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闇に染まった死神は、怠惰で強欲な聖女に忠誠を誓う  作者: 早海ヒロ
第3章 ピンクと黄緑の復讐編
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第38話 正しい許嫁の使い方

「クロ、いいなずけってなに?」

「………許嫁というのは、親や親戚同士が互いのメリットを見て決める結婚のことです」

「お嬢、結婚するの?」

「いけませんノア様!ディオティリオ帝国といえば侵略国家!ステータス武力全振りの、隣接している国々でも特にやばい国です!今でこそ多数の魔術師を従え、さらに金髪で光魔法が使えるノア様が存在しているこのエードラム王国にはその魔の手が伸びていませんが、その伯爵家との縁談ということはつまり―――」

「うちのあの馬鹿父は、私の身柄を帝国に引き渡して帝国に取り入る気でしょうね。あの男にしてはマトモな外交カードを組んだじゃない」

「ん。帝国が攻めてこないのは、半分くらいお嬢のおかげ」

「だから私が帝国に嫁ぎ、あっちが私の光魔法というカードを手に入れれば、名実ともに帝国は最強の国になる。それを見据えて、父は帝国との縁談を結んだんでしょうね」

「おっしゃっている場合ですか!お嬢様、このまま御父上の言いなりになってご結婚を決めてもよろしいので!?」


 自分でもわからないくらいに動揺し、必死にデメリットを伝える私。

 ノア様は振り返って、心底嫌そうな顔をして、


「よろしいわけないじゃない。私、弱い男に興味ないもの。弱い男と結婚するくらいなら弱い女の子と結婚するわ」

「えっ?」

「お嬢、女の子、好きなの?」

「別に男でも女でもいいわ。ただ、男は私より強いことが最低条件。女の子でも私と渡り合えるくらいの強さが欲しいわね」

「要するに、強い人が好きなんですか」

「必然的に希少魔術師に限定されるんだけど―――私に勝てる男って過去に存在しなかったから、男と付き合ったことなかったのよねえ、前世では」


 男どころか、ノア様は希少魔術師の王とまで呼ばれた最強最悪の闇魔術師ハルだったんだから、そりゃ誰も勝てない―――。

 って、え?


「ノア様、女性とお付き合いなされたことあったんですか?」

「それはあるわよ。そこそこな数」

「へ、へぇ~」

「ハルだった時代に、私に食い下がってきた女の子は結構いたしね。気に入った子を屈服させたりいろいろやってたら、いつの間にか私の取り合いみたいになってて」


 おい。


「誰にしようかなーって悩んでたらルーチェが攻めてきたのよね。あ、思い出したら腹立ってきたわ」

「別にどうでもいいんですが、ルーチェって当時のノア様より強かったんですよね?惚れたりなさらなかったんですか?」

「顔がタイプじゃなかったの」

「あ、そーですか」


 ―――なぜだろう。

 ノア様が男と付き合ったことないとか、女の子も好きだとか聞いたら、ちょっとだけほっとしたのは。


「クロ、どうかした?」

「え?あ、いえ、なんでもないです」

「そう?ならいいんだけれど」

「そ、それよりノア様、本当にその、明日来る男とやらと結婚する気はないんですよね?」

「あるわけないでしょう。表向き取り繕って『わあ、素敵な人♡』とでも言って、後になってから手を打つわよ。初の外国の傀儡にしてもいい。事故死してもらうのもいい。楽しみねぇ………ふふっ」

「お嬢、悪い顔」


 外のノア様の威光にあやかろうとする民たちに、「これがみなさんが崇めてた聖女の笑顔です」って見せたいくらいにあくどい顔だった。


「将来的には帝国も取り込む予定なんだし、今だけは仲良くしておくって手もあるわね。勿論、記憶は探らせてもらうけど」

「というか、むしろそれが最善かと。もしそのギフト家が死んだら、それを利用されて因縁つけられて戦争に発展とかになりかねません。今の我々ではノア様をお守りできる力にも限界があります、少なくともあと数年は帝国とのいざこざは避けたいところです」

「たしかに。少なくともあなたたちが高位の魔法を習得できるまでは我慢しましょうか。ステアは超がつくほど高い才能持ち、クロはもうすぐ成長期だから、すぐにできるようになるとは思うけど」


 ノア様は楽しそうにそう言う。

 魔術師の魔力量や編纂能力は、もちろん個人の努力才能にもよるけど、成長によって高まる部分も多い。

 今のわたしは高位魔法に片足を突っ込んだ程度だけど、これが数年で今までとは比較にならない勢いで成長することも珍しくないのだ。

 下手したら、この世界の成人年齢である十七歳を待たずに闇魔法を極めるのも夢ではない。


「力を極めた希少魔術師の能力は、一般的な魔術師数千人分に匹敵するとも言われているわ。特に闇魔法や精神魔法のような対生物に特化した魔法は非常に強い。残る目標の三人も、そういう当たりの希少魔法であると嬉しいわね」

「ハズレの希少魔法があるんですか?」

「無いけど、直接的な攻撃力がない魔法はそこそこあるわよ。確率や出力なんかの数を操る『数字魔法』、自他の能力を底上げする『強化魔法』なんかがそれにあたるわ。どっちも便利で千年前の戦争では必須だったんだけど」

「今の希少魔術師が知られていないこの世界じゃ、攻撃系の希少魔法でごり押しできるから必須ではないと」

「そういうこと」


 だけど、さすがにたった三人で超巨大武装国家である帝国を相手取るのは無理がある。

 ありきたりと言われる四大属性の魔術師でも、潜在能力が高い者たちは当然存在する。

 一人で希少魔術師に匹敵する力を持つ存在も無くはないのだ。

 そして帝国には、そういった使い手が選抜された『皇衛四傑』とか呼ばれる、各四大属性の精鋭がいると聞く。


「しかし、将来的に帝国を葬るにしても、今の我々ではそのごり押しすら難しいかと。皇衛四傑を始めとする四大属性のエキスパートたちが帝国には揃っています。侮ることはできません」

「四大属性使いは魔力量の平均が低いけど、中には希少魔術師にとってのステアのように、極端に魔力が高い連中もいるのよね。件の四人はその最先端、希少魔術師すら葬る能力を持っていることは確かだわ。おそらく今の私たちでは太刀打ちできないでしょう。やはり今は帝国と争うのは得策ではないわね」

「少なくとも、もう少し戦力を整え、高位魔法を使える希少魔術師、あるいはそれに匹敵する能力を持つ逸材が揃うまでは我慢しなければならないかと愚考します」

「あら、何か策でもあるのかしら?」

「いえ、策というほどでもないのですが」


 帝国は良くも悪くも、超実力主義国家。

 才能の無いものは淘汰され、強い者だけが生き残る、そんな殺伐とした国だ。

 どのような手段を用いようが、強ければいい。それがあの国を強者たらしめると同時に、周りの国々をドン引きさせている所以だ。


「あの国のことです、おそらく劣等髪は王国以上に迫害の色が強いでしょう。加えて広大で、今やこの大陸の四分の一が帝国の領土。つまり―――」

「なるほど。希少魔法の才能持ちがこちらに寝返ってくれる確率が高く、帝国からこちらへの引き抜きが容易。次なる捜索の目標は帝国だと?」

「無論、王国の切り札であるノア様は他国へ行くことはできません。しかし、その許嫁とやらをその気にさせて、上手く誘導すれば探させることも可能なのではと」

「名案だわ。脅して探させるよりも篭絡した方が良さそうね」

「クロ、頭いい」


 そう、その実力主義を利用してやればいい。

 ノア様が劣等髪が好きな変わり者っていう噂は王国に流れている。

 それを逆手に利用し、許嫁とやらに連れてこさせればいい。

 実力主義なら、その最底辺と思われている劣等髪は簡単にこっちに送られるだろう。

 むしろ、要らない人員をどっかにやれたと感謝されるかもしれない。


「完璧ね。さすがよクロ、私が見込んだだけのことはあるわ」

「クロ、すごい」

「そ、そうでしょうか?」

「早速明日から作戦決行よ。二人とも明日は忙しくなるわ、よろしくね」

「かしこまりました」

「わかった。お嬢のために、頑張る」

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