表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇に染まった死神は、怠惰で強欲な聖女に忠誠を誓う  作者: 早海ヒロ
第3章 ピンクと黄緑の復讐編
47/445

第42話 双子の劣等髪

 今、なんて?

 この男の弟と妹が劣等髪?

 それってつまり。


「本当、なんですか?」

「ああ。弟と妹は双子でね。どちらも劣等髪を持って生まれてしまった。だが伯爵家の子が、しかも二人も劣等髪となれば、体裁が悪すぎる。そこで二人は死産ということにされて、家の中に軟禁されているのさ」


 そんなことを得意げに話すこのオウガに、わたしはシンプルに嫌悪感を持った。

 今までは面白さが勝っていたけど、ここで一気にわたしの中のこの男の株が下がる。


「可哀想に。しかし、死産ということにしたのなら何故本当に殺さなかったのでしょう?」

「そこがうちの両親の甘いところでね。さすがに腹を痛めて産んだ子供を殺すことはできなかったらしい」

「それが親心というものなのでしょうか」

「かもね」


 当初の計画では、ノア様がこの男を篭絡し、劣等髪が好きだと言って帝国内の希少魔法の才能持ちを探させる予定だった。

 しかしここで、最高の形で計画が狂った。

 探すまでもない。この男のそばに、既にわたしたちが探し求めていた存在がいる。

 しかも二人も。


「あの、オウガ様。よければその二人、わたしの所にいただけないかあなたの御父上と相談することはできないでしょうか?」

「ええ?あの二人を?本気かい?」

「劣等髪を集めるのが私の趣味なもので、お恥ずかしい。無論、彼らの身分は捨てさせますし、あなた方とのつながりも絶対にわからないようにすることをお約束いたします」

「うーん………父がなんていうかなあ」

「一応、話を通していただけませんか?」

「まあ、聞いてはみるよ」

「ありがとうございます!あ、私ちょっとお手洗いに―――」


 ノア様が席を立ち、わたしとステアがそれに続く。

 扉が閉まり、少し歩いたところで魔法を解除した。


「あの男の話は確か?」

「ん、嘘言ってなかった」

「てことは、本当にあの男の弟と妹は希少魔法の才能持ちなんですか?」

「そう。ピンクと、黄緑だった」

「ステア、大至急ギフト伯爵の所に行って、その二人をこっちに渡すように精神状態を操ってきてちょうだい」

「わかった」


 ステアが歩き去るのを見届けると、ノア様はわなわなと震え始めた。


「ふ、ふふふふ………!」

「ノア様、大丈夫ですか?」

「ふふふ、あはははは!クロ、私は歓喜でおかしくなりそうだわ!」

「そんな顔してます。ノア様が叫んでくださるので、私は冷静でいられます」

「まさかこんな早くに見つかるなんて、しかも二人も!?幸運すぎて涙が出そうよ、今だけは金髪が吉兆の証っていう迷信を信じたいくらい!」

「ええ、わたしもそう思います。本気でびっくりしました、まさかそんな奇跡があろうとは」


 たまたま父親同士が進めた縁談の相手が、たまたま劣等髪を集める娘と劣等髪を弟妹に持つ兄。

 どんな確率だろうか。


「しかしノア様、期せずして帝国の希少魔術師候補を見つけるという我々の計画が達成しかけているわけですが。あの男、どうします?」

「あの男もギフト伯爵も、もう用済みよ。だけどその希少魔術師候補があの連中の家族となれば事情が変わってくるわ。その子たちが彼らに恨みを抱いたりしてなければ、やり方を考え直さないといけないわね」

「では、その二人をこちらに抱き込み、意見を聞いてから彼らの処遇は考えると、そういうことでしょうか?」

「ええ。クロとステアを侮辱したあの男に制裁を加えられない可能性があるのは不本意だけど、背に腹は代えられないわ。まずはその二人に会うことが先決よ」


 ノア様はそう言って、壁に寄り掛かる。

 その顔は最近よく見る、悪い顔になっていた。


「まあ、十中八九恨みは持っているでしょう。軟禁状態といえば監禁よりマシと取れるかもしれないけど、閉じ込められていることに変わりはないわ」

「実力至上主義である帝国です、おそらく家の中の人たちからも冷遇されているでしょうね。弟妹のことを語るオウガの顔も、侮蔑の表情が浮かんでいました」

「もしその二人がギフト家に報復をしたいと考えているなら、私たちも容赦なくあそこを攻撃できる。そうすればあの忌々しい馬鹿男との結婚話も破談、証拠は残らない。何せ闇魔法と精神魔法は完全犯罪にとっても向いた魔法だもの」

「その犯罪者が好んで使う魔法みたいな言い方辞めてください」


 上機嫌でウキウキしているノア様は、爽やかな顔で外道なことを言い出した。

 まあ確かに、一般にその存在が知られていない闇魔法と精神魔法は、極めてこういった完全犯罪に長けた魔法だ。

 闇魔法は寿命を奪ってしまえば死因が分からずに病死扱い。

 精神魔法に関しては他人の記憶を操作して殺させれば犯罪のなすりつけが可能。

 DNA鑑定とか指紋鑑定とかがないこの世界じゃ、完全犯罪は割と簡単にできる。


「おっと、そろそろ戻らないと怪しまれるわね。戻るわよクロ」

「はい。あ、その前に顔を戻してください」

「こうかしら?」

「さすがノア様、完璧です」


 部屋に戻るところで、無事にギフト伯爵の精神を書き換えたステアも合流し、わたしたちは扉の前で待機し、ノア様が扉を開ける。


「ごめんなさいオウガ様、遅くなってしまって!いっぱいお話しできましたし、そろそろ戻りませんか?」

「ああ、そうだね。そうしようか。あと様はいらないと―――」

「さ、行きましょう!あなたの弟と妹のことも知りたいわ!」

「あ、ああ」


 意地でも「様」は外したくないらしい。


「クロ、ステア、あなたたちも戻るわよ。お父様たちもそこそこ話が終わっているでしょうし!」

「かしこまりました」

「ん」


 わたしたちはノア様とオウガが部屋を出るのを待って、後ろからついて行く。

 オウガがすれ違う時、わたしたちを哀れむような目で「フン」と鼻を鳴らしたのは、ノア様が嘘でわたしたちをペットと同義扱いしたことを本気にして、自分がノア様の一番近くにいると勘違いしての行動だろうか。


「お父様、ただいま戻りました。とっても楽しかったです!」

「ダディ、僕は話して確信したよ。やはり彼女こそ、この僕の伴侶となるにふさわしい存在だと………!」


 応接間に戻って、にこやかな笑顔のノア様と気持ち悪い笑みのオウガ。

 オウガに「あなた、利用されるだけ利用されて最後はポイ捨てされますよ」と言ってみたい。


「それでダディ、相談があるんだけど」

「どうした?」

「ノアマリーが、僕のあの弟と妹に会いたいと言うんだ。まったく困ったハニーさ」


 誰がハニー?

 ノア様は蜂蜜っていうより蜂そのものだろ。


「いいとも。お安い御用だ、すぐに連れてこさせよう。おい、誰か馬車を一台引っ張って、あの二人を連れてこい」


 普通は一家の恥である劣等髪を外に出すような真似をしないだろうが、ステアによって認識を微妙に操作されている伯爵はいとも簡単に了承する。


「よ、よろしいのですか旦那様。あの者たちは―――」

「良いと言っているんだ。さっさと連れてこい、急げば六日で戻ってこられるだろう」


 ギフト家の執事たちは戸惑っていたが、やがて御者と護衛が外に出て行った。

 こいつらのこの家での滞在は一週間の予定。ギリギリになるけど、間に合うならいいか。

 ティアライト家の面々は、またノア様が何かを企んでいることを察したようで、だが知らないふりをしている。

 ノア様の思惑の邪魔をしたらどうなるかわからない人間など、この屋敷にはいない。


 一通りの話し合いが終わり、夕食までの待ち時間で、わたしたちはノア様の部屋へ戻った。

 そこで、ちょっと気になったことを聞いてみる。


「ノア様、一つお聞きしても?」

「なにかしら」

「あのオウガという男をどのように思っていらっしゃいますか?」


 ノア様はキョトンとし。


「喋る使い捨てアイテム、かしら」


 何の陰りもない、微塵も嘘をついていないような顔で、そう言い切った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ