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第392話 親友との時間

「いやっ、言霊魔法って……ええ……!?」

「さて、こっちの要求も果たしてもらう」

「何度も言われなくたって分かってるわ」


 通常、魔法は1人につき1つ。

 染色魔法で複数の魔法を習得できるルクシアと、2つの魂を同居させているわたしとスイが例外なだけだ。普通はそのルールを捻じ曲げることは出来ない。

 だけど、あらゆる不可能を覆してきた那由多なら―――有り得ないことは無いのかもしれない。

 那由多は常にわたしたちの想像を超えてくる。だからここで、出来たか出来ないかを聞くのは間違いだ。

 それよりも疑問なことがある。


「契約……?」


 那由多とノア様が?

 いつしたのか―――これは簡単だ、《止まれ》の言霊でわたしたちの動きを停止させ、その間にノア様と結んだ可能性が高い。

 問題はどんな契約だったかだ。ノア様が受ける対価は言霊魔法を得ること。

 なら那由多のメリットは?自分の最大のアドバンテージである魔法を手放してまで得るものは……?


「那由多。貴方に―――私の大書庫の()()を任せる」

「え……?」


 大書庫の、司書?

 それって。


「司書ね……ま、肩書きはどうでもいい。私の要求は『私自身の身の安全と、お前たちに害をなさないことを条件とした研究や開発を不自由なく行える環境』。そしてなにより『誰にも妨げられずにいつでも親友に会える場の提供』。反故にする気はないだろうな」

「そうならないように、譲渡される前にあなたの言霊魔法で縛ったでしょう?破りたくても破れない契約なんだから疑うなんて不毛だわ」


 つまり。


「ノア様、それって……!」

「……今のこいつなら問題ないでしょう。出してあげるわよ」

「ノアちゃん!?」


 ―――ここまで、那由多は暴れてしまった。

 だからノア様がここの封印を解かず、那由多を放置する可能性もわたしは考えていた。

 いや、実際そのつもりだったんだろう。だけど覆した。那由多の取引によって。

 だけど、そこに待ったをかけた人物も当然いる。


「まさか、本当にこいつを外に出すっていうの!」

「契約したし仕方ないわ。言霊魔法もこうして取り上げている限り滅多なことは出来ない筈よ」

「それは早合点でしょう!たかだか魔法を封じたくらいでこの女を完全に御せるわけがない!」

「舐めないでくれる?私だってこいつを制御できるなんて思ってない。……ただ、この女のクロとホルンを思う気持ちだけは本物よ。なら2人をストッパーにすることは出来る」

「それはっ……!そう、だろうけど……!」


 ルクシアは納得いかないようだった。無理はない、1000年前のことに加えてルクシアはメロッタというスパイを送り込まれ、ずっと那由多のいいように騙されていた。

 言霊魔法を封じようと、那由多には天才という言葉ですら形容しきれない人外の頭脳がある。それこそ、手段によっては世界を手中に収めることすらも容易な能力だ。

 だけど、そんなことは那由多は考えていない。ルクシアもそれは分かっている。


「もし仮にこのまま那由多をここに閉じ込めれば、クロとホルンは多分私たちに反発するわよ。それで2人にそのまま離反されるのが最悪。だから那由多をこのまま閉じ込めておくのはどちらにしろ難しいでしょう?だから可能な限り力を削いだ状態で出してやるのが、私たちにとっての最適解だと思わない?」

「うっ……それは……」

「ええ、世界という規模で見るなら解放すべきじゃないのは分かってる。けどナユタという爆弾を抱えてればクロはどこかに行かないしおまけまでついてくる。私にとってはこれが最善だわ」

「……っ」


 敵として那由多のことをある程度理解しているから、そしてノア様と似ているルクシアだから、引き下がらざるを得ない。


「……ノア、様」

「聞いての通りよ。ナユタはうちで預かる。あなたが監視しなさい」

「……!はい!」


 わたしは那由多に抱き着いたまま、思わずぎゅっと力を籠める。

 那由多が、大書庫に来る。

 つまり同じ屋根の下だ。

 親友と、ずっと一緒にいられる!


「ふふっ。よろしくね」

「はい!監視という大義名分で色々遊びましょう!」

「ちょっと」

「ねぇ2人だけずるいアタシだけハブじゃん!?」

「遊びに来ればいいですよ。幸いにも暇こいてる超人が転移使えるので迎えに行かせます」

「暇こいてねえよ!」

「そんなことできんの?」

「永和、わたしの立場を忘れましたか。側近筆頭です。つまり彼の上官ですよ。好き放題命令できます」

「そっか!久音すげえ!」

「……おい、あれ本当にクロか」

「推測、親友と四六時中いられる悦楽に我を忘れている」

「まさか大書庫に呼ぶ気じゃないでしょうね。立場的にその女は敵なんだけど」

「つーかなんだ?俺、敵を送迎するとかいう訳分からんことに毎回駆り出されなきゃなんねーの?」


 きゃっきゃと喜ぶ永和と一緒に笑い、微笑む那由多をまた強く抱きしめる。

 ああ、これだ。これがわたしが求めていた、親友との時間。

 失ったはずの大切な瞬間だ。


「ああ……1つ言い忘れてた」

「何よ」

「ノアマリー・ティアライトのところに身を寄せはするけど、私はお前たちの戦いには基本干渉しない。好きなようにやらせてもらう。文句ないだろ」

「どうぞご勝手に。私たちとしても貴方なんてイレギュラーは最初からないほうがいいわ」

「ただし私の親友を死なせるようなことがあれば、その時は殺す」

「それはさっき聞いた」

「じゃあ改めて、契約成立だ。これからよろしく」

「はいはい」


 わたしは手に入れた。

 ようやくだ。

 失った記憶と、失ったはずだった大切な親友との時間を。

ここから年末年始に向けて忙しくなってしまうため、年内はこの更新が最後となります。

次回更新日は1月5日予定ですが、もしかしたら10日になるかもしれません。


皆様、今年も拙作にお付き合いいただきありがとうございました。一応、来年完結予定です。

それでは、良いお年を。

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― 新着の感想 ―
死人に口なしなだけあって、ここ最近喋ってなかった組が喋ると謎の新鮮味を感じる
自分も嬉しい。那由多は多分すぐ馴染む
いいな、平和な世界だ…… 平和ではないにしても3人が仲良く遊べるようになるのいいな
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