第393話 戦後処理
皆様あけましておめでとうございます!
これからも拙作をよろしくお願いいたします。
最も大きな課題―――那由多との和解には成功した。
心から嬉しい。この世界に転生してきて嬉しかった出来事で間違いなく1位タイだ。
だけどまだだ。まだ、解決しなければならない問題が2つある。正確にはわたしたちは1つだけど永和たちにもう1つある。
「とりあえず……オトハとオウランを回収しなければですね」
「同意。まだ戦っている可能性もあるけど」
「ステア……は気を失っていますね」
「アマラのやつもステアちゃんにいいようにされて寝てるよ」
「じゃあ通信の魔道具です。ノア様に渡したものが」
「あ、多分さっきの戦いで潰れたわ」
「そうなると思って先んじてわたしが抜き取ってステアに渡しておきました。あの子のポケットの中にあります」
「……ねえ、てことは貴方私の荷物を無断で探ったってこと?」
「荷造りをしたのはわたしなんですから見られても問題ないかと思いまして。ああこれですね」
咎めるようなノア様の視線から目をそらして、ステアのポケットを探る。
何個か飴やら金平糖やらを握ってしまったが、なんとか取り出せた。ぎゅっと握って暫く待つと。
『お嬢様!お嬢様ですわね!!ご無事ですかあ!?』
「すみませんわたしです」
『……チッ』
今舌打ちしたかこの女。
「そちらはどうなりましたか?」
『ギリギリ間に合いましたわ。少し前に戦闘も終わらせました。多少手傷は追いましたが、私たちもボタンちゃんも無事です』
「そうですか、よかっ……ボタンちゃん?」
『どうかしました?』
「ああ、いえ」
オトハって誰かにちゃん付けするようなタイプだっただろうか?
いや、まあいいか今はとりあえず。
『正直かなり手こずりました。その他大勢は最高位魔法で蹴散らせたのですが、音魔術師と収束魔術師が普通に手ごわく。2対2で全力で戦って辛勝ですわね』
「それはご苦労様です」
『ところで……そちらからかけてきたということは、ナユタとの戦いも決着がつきましたの?』
「はい」
『どうなりましたか』
「結論から申し上げますと、那由多がうちの司書になってノア様が凄く強くなられました」
『……なんと?』
「帰って来たら詳細に説明します。後でルシアスを迎えに行かせますのでそれまでスギノキで待機していてください」
『ああ、はい。じゃあ軽く治療でも受けていますわ』
「それがいいかと。オウランはどうしました?」
『あの子はボタンちゃんの様子を見に行っています。代わりましょうか』
「いえ、そのままで結構です。では後ほど」
『はーい』
大丈夫そうだ。
僅かながら2人が敵に負けてボタンが殺害されているというバッドエンドが可能性としてあったが、杞憂で何より。
気になる点はあったけどこれなら心配いらない。
「じゃあ後は―――」
振り向き、ある人物に目をむける。
それは当然、永和たち側に残された最後の懸念。
「………」
黙りこくり、下を向いている女。
「メロッタ」
「………っ」
那由多の内通者。
彼女のことを何とかしない限り、ルクシアたちはハッピーエンドとはいかない。
「……どうしますか、お姉様」
「今考えてるわ」
敵同士ではあるが、同じように主を中心とした絶対の絆があると思っていたルクシアたちに潜り込んでいた思いもよらないスパイに、わたしたちも静観せざるを得なかった。
その沈黙を破ったのは―――。
「ああ、1つ聞いてもいいかな」
「あ?」
「那由多?どったん?」
ほかならぬ、そのスパイを潜らせていた那由多だ。
「いや、ケーラにね。どうやってメロッタを止めた?」
那由多が提示した疑問は、わたしたちが戦っている時、ケーラが封印魔法で那由多の言霊を一時的に封印した時の話からだろう。
「私はメロッタの本来の強さを記憶から封印した上でスパイさせた。本来のソイツの強さは私の子飼いのなかでもぶっちぎり―――それこそ以前敗北したフロム・エリュトロンとも互角以上に戦い合えるほどの実力だ」
「そうなんですか?」
「こいつは魔力量こそ少ないけど、ちょっとした特異体質でね。常人よりも遥かに精密に魔力を操作することが出来る。その1点に限れば恐らく世界で私に次ぐほどだ」
「マジかよ」
「リンクの体内に刃を仕込ませたのも、その能力を買ってのことだよ。普通はそんなこと不可能だろう?」
それは確かに感じていた。リンクの体内に金属を入れておいて体内破壊をほのめかす、これはいい。
だけどその破壊に至るまで、一切血管や内臓を傷つけずに極小の刃を操作するなんてわたしなら絶対に出来ない。
「その精密操作によって、砂鉄を始めとする微細な金属を手足のように操れるメロッタの攻撃力は、封印魔法で封じきれるようなものじゃない。何をした?」
言われてみれば気になるところだ。
その質問にケーラは「ああ」と声を出し。
「極めて原始的な手段ですよ」
そう言って、いつものように表情を変えず。
「『好きです』と言っただけです」
と、当たり前のように―――。
「……えっ?」
「ですから『あなたのことが好きです』と。そうして動揺させた隙に魔法を封印しました」
「ああ……なるほど。そういう嘘で虚を突いたってことか」
「いえ、好きなのは本当ですが」
「……えっ」