第450話 マッチアップ
リーフとクロが飛び出していき、場は不気味な静寂に包まれていた。
あまりに急な状況についていけない者、我関せずと自分の相手のみを見据える者。
自分の大切な人の覚悟を目の当たりにして、兜の緒を締めなおす者。
やがてゆっくりと、ノアが口を開いた。
「さて……1対1になったわね」
それに呼応するように、ルクシアもまたニタリと笑いを浮かべた。
「あはは〜。1000年前のリベンジマッチだね、ノアちゃん♡」
「そうね。まだハルと名乗っていた頃の、唯一の屈辱―――」
光の剣を作り出し、切先をルクシアに向け。
「晴らさせてもらうわよ」
「ふふっ……」
ルクシアはその姿を、瞬きもせず、ただ愛おしそうに眺めている。
「ハルちゃんとワタシの戦績は、21戦中2勝0敗19引き分けだったかな?勿論ワタシが2勝ね」
「学生時代の1勝、アンタが薬盛った疑惑晴れてないわよ」
「……やってないよ?」
「目見ろ」
初めてルクシアがふいっと目を逸らした、その瞬間―――。
ズガンッ!!
「ちっ……」
「おー?思ったより速いね。頑張ったんだねぇ、偉い偉い♡」
鈍い音と共に、ノアの蹴りが炸裂した。
しかしルクシアはそれを片手で掴み、そのまま腕を捻って転ばせようと企む。
「《動くな》」
「!」
ガチリと、唐突にルクシアの動きが止まり、その瞬間に剣が首を狙う。
だが瞬きの瞬間には動き出し、少し肉を抉る程度にとどまった。
「ルクシア様!」
「つうっ……あー、そっかそっか。《言霊魔法》かぁ……」
「やっぱりね。比較的弱い言霊なら通ると思ったわ」
那由多から受け取った言霊魔法は、生物を相手にする場合、言霊の力は意思で抵抗が可能。
だが、言霊を発する相手を信頼している場合、それが難しくなる。
「私のこと大好きなあなたなら、そりゃ受けるわよね」
「みたいだねぇ。けどさすがに、ナユタほど絶対的な影響力や出力はないみたいね?」
「それでも、貴方を殺すには十分よ」
流石に《死ね》や《潰れろ》といった、直接的に相手を仕留められる言霊が通用するとはノアも思っていない。
だが多少動きを封じる程度なら、那由多によって魔力量が増大した今のノアの状態と才覚を用いれば可能。
ノアは確信した。今ならば、この最悪の敵に届きうると。
「今日こそ、その息の根止めてやるわ」
「あはぁっ、いいねその顔!いいよぉ、そういうの大好き!」
彼女の怨敵は、その姿に頬を紅潮させ。
「決意!覚悟!自信!……その全部を打ち砕かれた時、どんな顔するのか!ああああ、見たい見たい見たい見たい!!早く見たくて仕方がないよぉノアちゃん!!」
「キモッ」
ノアはうんざりとした顔をしながらも、眼前の敵を見定める。
そして、後ろで待機していた側近たちに、そちらは向かずに声をかける。
「ステア」
「《精神崩壊》」
「おぶっ……」
史上最強の精神魔術師の殺意に溢れた攻撃が、ルクシアに飛ぶ。
若干前のめりにはなったものの、それを抵抗。だがその隙をルシアスが穿つ。
「《異力切断》!!」
最高位魔法並の威力を誇る空間切断魔法が、ルクシアを斬り裂くため振り下ろされる。
だが。
「おい」
「うおっ……!?」
振り下ろしの直前、何者かがルシアスの腕を軽々と捻り、その軌道をズラした。
「だあっぶなぁ!?何すんだ!」
「いや、俺じゃ……!」
軌道の先でルクシアへの追撃を試みたオウランを斬りかけた斬撃は、柱を1本落として止まった。
***
「……なるほどな、お前か」
「ふんっ」
「どうあっ!?」
自分を止めた相手への攻撃を仕掛けたルシアスは、逆に逆側の壁まで吹き飛ばされ、壁に大穴を空けた。
「あんたみたいなむさ苦しい筋肉ダルマが、お姉様に触れようとするなんて烏滸がましいっての」
「随分だなおい」
一瞬で戻ってきたルシアスを待ち受ける者。
ルシアスを最強の剛とすれば、彼女は最強の柔。
「あんたとはリンクが遊んであげる。一生モテない人生の唯一の癒しよ。噛み締めろ」
「何だこの野郎!!」
―――リンクvsルシアス。
最強の武を決める戦い。
***
「このっ……!」
「ちっ!」
ルクシアへの追撃を仕掛けたオトハとオウランを、2つの人影が止めた。
「僭越ながら、あなた方のチームワークは厄介ですので。こちらも2人がかりで止めさせていただきます」
「強い繋がりを持つのはお前たちだけではないと教えてやる」
「はっ!繋がりってなんですの、下ネタですの?堅物っぽく見せかけてるやつに限ってむっつりスケベっていうのは本当だったんですのね!」
「んなあっ!?き、貴様、いや、ちが……!」
ーーーケーラ&メロッタvsオトハ&オウラン。
最も強い繋がりを持つのはどちらか。
***
「……え、嘘でしょ?」
ケーラとメロッタがオトハ、オウランを迎え撃った直後、ルクシアを守ろうと死体人形を動かしたホルン。
しかし人形たちは、予想だにしない方向から消し炭にされてしまった。
それを成したのは……。
「……見定めたぞ。お前がワシの、生涯最後の敵だ」
「あー、おー……そういう感じ?」
ーーーホルンvsフロム。
復讐は果たされるのか。
***
「……お嬢」
ノアとルクシアの死闘の最中、ステアは静かにノアを呼んだ。
「ええ。任せたわよ」
ノアは振り向かなかった。どういう状況かは察しがついていたから。
「その異常者を止められるのは、あなたしかいないわ」
「お前に異常者だなんて呼ばれたくはないね」
ステアの前に、立ち塞がる者がいた。
精神魔法を使う気配を見せれば、即座に気絶させられる距離で。
「な、なんのつもり……!?」
スイが叫ぶが、それすらも無視した女。
……那由多は、ゆっくりとステアへ微笑んだ。
「君ならわかるね?」
「わかる」
「じゃあ始めよう」
「ん」
若干1名を置いていったまま、天才たちの会話は進む。
「スイ、てつだって」
「……ん?え、ボクがぁ!?」
「他に、いない」
「いや、ちょっ、なんでナユタを……そもそも、ボクは彼女が……ていうか、今戦う理由は……」
「ナユタ、はじめよう」
「いつでも」
「話聞いてよ!?」
ーーーナユタvsスイ&ステア。
天才たちの、互いへのリベンジマッチ。
***
ーーーギギイイイン!!
「ふっ、あは、あはははははは!!」
「なんでずっと笑ってるんですか……」
「当然、この日をどれほど待ちわびたか!」
「そうですか。わたしは緊張で吐きそうですよ」
ーーーリーフvsクロ。
互いの人生を賭けた戦いが白熱する。
***
「2人きりだね♡」
「……そうね」
互いを知り尽くす2人が、相手に合わせて構える。
この日、決まる。ノアが、世界の頂点に立てるか否か。
「ああ……思い出すねぇ、この緊張感。どっちが勝つか分からない、最高の時間……!またこんなこと出来るなんて思ってなかった!そういう意味ではナユタに感謝しなきゃ!」
「あっそ。いいからさっさと消えて」
「ふふっ!その減らず口、ワタシに媚びへつらう言葉に変えるよう躾けるのが今から楽しみだねぇ……!」
ーーールクシアvsノア。
愛憎と因縁の、最後の戦い。
クロvsリーフを楽しみにしてくださっていた方々へ。
もうちょい先です。ごめんなさい。
次回、ステア&スイvsナユタ。れでぃーふぁい。




