第412話 再び全神国へ
「さて……」
ルクシアたちとの会合が終わって4日ほど経ち、わたしは帝国の一室にいた。
「これで全員ですね」
わたし以外にいるのは、那由多、ルシアス、ステアの3名。
大陸でも滅ぼしに行くのかという過剰戦力だが、まだそういうことをするわけではない。
「ルシアス、ちゃんと送り届けてきましたか?」
「おう。姫さんとリーフ、それにフロムの爺さんはアルスシール、オトハとオウランはスギノキにな」
「よろしい。ではわたしたちもお願いします」
ルクシアとの休戦協定後、わたしたちは第1歩として、今現在手中にある国に出向を決めた。
アルスシール、海洋国家スギノキ、そして、ハイラント全神国。
アルスシールには、最大戦力であるノア様とリーフが向かった。
しばらくはそのままにしていたが、あそこは今、わたしたちが選抜した馬鹿が英雄として祭り上げられ、統治をしている。
そろそろ山のように問題が出ている頃だ。反乱軍が勝利したとはいえ、国軍が壊滅した訳じゃないから、今度は立場逆転で争いも起きるだろう。
あの2人なら、上手く恩を売って依存させるくらいは容易に出来る。
ステアに操ってもらうことも考えたけど、フルオートの精神操作ならいざ知らず、マニュアル操作には範囲に限りがある。
仮に出来たとしても、時差の問題でステアの生活リズムが狂ってしまう。うちの生命線にそれは避けたい。
というわけで当初の予定通り、依存させて傀儡とする方針で固めた。
スギノキはオトハとオウランだ。理由は言わずもがな。
というわけで、わたしたちは全神国へと向かう訳だが。
「…………」
「ステア、大丈夫ですか?」
「も、問題、なし」
すっかりかの国がトラウマになっているステアが、わたしにしがみついていた。
「大丈夫です、今日はトップのところに直接転移しますから。あの狂人どもに会う必要はありません」
「う、うん」
こんなに震えて可哀想に。
やはりあの国滅ぼしてやろうか。
「トップが那由多を崇める、見る目のある男じゃなければ、更地にしてやりたいところです」
「言ってる場合かお前。あのおっさん、那由多に俺たちの情報がっつり流してたやつらしいじゃねーか」
「しかもなんか、1000歳超えてるらしいですよ」
「まー長い付き合いだね、そういえば」
那由多は特に関心がある様子もなくそう言っていた。
相手は全神国の議長の皮をかぶり、那由多のために1000年以上水面下で暗躍し続けた狂信者らしいが、当の那由多の反応を見る辺り大して興味もないんだろう。
「哀れな男……」
「だな」
「?」
わたしと永和、あとはある程度の知識とステアくらいにしか興味のないこの子のことだ、驚きはしないが。
「ま、とりあえず行きましょう」
「おう」
ルシアスの転移魔法が発動し、一瞬の空間の歪みの後、見覚えのある丸い部屋が現れた。
「さて、議長は……」
「こっちだよ」
那由多が指を指したのは、以前は天幕で中が見えなかった、議長の鎮座する席だった。
わたし2人分くらい高い位置にあるため、もう一度ルシアスに転移してもらい、上に昇る。
「おお」
那由多が椅子をずらすと階段が出てきた。なんとベタな。
「こんなとこまで教えてきてたのか、議長は?」
「いや?でもあれの考えることくらい分かる」
どうでも良さげに那由多は階段を降りていき、わたしたちもそれに続く。
しばらく歩くと、異様に綺麗な部屋が出てきた。
ホコリ1つ落ちていなくて、床や壁は鏡と見紛うほどに磨かれている。
そしてその中心には、大きな鏡が置いてあり。
議長―――アマラはその前に座っていた。
「…………」
「おい、アマラ」
「…………」
「やっぱダメか」
ぶっきらぼうに那由多が呼ぶが、応えない。
1000年崇め続けた、彼にとっての神が呼びかけているのにだ。
「じゃあステアちゃん、頼んだよ」
「ん」
全神国を嫌がるステアを連れてきた理由がこれだ。
那由多との戦闘時、ステアはアマラを逆探知して精神操作することで、脳を並列使用して那由多相手に善戦した。
だが、ステアと違って凡人だったアマラの脳は、ステアの予想を超えて傷ついてしまっていたのだ。
壊れる前に操作を切ったつもりが、後遺症が残ってしまった。それもかなり重篤な。
「んー」
具体的には、精神的死亡の1歩手前状態になってしまったようだ。
詳しい仕組みはわたしには分からないが、補助がないと思考できない状態になってしまったらしい。
もちろん補助とは身体の問題ではなく、精神の問題の方。
そしてそれが出来るのは1人しかいないわけで。
「はっ……」
「起きた」
「ナイスです」
充電式のおもちゃのように、ステアが定期的に脳活動補助のプログラムを流し込まないと活動できない。
中々可哀想なことになったが、考えてみれば1000年前から那由多のために色々と非道を行った男だそうだし、当然の報いと言えばそれまでなのかもしれない。
「私は……何日死んでいた」
「まだ1日も経っていませんよ」
「そうか」
アマラは頭を振り、息を吐いた。
そして、目の前の那由多と目が合い……。
「な、な、な……ナユタ様!?」
「はいはい、那由多様だよ」
凄まじく慌てて姿勢を正したアマラを、那由多が面倒くさそうに見ていた。
「な、何故このような汚らしい所に!てっきり私は」
「捨てられたかと思ったって?別にそんなつもりは無い。色々と仕事も残ってるしね。ただ、それ以上に大事な用があったからしばらく連絡してなかっただけだ」
それ以上に大事な用っていうのは、わたしとスイの分離の準備のことだろう。
那由多曰く、既にスイのクローンは培養の準備段階に入っているらしい。一段落したからこっちに気を回したってとこか。
「ということは……また、我々にお役目を……!?」
「ちょっと違うけど……まあそれでいいや。お前に頼みたいことがある」