第452話 第1決戦・ステア&スイvs那由多2
「……始めよ」
私は、目を開けて呟く。
少し遅れて目の前のナユタと、隣のスイも目を開け。
「な、なにが……ってどこここぉ!?」
「準備がいいね。こうなることを見越して用意してたのかな」
「ん。頑張った」
辺りを見渡すとそこは、到底さっきまでいた城の中とは思えない場所だった。
クロとナユタの、前の世界みたいに高いビルがあちこちに並んでる。
けどそれは長方形じゃなくて、円柱。
まあ、見た目的には限りなくホットケーキに近い。
私の大好物が巨大になって、所狭しと並べられている。
「……いい」
「ホットケーキ好きとは聞いてたけど、ここまでか」
「い、いや、それもそうなんだけど……それより……」
何より素晴らしいのは、あちこちにいるこの世界の“住民”。
色とりどりの彼らが、ダンスしたりデートしたり、楽しそうに過ごしている。
そんな彼らの見た目は、私が大好きな大好きな、ゴラスケに酷似していた。
「なんて、素敵な眺め。こだわった甲斐が、あった」
「……人の趣味にとやかく言うつもりはないけど、夏風邪引いて1人で寝てる時の夢みたいな光景だ」
「1匹なら大したことないのに、あれだけいられると……メンタルに来る……」
こんなに最高の環境を用意したのに、何故かナユタとスイは不服そうだった。変なの。
「ま、こんな恐……個性的な世界を見れば、スイピアもここがどこか分かるんじゃない?」
「まあ、さすがに……ステアが作り出した精神世界、ってところ?」
「ん。正解」
ナユタがこういう手段に出てくることを予想し、あらかじめ作っておいた。
物質として存在していないとはいえ、1つの世界を構築するのはかなり骨が折れたけど、結構楽しかった。
「……でも、なんでこんな回りくどいことを?ナユタは今は魔法が使えないし、現実で戦った方が良かったんじゃ」
「できない理由が、2つ。1つ、現実世界に、ナユタを、置いとくと、何をするか、分からない」
言霊魔法を失ったとはいえ、私を遥かに上回る頭脳は未だ健在なナユタを相手に、現実で戦うのは無理がある。
武器、薬、その他奥の手、彼女が密かに作っていた数々のオーバーテクノロジーを制限するためにも、精神世界へ引き込むのは必須だった。
「なるほど。万が一にもこいつが外に影響を及ぼさないようにってことか」
「……その2。やられっぱなしで、いられないから」
「なるほど。……え?」
私は至極当然のことを言ったつもりなんだけど、スイは困惑の声を発した。
「やられっぱなしって……勝ったじゃん、ナユタには」
「……負けた」
「へ?」
「問題の出し合い、チェス、将棋、チェッカー囲碁オセロその他もろもろ。色々挑んできて、現状43戦0勝だもんね?」
「………………」
ナユタとの最初の戦い、私はあれを勝ちと思えなかった。
策という策に翻弄されて、窮地に陥り続けていた。
それが悔しくて、癪で、むかついて……何度も挑んで、そして負け続けた。
「そんな私を打ち負かす、絶好の機会だ。君にとっても、この展開はチャンスだったんだろ?」
「そう」
もう絶対負けない。
だって、私は天才だから。
最強で、奥の手で、切り札で、お嬢にとっての特別だから。
「ふっ……あははは!」
「なにが、おかしい」
「いや、つくづく私に似てると思ってね。特に実は負けず嫌いなところがさ」
「……?負けず嫌い?」
私は思い返す。
……そんな記憶はない。ナユタとのバトル以外。
「そんなこと、ない」
「あるんだよ。今までは勝って当たり前だったから気づかなかっただけでさ」
あ……。
そういえば私、クロ以外に負けたことなかった。
そのクロに負けた時は……その後、たしか……。
『ピンゾロ。私の、勝ち』
『……ステア、やりましたね?』
『なにを?』
『とぼけないでください。私の振り方を見て真似したでしょう』
『してない』
『してないわけないんですよ、4連続ピンゾロなんて!わたしが死ぬ気で習得した出目操作を簡単にコピーしないでください!』
…………。
あ、私、負けず嫌いかも。
「そういえば君、クロにポーカーで負けた時、次から7連続ロイヤルストレートフラッシュ出して負け分取り返してなかったっけ……」
「した」
そんな記憶がちらほら。
クロの手つきをよーーーく観察して、何回か練習して真似て。
それでクロと一緒に、お嬢とルシアスとタッグバトルして、身ぐるみ剥がすくらい勝ち越して怒られたっけ。
「ね。そんな負けず嫌いの君だから、こういう感じで来ることは予想してた」
……ナユタにお見通しだったのは、なんかムカつく。
「久音のあれは芸術に近い見事な技術だけど、イカサマはイカサマだからね。ステアちゃんはそれをやり返して勝ったに過ぎない。一方で私には純粋な実力不足で負けた。だから負けず嫌いな君はこう考える。『絶対に同じ土俵で勝ってやる』ってね」
そこまで読んで、わざわざ本来は基本効かない精神魔法をわざと食らったのか。
「さあ、聞かせてよ。この精神世界のルールを」
この世界は、私が作った。
ここは精神世界。夢のようなもの。
作った私が、自由にルールをいじくれる。
「……この世界は、魔法の、発生ハードルを、限界まで下げてある」
「ほう?」
「構築理論さえ、理解してれば……どんな魔法でも、使用が、可能」
「へぇ」
「え!?」
ナユタが面白そうな顔をして、スイが「聞いてない!」とでも言いたそうな声を出した。
「実体を用いないから、魔力は、無制限。好きなように、魔法を、使える」
四大魔法でも覚醒魔法でも。
闇魔法でも光魔法でも、精神魔法毒劇魔法耐性魔法空間魔法時間魔法、封印魔法金属魔法死霊魔法伸縮魔法模倣魔法植生魔法波動魔法破壊魔法創造魔法―――何も問わない。
その理論と発生原理さえ分かっていて、かつそれを自分が使うイメージを構築できるなら。
理論上、この世界では全ての魔法が使える。
しかも、無制限の魔力により、出力制限無しの状態で。
「……勝利条件。現実なら死亡する程度のダメージを、相手に与える。もしくは、この精神世界の、外縁へ、相手を押し出す」
どちらか一方が条件をクリアした瞬間、この世界は消えて現実に戻る。
そして、負けた方は約半日、無条件に《精神崩壊》を受けたのと同じ状態になる。
この世界に入り込んだ時点でこの条件を受け入れたとみなされるから、ナユタでも防ぐことはできない。
「なるほどね。知識とイメージがものを言う世界、か。スイピアを連れてきたのもそういうことだね?」
「ノーコメント」
「ははっ」
「こっちは、2人がかり。だから、ナユタは、どちらかを相手に、条件を満たせば、勝ち」
「ふーん。私はどっちもでも構わないよ」
「それじゃ、ただの、卑怯」
勝ってやる。
これが私の……私たちの、最後の任務だ。
Q.クロはどれくらいの頻度でイカサマしてるの?
A.ほぼ全部。どうしても手癖でやっちゃうので、自分でも気づかないうちにエグい役揃えてたりする。
Q.クロのイカサマはどれくらいの精度?
A.那由多はクロがイカサマすることを「知ってる」から防げるだけで、その場で「見破る」ことはできない。それくらいの精度。




