第447話 三つ巴
瞬く間に、2日が経った。
各々、好きなように時間を過ごしたんだろう。心なしか晴れやかな顔をしていた。
それで悔いがなくなる……なんてことは絶対ないだろうが、少し薄める程度はきっと出来たんだろう。
「ノア様、我々はいつでも」
「ええ」
全神国から連れてきたアマラの後ろに立ち、ノア様はわたしたちを見渡す。
「色々と、あなたたちに伝えたいことはあるわ。けど」
「今言う気はない、ですよね」
「分かってるわね、私のこと」
ノア様の御言葉を聞くには、勝つしかない。
それも、全員生き残った上で。
「用意はいい?」
全員が頷き、ノア様はアマラに手を置いた。
ステアの力で最適化された拡声能力が、世界に伝わっていく。
『さあ、始めるわよ』
何かを決意するように、一言一言丁寧に言葉が紡がれていく。
『世界は二分された。私たちとディオティリオ帝国でね。そして今日、決まるわ。世界の王が』
1度、深呼吸が入った。
やがてノア様は前のめりになり。
『……勝つのは私。私が世界の王よ。かかってきなさい―――リーフ、ルクシア』
直後。
―――ガシャアアアアアン!!!
「ふっ……ふふっふふふあははははははははは!!」
那由多主導の元、かつての世界の技術を元に生み出された強化ガラスを一瞬で粉々にして飛び込んできたのは。
「ああ……この日この時この瞬間、どれほど待ちわびたか……!あふっ、ああダメ、ニヤケが……ふふふふふ!」
出来れば消えて欲しい不愉快な顔だったが、今回呼びつけたのはこっちだ。
わたしの横にいる子からとんでもない殺気が放たれている気がするが、見ないでおこう。
「ああノアちゃん……ノアちゃんノアちゃんノアちゃんノアちゃんノアちゃん!!本物の!!ノアちゃああああああああん!!」
「……なんであの女は、こんな僅かな時間で人を不快に出来るの?」
「そういう星の下に生まれたとしか」
ステアほどじゃないが、わたしとて怒りはある。
不倶戴天の敵。世界最強の魔女。最悪の狂愛者。
「……ふふっうふふふふふふ!!さあ、心の準備はできてるかなあノアちゃん!!ワタシの可愛い可愛い可愛い可愛い妻になる準備は!!」
「……死ね」
「ああもうっ、またそんな言葉遣いして!!でも大丈夫、ちゃんと矯正してあげるから!え、どうやってって?それは勿論」
「ルクシア様。それ以降はセクハラにあたりますのでご自重ください」
「いや、飛び込んでからの台詞ずっとセクハラだったと思うけど」
遅れて割れた窓から入ってきたのは、あれの仲間たち。
ケーラ、メロッタ、リンク、そして永和……いや、ここは敢えて、ホルンと呼んだ方がいい、か?
いや、無理だ。やっぱりわたしにとって永和は永和だ。
「……今日は、手加減抜きですよ」
「うん。アタシだってそのつもり」
今日に備えて来たのだろう、かつてないほどにピリッとした顔をした親友を見て、わたしも何度目か分からない深呼吸をした。
「さて……じゃあ、ノアちゃん。改めて聞くね?」
ルクシアはノア様に向け、手を広げる。
まるで「来い」とでもいうように。
「ワタシと結婚しよ?」
「……はっ」
鼻で嗤われた。
「戯言ほざいてる暇があったら、辞世の句でも考えてれば?」
「うーん、そんなつもりは1ミクロンもないんだけどなぁ」
相変わらず、ふざけているように聞こえてまったく嘘がないのが恐ろしい女だ。
「仮にあなたみたいな、重くて束縛癖しかない、私と配下以外の命なんて豚の餌以下だと思ってる、寝起きが悪すぎるくせに夜更かしが治らなくて妙なところで潔癖やこだわりを発揮する、頭のおかしいサイコ女と結婚したとして」
「そこまで言う!?」
やけに具体的だったな今……。
「あなた、私の大切な子たちはどうする気?」
「………」
「殺す気でしょう?最低でも2人は」
「あはは~」
2人……。
チラリと横を見て、その2人を見た。
「そうねぇ~。クロさんはホルンの手前殺せないし、オトハさんとオウランさんも、ワタシの脅威にはなりえないからまあ、いいかな?ルシアスさんも、他の人たちほどノアちゃんへの執着がないからセーフ。でもねー」
笑顔で、だけど明確に殺気を放ち、ルクシアは初めてノア様から目線を外した。
「そっちの2人は、ダメかなぁ」
視線の先は、ステアとスイ。
2人も負けじと、ルクシアを睨み返していた。
「ステアさんは危険すぎ、スイピアは論外。けど逆に言えば、被害がそれだけで済むよ?」
「あーあ。ボクら嫌われちゃったねぇステア」
「……上等」
そう言ってステアは中指を……ちょっと待ってほしい、誰だあれステアに教えたの。
まさかわたしか。わたしがルクシアに向けて立てたのを見られたか。
「最初に戦った時は、やらかしちゃったからねー。……でも、今回はそうはいかない」
「でしょうね」
5年前、わたしたちが辛うじてルクシアを退けることが出来たのは、ステアとスイの「1周目」の記憶と経験があり、かつルクシアが1000年無敵だったことによる油断、加えてスイへの憎しみによる判断力の低下、更には相手の仲間の能力が発展途上だったことも大きい。
だが今回は違う。ノア様が世界の王となるためには、わたしたちの総力戦ではなく、ルクシアを正面切って、ノア様だけで倒す必要がある。
それがノア様が世界最強として君臨する条件だ。
更に周りも、転生者であるリンクは言わずもがな、恐らく過去最強の死体人形を揃えているであろう永和、那由多の元で修業した記憶を持つメロッタ。ケーラは未知数だが、個人的には下手をすれば一番厄介な可能性すらあると思っている。
傑物揃い。こちらも以前とは比較にならない強さを手にしているとはいえ、勝てるとは言い切れない。
……それに加えて、もう1組いるときたものだ。まったく面倒この上ない。
「さて、じゃあ早く始めたいところなのだけど……まだ役者がそろってないかしら?」
「そろそろ来るでしょう」
その1秒後。
―――ドカアアアアン!!
わたしたちが手塩にかけて作り上げた、大事な城の外壁をぶっ壊しやがりながら、突入してきた影が2つあった。
そのうち1つは車いすに座り、ゆっくりと降りてくる。
そしてもう1つは、その闘気殺気を隠そうともせず。
「……期待。待ちわびた」
「ああ……そうだな」
ゆっくりと降り立った、緑髪の天才。
数百年に1人の逸材、現代最強の軍人、生粋の戦闘狂。
「……お久しぶりです。あとで壁治してくださいね」
「拒否。どうせもぬけの殻のはりぼてとなる」
現ディオティリオ帝国兵団総団長、リーフ・リュズギャル。
そして車いすに座り、衰えながらもその瞳だけはぎらつく男、フロム・エリュトロン。
新旧最強の帝国騎士が、顔を揃えてやってきた。
「謝罪。少々遅れた」
「フロムを運んでたんでしょう。別に構わないわ、まだ始まってないし」
三つ巴の三首が、結集する。
次回更新は1月5日予定(10日なる可能性が50%)です。
今年の投稿は以上となります。2025中に完結予定とのたまった阿呆は、未だに最終決戦の1組目すら到達しておりません。
さすがに、2026中には終わります。皆様よいお年を。
そして、来年以降も拙作をよろしくお願いいたします。




