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第434話 分厚いホットケーキ

 ここしばらくの疲れを爆速で回復させ、更にダレカを殺した際の治療と称した休暇まで頂いたわたしは、嘘のように軽くなった身体をぐーっと伸ばし、辺りを見渡した。


 やはり海はいい。よく言われる、自分がちっぽけに感じるとかそういうのではなく、普通に海風が心地良い。

 自分を矮小に思うのは、ノア様とかリーフとかを見るだけで十分だ。


「クロさん、食事の用意できましたわよ」

「ありがとうございます。すみません、やってもらってしまって」

 

 くつろいでいると、後方から声だけは清楚な女が呼びかけてきた。


「いえいえ、これも花嫁修業。お構いなく」

「どちらかといえば、花嫁修業を積むべきは弟の方では」

「……たしかに」


 白いワンピースに身を包んだオトハは、「やはり弟にやらせるべきか」と腕を組んで頭を悩ませていた。

 そう、腕を組んで。


 ―――たぷんっ。


「…………」

「?どうしましたの、クロさん」

「いえ。そんなに重いなら半分くらい消してくれようかと思っただけです」


 元々スタイルは良かったが、年齢が上がるに連れてどこか大人の魅力すらも体得したこの女は、最近になってようやく成長が止まったらしい胸肉を、よく腕組みして支えていた。

 そこまで執着があるわけではないが、こうもあからさまなものが目の前にあると、流石のわたしも意識してしまう。


「なんですの、触りたいんですの?お嬢様に美味しく食べていただくために育てた果実ですが、毒味くらいならどうぞ?」

「殴りますよ。乳を。……それに、そうやって自慢するなら」

「あ、2人ともー」


 わたしたちの会話に割り込んできたのは、銀髪を靡かせた絶世の美少女。

 いっそ神秘的な魅力すら感じさせるその少女は。


 ―――どたぷんっっ。


 ……一点に限り、ちっとも神秘的じゃない俗物をくっつけていた。


「……あれくらいになってからにしなさい」

「クロさん、あれと比べるのは酷すぎませんか?」

「ん?ボクがなに?」


 首を傾げる爆乳ボクっ娘、スイは、動く度に揺れるそれを隠そうともせずに堂々と立っていた。


「……確認ですが、あなた、今いくつでしたっけ。肉体年齢の話ですよ」

「13だけど。非常に不本意ながら。まあでも、これくらいならなんとか」

「聞きましたかオトハ。まだ成長期にも達してませんよこいつ」

「……若い芽って、摘んでおいた方が良かったのですわよね」

「時と場合によりますが、こういう際はむしり取るのが定石かと」

「なんの話!?ちょ、オトハ、何その手は。何その大根引っこ抜くみたいなシミュレーション!?待っ、い、いやあああああああ!!」


 大根どころかスイカ並のそれを2つ一気に引っこ抜かれそうになって泣いている、この船最年長の末っ子属性を眺め、わたしはしみじみと時の流れを感じた。


「……時代は移ろいますね」

「なにでどうそう感じたぁ!?いいから助けてよ、身体を共有してた仲でしょ!?」

「それならわたしの身体に少しくらい、その乳の成分を分けてくれても良かったのに」

「どうやって!?」

「……あ、そう考えるとなんかムカついてきました。オトハ、おっぱいアイスの刑に処しなさい」

「御意」

「なにその刑罰超怖いんだけど!?……なんで歯をうち鳴らすの?嘘でしょねぇ!?待ってえええ!?」


 泣き叫びながら甲板を逃げ回るスイと、それを追ってどことは言わないが噛み付いて引っ張ろうとするオトハ。

 こんなにもオトハの勝利を願ったのは久しぶりだ。

 そのまま茶を啜りながら、戦いの行く末を見守っていると。


「なに、してるの?」


 横から声がかかった。

 そこにはすっかり小さく見えるようになってしまった人形をまだ手放さずにポーチに入れて持っている、可愛い妹分の姿が。


「ステア。気にしないでください、膨らみすぎた風船を少し萎ませようとしているだけです」

「……ああ」


 納得がいったらしいステアの視線は、自然と下へと向かった。


「あ」


 そこにあったのは……いや、あったというか、なかったというか。

 口が裂けても本人には言えないが、その、えっと。

 ……まあうん。わたしはこれでこそステアだと思う。


「クロ」

「なんでしょう」

「何か、言って」

「……ま、まだ育つ可能性が、無きにしも非ずと言いますか微妙に存在してないこともないと言いますか」


 いや、もうこれ言ったようなものだな。


「スイ、ちっちゃいのに、大きい」

「まあ、はい。そうですね」

「オトハも、すっごい」

「ナイスバディですね」

「……胸肉とは贅肉。贅肉とは怠慢の証。頭と身体を使っていないという告白と同義。つまりバストの数値とIQないしは体脂肪率は反比例する。つまりオトハとスイはお馬鹿でおデブ。QED。ばーかばーか」


 ……おそらくステア史上最も頭の悪い結論が出た。

 オトハはともかく、スイは馬鹿では無いだろうに。

 可愛がっていたちっちゃいのが、時が経つにつれて一部が爆発していったのが未だに気に食わないらしい。

 いや、「ノア様馬鹿」という意味ならこれ以上ないほど馬鹿か?


「ス、ステア、落ち着きましょう。何か食べますか?作りますよ」

「……ホットケーキ。分厚く焼いて」

「はい」


 ちなみに何故分厚くかと言うと、2ヶ月ほど前にステアが恍惚としながらホットケーキを頬張っている時、帰ってきたノンデリ酔っ払い超人馬鹿野郎(ルシアス)が『そんな真っ平らなものばっか食ってっから胸が育たないんじゃねぇの?』とか言い出しやがったからだ。


 勿論その大阿呆糞セクハラボケ(ルシアス)は、その場でわたしを含む女性陣から、生まれてきたことを懺悔するレベルで叩きのめされたが、次の日に「……スカスカでもいいから、膨らんだやつ、食べたい」と言ってきたのを聞いて、わたしはもう一度大ボケ(以下略)を半殺しにした。


 まあその時の心の傷は癒えたようだけど、割と分厚いのが気に入ったらしく、最近は4回に1回くらいの割合で注文してくる。

 さて、じゃあ台所へ……っと、その前に。


「そういえば、オウランはどこへ?」

「マストの上。スギノキまだかなって、見てる」

「だから、先に行ってもいいとあれほど言ったのに……」


 呆れたものだ、さっさと心の準備くらいしてほしい。


「ホットケーキはあのヘタレに声掛けてきてからでいいですか?」

「ん」


 頷くステアに手を振って返し、騒がしい場を後にした。




「うーーーーーーん……」


 望遠鏡を覗き、まったくこちらに気づかないオウランと同じマストで、持ってきた茶を啜った。

 さて、いつ気づくか。


「……なんて……言うべきか……」


 まだそんなことを考えているのか。今日か明日中には目的地、海洋国家スギノキにたどり着くというのに。


「やはり誰かに……だが相談できるのはクロさんくらいしか……けどそれしか……」


 そこでオウランは望遠鏡から目を離し、何度か身体を震わせた。


「……よし!やっぱりこういう時はクロさんだ!クロさん、どこだ!?」

「なんでしょう」

「うぼあああああ!?あああああ落ちるううう!!」


 3分7秒か。結構かかったな。まあ茶が残っている間に気づいただけ良しとしよう。

 さて、じゃあ驚いた拍子にマストから落ちそうになってる男でも回収するか。


「何やってるんですか」

「ふぅー……た、助かった」

「まったく。これから男を見せに行こうという主役がなんです」

「し、主役って」


 いや、今回に限っては主役はオウラン一択だろう。

 なにせ今回の作戦の最終目標は―――スギノキの侵略なのだから。

今年中に完結しないなこれ……。

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