ相応の罰は与えなければ。………死んでください」

「くそっ………」


 ゴキッという鈍い音と共に、男の首が百八十度回転した。

 木の上から落ちた男はそのまま動かず、わたしは死んでいることを確認する。

 ここ数年で、ノア様の身柄を狙う他国の間者や王国内でノア様を目障りに思う貴族など、実に多くの人間を殺してきた。

 殺すことは好きではない。でも後悔してはいない。わたしやステアからノア様を奪おうとする大罪人。全員皆殺しは当然。


「さて、首だけ持っていけばいいですかね」


 闇魔法で首だけ切り取ってタオルで包み、屋敷の方まで走る。

 中に入り、自分の部屋に戻って首を箱詰めしてから、応接間に向かった。


「皆様、クロです。入ります」

「開いてるわよ。どうぞー」


 中に入ると、ギフト家のほぼ全員とティアライト家の面々がいた。

 オウガはイヤそうな顔をしてわたしの方を見てくる。


「何の用だい?僕たちは今、今後についての大事な話を」

「まあまあ、いいじゃないですかオウガ様。クロ、どうかしたの?」

「ノア様とオウガ様を監視なさっている不埒な輩がおりましたので、対処してきました」

「私たちを監視?」

「なんだと?」


 ノア様が白々しく首を傾げ、他のみんなが困惑する中、わたしは箱を机の上に置く。


「ご確認ください」

「は?………まさか、対処というのは」

「強敵でしたので生かして捕らえるのは不可能と思い、不本意ながら」

「で、この中はその不届き者の首かしら」

「はい」


 ギフト家の面々は怪訝そうな顔をしたが、そっと箱を開けたギフト伯爵が驚愕の顔をしたことで、中に入っているものが生首だと悟ったらしい。


「こ、これは………」

「さすがねクロ、全然気づかなかったわ。どこにいたの?」

「水魔法を使って水滴をあちこちに付け、それをレンズの代わりにして望遠鏡のようにノア様たちを監視していました。本人は付近の森の中に潜伏していたので、不意打ちで首の骨を砕いて殺害に至った次第です」

「し、失礼だがノアマリー殿。その劣等髪………いや、クロ殿は、どういう―――」

「あら、お話してなかったでしょうか?うちのクロは魔法は使えませんが、身体能力と人体の知識を用いて凄腕の魔術師すら殺害する能力を持つ、殺人の天才です。幼少期に拾った時から、私のために努力してくれてますわ」

「勿体ないお言葉です」


 普通は荒唐無稽な話だが、実際に死体がこう用意されていていては信じるしかないだろう。

 まして、この男は十中八九、ギフト伯爵が雇ったプロ。伯爵自身も、おそらく事を進めたのであろう後ろの執事も顔を青くしている。


「クロがいるおかげで、私は安全に生きてこれているんです。やはりこの髪色をしていると、不埒者に狙われやすくて。クロを侮り、私を捕まえに来た者たちは、皆この子が対処してくれてます。ねえクロ」

「はい。我が主を狙う者は、問答無用でその首を落としますので、どうかご安心を。皆様もこの屋敷にいる間は、身の安全を保障いたしますのでご安心ください。もっとも」


 わたしはギフト伯爵の方を見て。


「ノアマリー様の身を狙うようなことがなければ、ですが。ここにいる方々に限ってそのようなことは無いと思いますが、ご忠告させていただきます」


 その後、全員を見渡してニコリと笑い。


「わたしの命よりも大切な主君を傷つけようとなさった場合―――迷わず殺させていただきますので、そのおつもりで」

「なっ、ぶ、無礼な」

「素晴らしいわ!さすが私のクロね!ねえお父様!」

「お、おお、ああ。その調子で、我が娘を頼むぞ」

「かしこまりました」


 まだ状況が呑み込めてないらしいオウガが抗議しようとしたが、その前にノア様のサポートによって言葉を発するタイミングを潰す。

 そして事情を知るギフト家の者たちは、ますます顔を青くする。

 もし、この男を差し向けたのが自分たちだとバレたら。そう思っているんだろう。


「ところでクロ、この男はどうして私とオウガ様を狙っていたのかしら?」

「どちらを狙っていたのかわかりかねますが、不意打ちしなければ勝てないほどの相当の手練れでしたので、おそらくそれなりに財力のある者たちの雇った殺し屋ないしは攫い屋と思われます。ステアに調べさせますか?」

「そうね。ステア、この男の雇い主を調べるのにどれくらいかかるかしら?」

「一日あれば、たぶんわかる」

「っ!?」

「さすがよステア、情報収集と分析の天才は言うことが違うわ!」


 昨日打ち合わせたわたしたちの芝居によって、場の空気が変わっていく。

 侮りまくっていた劣等髪たちが、魔法を用いない部分で頭角を現す天才。

 こうなれば次なる手は一つしかない。


「い、いや、それには及ばない!この男には見覚えがある、おそらく我々を狙った帝国の者の犯行だろう!なあ!」

「そ、そうですな。こちらで対処いたしますので、そちらの手を煩わせることは―――」

「あらそお?遠慮しなくていいのに、ねえステア」

「ん。絶対に見つけられる。その男を雇ったの、誰か」

「そうなればわたしがその雇い主を殺して、毎回それで終わりなのですが」

「それには及ばぬ、さあこの男の首を運んでおけ!」


 オウガ以外の連中は、これで恐らく理解した。

 自分たちは見逃されただけだと。


 ―――わたしたちは帝国に付きたいけど、お前らに主導権は握らせない。

 首根っこを掴んでるのはこっちだ、間違えるな。


 そう暗に言っているのだと、勝手に勘違いしてくれる。

 これでこいつらは、わたしたちに手出しできなくなった。


 あとは五日後、その双子が来るのを待つだけ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 凄いゾクゾクする展開ですね! もうキャラクター達の手際の良さや口の上手さに興奮が止まりません!
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