第411話 ルクシアの側近たち
「……はい、言質取ったわよ。これで貴方たちは、私たちを襲えない」
その後、何度もルクシアとの契約を重ね、向こう陣営の誰もこちらに手を出せないよう、言霊魔法によって縛ることに成功した。
これでノア様の世界征服まで、彼女らがこちらに手を出すことは出来なくなった。
「ふーん……?」
ルクシアは何かを確かめるようにわたしたちを見渡し。
「よっ」
「え?」
『……!』
直後、わたしの胸に光の短剣が突きつけられていた。
勿論、契約によって寸前で停止したが、そういう問題ではない。
「っ、お前!」
「冗談冗談。本当に言霊魔法が機能してるのか確かめただけじゃない」
……見えなかった。
魔力温存のために未来視を切っていたとはいえ、あっさりと懐に入られた。
認めたくはない。認めたくはないが。
この女の光魔法は、ノア様の数段上を行っている。
魔力の起こりも、いつ光の短剣を作ったのかも、瞬きせずにずっと見ていたのに分からなかった。
この女が、最後にわたしたちに立ち塞がる最強の敵……か。
「……ご主人様?」
「え?……ぁ」
「それ久音でやる必要ありました?他に人いますよね、アタシの親友って知っていますよね、もし契約が出来てなかったら刺さってたんですよそれ」
「え、あ~、その、近かったからというか……」
「ご主人様と?」
「いや、ノアちゃんとの距離が」
「そんな理由でアタシの親友ぶっ刺しかけたと?」
「………」
が、その最強の敵さんも、詰め寄るわたしの親友の威圧には押されたようで。
「それじゃノアちゃん、またね♡リンク、皆を連れて帰ってきてね」
「はいお姉様!」
「あっ逃げた!」
一筋の汗を流した後、捨て台詞のように言葉を吐いて、光の速度で消えてしまった。
「久音、大丈夫?痛くない?」
「1ミリも刺さってないので大丈夫ですよ。心配しすぎです」
「ダメだよ、久音は昔っから自分のことになるととことん無頓着なんだから!もう!」
「そうですか?すみません」
「そうだよ!」
永和はわたしに駆け寄り、服に穴が空いてないか再三確認をし始めた。
嬉しいが、ムズ痒いな。
「……ホルン、一応あなたは我々の側であるということを忘れないように」
「分かってるよぉ。あそうだ、この間美味しいお菓子買ってさあ。持ってきたんだけど食べる?」
「いいですね、那由多も呼びましょう。お茶持ってきます」
「待て待て待て、茶会開こうとすんな」
ふむ、流石に敵同士が集結している今ではないか。
「じゃあ別の日にしましょう。決めとけば那由多も来ます」
「そだね。じゃあ―――」
永和が手帳を開いたその時。
「……取り込み中すまない」
わたしにそう話しかけたのは。
「メロッタ、でしたか。何か御用ですか?」
敵方の金属魔術師。
そして、裏切り者であるはずのメロッタだ。
「その……ナユタ様はお元気か」
「元気ですよ。とても」
「そうか……」
那由多が突き放した後、彼女がどうなったのかは分からない。
だがあの時に比べて落ち着いてはいる。少なくとも自決したりはしなさそうだ。
「まだ那由多にご執着ですか?」
「そう簡単に生き方っていうのは変えられない。たとえあの御方が、私を解放してくれたのだとしてもな」
気付いたのか。
「だが……努力はするよ。これから」
「そうですか。頑張ってください」
一応、親友が「こう」してしまった人だ。
なんとなくわたしも、申し訳なさは感じている。
わたしとしては彼女が生きようが死のうがどっちでもいいが、一応那由多も気にかけているようだし、聞けるときに話を聞いておくか。
「あの後、彼女の処遇はどうなったんです?」
「那由多にこっぴどく言われたのが思った以上に堪えてたのか、最初は錯乱してたんだけどねー、ご主人様がボッコボコにして止めたよ。一応は裏切りのけじめも兼ねてってことで」
「ふむ」
まあ、ずっと信じていた仲間が裏切っていたのだから、けじめの1つや2つないと下に示しがつかないだろう。
「メンタルも時間経つにつれて多少安定したんで、全神国に戻って生き残りの昔の仲間に合わせるとかもやったよ。後は……まあ、その」
ん?
「なんです?」
「いや、それは本人の口からというか」
なんだ?
永和は目を逸らし、リンクもなんだかソワソワとしている。
一方、メロッタに悠然と1人近づいたのは。
「はい、本人です」
「ケーラ……ということは」
そう。
彼女、ケーラといえば、ルクシアの側近筆頭の封印魔術師にして。
『好きですと言っただけです』
『いえ、好きなのは本当ですが』
と、まー羞恥心を母親の子宮忘れてきたかの如く平然と恋心を言ってのけた女だ。
「そういえば、あんたら2人はどうなったんだ?」
わたしたち全員の気持ちを代弁した質問に、ケーラは口ではなく先に手を動かし―――。
「う、お……!」
メロッタの腕に、自然に自分の両腕を絡め始めた。
「……そういうことです?」
「そういうことです」
ケーラは一見すると普段の無表情だが、よく見ると口角が僅かに上がっている。
一方でメロッタは顔を一瞬で真っ赤に染め、明後日の方向を向いて全力で腕を伸ばしていた。
「おや、何故そうも避けるのです?」
「い、いや、人前だから……」
「では人前でなければ良いのですか」
「そういう、もん、問題、では」
メイドっぽい格好をしている女が、女騎士っぽい格好の女を翻弄している。
見る人が見たら失神するような光景だ。
「あれを毎日見せられてんだよねぇ、アタシら」
「他所でやってほしいわあ……」
うんざりしたような顔で永和とリンクの息が合っている辺り、本当にいつもこんな感じでいちゃらぶしているらしい。
いや、良いことなんだろうが。
「それで色々とペアでやる時、この馬鹿女と組むことになる頻度増えたしさあ、最悪だよ」
「はぁー!?リンクの台詞なんだけど!」
「お前がえり好み出来る立場かっての!鏡の前で『リンクかっわいい……結婚したい……』とかブツブツ呟いてるクソ痛女と組める相手がいるだけ感謝しろ!」
「なんですってええええ!?リンクは世界一可愛いんだから当たり前じゃないそれくらい!夜中にウキウキ顔で墓地にスコップ持ってって、鬼○郎の歌熱唱しながら墓荒らしてる泥棒妖怪女よりかはマシよ!」
「なんだとこのやろおおお!!」
……そうか、転生者だから向こうの世界の歌とかも本当は分かっていたのか。
そして永和を庇いたいところだが、流石にエピソードが強すぎてこればかりは何も言えないな。