第445話 建立
「はい、内装はこちらの資料に合わせて……ええ、そんな感じです。客室はそちらにお任せします。期間は―――」
―――かつて那由多と戦った大陸。
そして1000年前、ルーチェの国「聖光国ルミエール」と、ハルの国「魔女国オースクリード」があった大陸。
そのオースクリードの跡地に、わたしたちは新たに城を建てていた。
「クロさん、第1の門でトラブルだ!工事頼んでたヤツらが粗悪品掴まされてたっぽい!」
「……売りつけてきたヤツらの元にルシアス派遣です。ただし1時間で帰ってくるように言ってください。彼がいなければ魔獣の掃討が停止する」
「分かった!」
「その粗悪品、まだ建設に使ってませんよね?簡単な寮を作る予定なので、そっちに回します。運ぶよう命じておくように」
「了解!」
帝国とわたしたちで世界を二分するより随分前から着手はしていたが、今の状況になってわたしたちもこちらに駆り出された。
そりゃ、あの御方の希望通りに創るにはわたしたちが不可欠かもしれないが。
「クロさん!裏門側に革命の動きがあると!」
「殲滅!あなたが!」
「私が!?」
「他に誰がいるんです!できるだけ惨たらしく殺してください!早く!ゴー!」
「りょ、了解……」
ステアかがいればリアルタイムで情報を共有できるが、今は就寝中。
故にわたしが代わりを担うしかない。あまりに分不相応すぎる。
「はい、そちらの納期は―――ええ、そっちの方はもうすぐ―――給与面に関しては固定給と、出来高に合わせて―――」
「クロ!」
「今度はなんです!」
「エントランスホールの方で、爆弾巻き付けたやつが4人、何かを訴えてるって!」
「あなたが何とかしなさいそんなもの!もし爆発させたらシバき倒しますよ!」
「ええっ!?」
「とっとと行きなさい!ダッシュ!」
「な、なんか主様に似てきてない君……?」
「ああ?」
「なんでもないです!」
……いけない、またどこか暴力的になっている。
ステアの起床予定時間まであと3時間。今日はもう何歩歩いただろうか。
今までのデスクワークの方がまだマシだった。なんて大変なんだろう。城を作るというのは。
「ねぇクロ」
「なんですかノア様、今忙しいんですが」
「……なにか手伝う?」
「あなたがそんなことしたら、威厳も何もあったものじゃないでしょう。もうすぐ全てを手に入れる御方としての自覚持ってください」
「そ、そうね」
忙しい。忙しすぎる。
もう戦争は終わったというのに、目まぐるしいなんてレベルではない忙しさだ。
「そちらの装飾は、共和国連邦から引き抜いた技師に回してますので、手をつけなくても」
「クロさん!物資流通に異常あり!どうする!?」
「……皆殺しにしなさい」
「えっ!?」
「あ、間違えました……トラブル対応の専門部署を一昨日作ったので、試運転がてら彼らに一任してください。1日経っても分からないようならステアを向かわせます」
「どんな間違え方!?」
はっ。
いけない、また頭が悪い方面に引っ張られる。
いつからわたしはこんな過激になってしまったのだろう。やはり主人の影響だろうか。
「あ、休憩時間……けど、今わたしが離れたら……」
今建てているこの城は、ノア様が世界の頂点に君臨した時、そこに座するために建設しているもの。
故に細かい部分にまで気を配り、徹底的に管理する必要がある。それが出来るのは側近組の中でもわたし、ステア、オトハだが、ステアはいないしオトハは先程の通り別件。
わたしが消えれば、その間現場は混乱するだろう。
今まで身を隠していたため、民衆がノア様をよく知らない弊害がここで出た。
「……その間だけでも、私が指揮する?」
「民に親しみのある王を目指しているならいざ知らず、絶対存在として君臨するのが目標の貴方様に、部下に気を使って自ら働くような姿を見せられますか」
何か……何か、ないのか。
現状を一気になんとかする、そんな神がかった方法が……!
「久音!」
「今度は何っ……那由多?」
「待たせたね」
あるはずが無いと思っていた奇跡が、目の前に現れた瞬間だった。
「那由多あなた、ロボットの開発に勤しんでいたはずでは……!」
結局帝国立研究所の職員は、全員まとめて那由多に心酔してこちら側についたので、ここに移住し、新たな研究所を建ててそこにこもっていた。
那由多もまた、新たな世界に秩序をもたらすため、ロボットの新開発をしてくれていたはず。
だから、助けは期待できないと、そう思っていた。
「ふっ。親友のピンチに比べれば、そんなもの路傍のアルミ缶と同義さ」
「お、おお……!」
「遅れてごめんね。良いものを作ってきた」
神を幻視してしまうほどの頼もしさに、わたしは目眩を覚えた。
那由多はキャリーケースのようなカバンをドンッと机の上に置き、チャックを開けた。
「これは?」
「名付けて、『お助けマン11号』」
「お助けマン11号」
「そう」
……このネーミングセンスだけは昔から変わらないな。やたら番号をつけたがるところとか。
学校に侵入してきた野良猫に『スコルピウスNo.19』とか名付けてたし。
ちなみに数字は順番とかではなく、なんとなくらしい。
「どう使うんです、これ?」
それを取り出してみると、一瞬わたしは硬直した。
何故なら、現れたのは10機くらいのマイクと、そして―――パソコンだったのだ。
「ちなみに見た目を寄せただけで、パソコンとしての機能はほぼないよ」
「そ、そうですか。びっくりした」
「これ、マイクで入力された情報を音声判別して、私がプログラムした14017通りの解決策の中から最善の策を表示するっていうマシンなんだけど」
「……はい?」
「で、ここのボタン押すと各マイクに繋がるから、あとは表示された内容を読み上げるだけ。ね、簡単でしょ?」
「おお……」
「これなら交代制に出来るし、久音は久音にしか出来ない仕事に専念できる。戦争が終わった今ならその仕事も多くはないだろうし、定時で上がれるんじゃないかな」
「おおおおおお」
「その時間使って私やステアちゃんと遊べてストレスフリー、もしくは特訓なりなんなり、自分の時間っていうのも爆発的に増やせる。……惚れていいよ?」
「好き……」
「!?」
わたしは那由多を勢いよく抱きしめた。
「…………」
「……那由多、その殺意の湧く顔もあなたの特技かしら」
「まさか。本心を表情に反映する程度、バカだって出来るだろう?ちょうど今の君みたいに」
「お前ぇ……!」
愛する親友の心遣いに感動しすぎてほとんど聞こえなかったが、何やら険悪な2人を差し置き、わたしは仕事終わりから寝る前までの時間という、ここしばらく存在しなかった時に思いを馳せた。




