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第400話 オトハとボタン

 わたしはこう見えて、どちらかといえば平和を重んじるタイプだ。

 仲が悪くていいことはないし、喧嘩も好きではない。仲間同士が仲がいいことは素晴らしいことだと思う。そして仲間が内輪だけに限らず他の所に友人を作るのもいい。むしろ歓迎したいくらいだ。実際、わたしの親友の1人は敵方にいるわけだし。

 だけど、それにしても。


「オトハ、この局が終わったら何をする?」

「お腹空きましたわ。そろそろご飯食べましょう」

「それは良いな。何かしら厨房に……と、おや?」


 ようやくわたしたちが入ってきたことに気付いたらしい3人がこっちを向いた。


「クロさん!それにステアとルシアスも」

「ことが終わりましたので迎えに来たのですが……」

「ふむ」


 オトハと向かい合っていた目を布で覆った少女は、見えていないとは思えないほど自然に立ち上がってわたしに近づいてくる。


「そなたがクロか。オウランとオトハから話は聞いておるぞ。ワシはボタンという」

「ご丁寧にありがとうございます。クロと申します、以後お見知りおきを」

「ノア殿が最も信頼する右腕であるとか?」

「最も信頼されているかは分かりませんが、右腕でいるように心がけているつもりです」


 初めて会う少女、ボタン・スギノキはそこでわたしとの会話を切り、じっとわたしを見つめてきた。


「あの、なにか?」

「いや……あのノア殿の右腕というからなんだかんだどこかしら頭がおかしい娘かと思っていたのじゃが……」

「はあ」

「なんか、良い意味で普通じゃなあ。礼儀正しく冷静じゃ」

「それはどうもありがとうございます」

「なあオトハよ、この娘は大丈夫か?いじめられたりしてないか?」

「ボタンちゃんはお嬢様を何だと思ってますの?」

「不法入国してきた挙句にワシから思い人を取り上げ、挙句の果てにはえげつない天敵の筋肉クソゴリラを仕向けてきた悪魔一歩手前のヤバイ女だと思っとるが」

「何も反論できませんね」

「よく本人の前で筋肉クソゴリラとか言えたもんだなお前」

「事実じゃろうが」


 国のトップとは思えない気さくさ、視力を失って尚、常人以上に感じる生命力。

 なるほど、これがボタンか。那由多の開発した禁術を使っているとはいえ、重力魔法を使いこなす天才魔術師。


 ……は、分かる。

 分かるのだが、それより気になって仕方がないことが1つある。


「あの、オトハ」

「なんでしょう」

「何故ボタンさんを『ちゃん』付けで呼んでるんです?」

「……?友人をそう呼んで何か問題が?」

「友人」

「はい、お友達ですわ」


 国の頂点と友達か……。まあそれ自体は問題ないんだけども。


 基本的にオトハは、ノア様とわたしたち仲間以外の人間に興味を示さない。

 ルクシアを例外として、基本的に身内以外に興味がない。良くも悪くもドライというか。

 少なくとも、出会ったばかりの人と朗らかに笑い合うようなタイプじゃないと思っていたのだが。


「どういう心境の変化です?そんな唐突に」

「何を言ってますのクロさん、仲良くなりたいと思うことに理由なんていらないでしょう。クロさんはナユタやホルンと初めて会った時に、打算があって近づいたりしたんですの?」


 ……そう言われると何も言えない。

 わたしがあの2人を親友と呼べるようになったのは理由なんてないし。

 なるほど、そういう感覚か。


「つまり共鳴したんですね、自分の中の何かがボタンと」

「まあそういうことですわ。あ、ボタンちゃん、クロさんたちも来たことですし、今後のこと話すなら食事しながらにしませんこと?」

「じゃな。ワシもさすがに腹が減った」

「じゃあ私も手伝いますから、一緒に運びましょうか」

「うむ!ではクロ殿、また後程」

「ああ、はい」


 なんとも微笑ましい―――微笑ましいという感情をオトハに抱いたのは長い付き合いで初めてだ―――会話を繰り返し、キャッキャッという擬音が似合う感じで2人は肩を並べて出ていった。

 この国の頂点が配膳するのかとか、そもそも他の人の気配がないけどどこに行ったかとか、色々な疑問はあったけど何も言えなかった。


「……あー、クロ。とりあえず他のことはオウランに聞くか?」

「ですね。ほらステア、行きますよ」

「ん」

「……というかそろそろ脇腹痺れてきたんですけど、離れてもらうことできますか」

「や」

「そうですか……」


 引き続きひっついて離れないステアを引きずりながら、もう1人の男の元へ。

 どこか遠い目をしている気がするが、はてどうしたのだろうか。


「オウラン、無事ですか」

「ああクロさん。那由多との件、上手くいったんだって?」

「はい、おかげさまで。そちらは大丈夫でしたか?」

「問題ない。希少魔術師たちは倒したよ。大半をボタンが削ってくれていたおかげでやりやすかった」

「それは良かったです」

「……問題があるとすればその後のあの2人だ」


 ボタンとオトハか。


「なんかさ、めっちゃ仲いいんだよ。出会ったの昨日なのに、もう長年連れ添った親友みたいに友情が育まれてるんだ。なあクロさんどう思う?」

「良いことなんじゃないですか?2人にとってもお互いに良い刺激になるでしょうし、何より楽しそうです」

「ああ、2人はそれでいいと思う。僕も姉とボタンが幸せそうで嬉しいさ。……だけど、さ」

「はあ」

「2人が仲良くなるってさ……勿論いいことなんだけどさ……僕としては1個、まずいことがあるんだよ……」


 はて、なんのこと……あっ。


「なるほど」

「そういうことだ」


 今までオトハにとって、ボタンは会ったこともない赤の他人だった。

 けど今はなんだか仲良しになっている。それもものすごく。

 そして、そんなオトハの友達のボタンの思い人は?という話か。


「ふっ……クロさん、僕には聞こえるんだ。ちょっとずつ外堀が埋まっていく音が」


 オトハとボタンがこのまま加速度的に仲良くなっていけば、オトハがボタンの義姉妹になることを望むこともあるかもしれない。

 そうなればオウランの政略結婚を快く思わず、ノア様に真っ向から意見したあのかっこいいオトハはどこへやら、ボタンの恋を応援しだすかもしれない。

 ああ見えてしっかりと弟のことを考えているオトハのことだ、流石にそこに関してはオウランの意思を尊重させるだろうけど、ちょっとしたアドバイスや身内ならではの話をするだけでも大分ボタンにとってはプラスになる。


「なんであんなに仲良くなっちゃったんだよ……僕のことほっぽりだして、1日中ずっと会話したりゲームしたり。2人とも初めて対等でリラックスできる友達が出来たからか、加速度的に仲を深めてるし」


 オトハにとってわたしたちは「同志」とか「仲間」って意識が強いから、友達といえば友達だろうけど、普通の友達の定義からは少し離れているかもしれない。

 けどボタンは違うわけだ。なるほど、たしかにこれはボタンも無意識のうちに外堀を埋めにいっている感じがある。


「じゃあもう埋まり切る前にさっさとリーフに告白でもなんでもすればいいじゃないですか」

「出来るならとうにやってるよ!それが出来ないから困っているんじゃないか!」

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