第430話 クロvsダレカ2
わたしの最高位魔法を、問答無用で無効化する転生特典。多少ズレてもいい、考察しろ。
「……転生特典と言うのか?これは」
「我々が勝手にそう呼んでいるだけですが」
発動後に舌打ちしたということは、恐らく自分が確実に勝てるタイミングまで使う気はなかった。
おそらく使用回数は有限。那由多の言う通り、転生特典がチートになりすぎないための制限だろう。
次にその効果。起こった現象から考えられるのは、消去、無効化、妨害、出力制限くらいか?
恐らく妨害はない。発動そのものを防がれたなら、わたしが魔力を保っていないとおかしいが、先程の最高位魔法の分はしっかり消耗している。
消去と出力制限もないな。那由多曰く、自分以外を対象とする転生特典は、基本的にその条件が緩い。リンクのリセット能力が、触れただけで生物無生物問わずあらゆるものを再生できたように。となると、消去や出力制限だったら、わたし自身に使ってしまえばそれで勝ち確のはず。わざわざ対象を魔法に限定して行使する理由がない。
となると、やはり無効化?だが、さっきのは無効化されたというより、わたしが魔法を失敗したような感覚だった。
名も無き英雄、戦争の裏で暗躍した軍人。
そして、大戦。彼女のその経歴から考えると……。
「……”不発”、といったところですか?」
「……やはり危険だなあ、君は」
図星か。
おそらくは魔術物理特殊問わず、あらゆる加害行動を、理屈を無視して強制的に不発させる、それがダレカの転生特典だ。
「しかし、だとすると腑に落ちませんね。この部屋に入った時、わたしは貴方の部下を皆殺しにしたのに、貴方はそれを阻止しなかった。不発させればこの場の全員、命を救えたはずでしょう」
「………」
「部下の命がどうでもよかった……ってことはなさそうですね。となると、しなかったのではなく、出来なかった。なぜなら最初の1発目のみ、わたしは貴方を魔法の対象にしていなかったから。つまり貴方の転生特典は―――『自分が対象に含まれている時』しか発動しない」
隠そうとしても、表情を読み取ればそれが正解だったことは分かる。
「ふ、ふふふははは。流石だなぁ死神。たった1度見ただけで看破されるとは思わなんだ」
「そのあだ名やめてくださいって言いましたよね?」
「だが!」
再び斧槍を構えたダレカが、わたしの目の前にいきなり現れた。
闇の障壁でガードを―――いや、違う!
「っ~~!」
防御魔法は出なかった。”不発”を受けてしまった。
少し読み違えた……『自分の攻撃を受けようとした対象』も不発に出来るのか!
未来視がなければ両断されていた!
魔法を展開することを前提とした体勢だったせいで少し反応が遅れたが、身をよじったおかげで左腕だけで済んだ。
「《闇の浸食》」
「おおっ?」
地面を闇魔法で埋めて回避行動をとらせ、無理やり引き離す。
やはり、自分ではなく地面を対象とされたら不発に出来ないか。
「《反転再生》」
斬られた腕を付け直す。……異常なし、動かせるな。
「そんなこともできるのか。しかし、流石に首を刎ねれば再生できまい」
「さあ、どうでしょう」
しかし、依然としてアドバンテージは奪われ続けている。
なにせ、まだ彼女の魔法が分からない。今のところ、ワープと監禁しかその魔法を見られていない。まだ本気を出していないな。
「うら若き乙女の首を落とすのは気が引けるが、これもかの悪逆女に魅入られた君の末路だ。諦めろ」
「悪逆と魅入られたは全面的に同意しますが、末路は聞き捨てなりませんね。傲慢な決めつけは死に直結しますよ」
「……悪逆を否定しないのか?」
十中八九空間に作用する魔法だが、空間魔法、封印魔法、結界魔法ではない。
空間に作用する言葉は、あとなんだ?近い言葉を使えば、相手の表情からおおよその魔法を推測できる。
時間魔法すら弾く結界のようなものにわたしを閉じ込める魔法。
その空間内を自由に移動する魔法。
監禁?閉じ込め?違うな。
時空、座標、包括……いや―――?
「……領域?」
「!!」
「え?」
「っ、クソ!」
……まさか、ドンピシャで当てたか?
「何で分かった」みたいな顔をしていた。
本当に当てずっぽうで言ってみただけなのだが。
「《領域魔法》ですか。面白そうな魔法です」
つまりこの監禁空間こそが、彼女の”領域”。
おそらく魔法領域を作り出し、その内部にいる存在をどうこうする魔法だ。
瞬間移動は領域内の座標を書き換えていたと考えれば納得がいくし、わたしの攻撃を簡単に避けていたのは、領域内の全てを知覚出来るとかそんなところか。
「なるほど?この魔法の自由度次第では、うちのロボットを壊滅させたことにも納得です」
この領域にロボット全機を閉じ込めておけば、被害最小限かつ自分に圧倒的有利な世界に強制的に引き込んだ状態で戦える。
判断材料は色々揃ってきた。
あとはこの魔法に出来る範囲の特定と、転生特典の制限の把握、可能なら領域の弱点を見つけて脱出。出来ないなら殺す方法を考える必要もあるか。
「《死》」
効かない。不発―――いや、普通に抵抗されたか。
わたしの高位魔法を、簡単とは言わずとも何度も抵抗可能ということは、おそらくわたしよりも魔力は高い。……が、ノア様やステアほど無尽蔵というわけでもなさそうだ。
那由多曰く、転生特典込みの転生者の総魔力量平均は800程度らしいから、少し上に見積もって900~950くらいと仮定しておこう。
だが、わたしすらも閉じ込め続ける強力な監禁能力を持つ領域。その効果が継続しているということは、間違いなく1発それっきりではなく、常時発動をキープし続けなければならないタイプの魔法だ。
故に燃費はおそらく悪い。この数年でかなり最適化に近づいてきた闇魔法に魔法を限定し、時間魔法は未来視と回復のみに留めれば、恐らく相手の魔力が先に底を尽きる。
長期戦を前提とした作戦に切り替えるか?
(……ダメだな)
否だ。
この領域魔法とやらの範囲が不明瞭すぎる。
ただ閉じ込めて自分にまあまあ有利な空間を作るだけの魔法?それだけのはずがない。
少なくとも、この空間にわたしが残り続けることがメリットにつながるとは到底思えない。それどころか、何らかの作用がわたしに直接及ぶ可能性が高い。
つまりやるべきは。
「……殺しますね」
「ふっ、悪人の目だな。面白い」
タネが割れていない時間魔法の使用は最低限、かつ不発を受けないように分かりづらく。
闇魔法主体で、可及的速やかに―――この女を殺す。
次の更新、お休みさせていただきます。
次回は9/25日予定です。
『裏設定』
オトハの好きな食べ物はベニテングダケ(これはこの前考えた)。