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第386話 親友vs親友4

「ステア……!」


 那由多の弱体化を利用し、魔力と才能にものを言わせ。

 言霊を「使った」と誤認させた。


「うっ……げぇ……」

「!!」


 その代償なのかステアは膝をつき、青白い顔で吐いてしまう。

 だが、必要なことは全てやってくれた。


「あと……まかせた」


 限界を迎え、ステアは意識を失った。







「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿なっ!?」


 攻略しきったと思った相手の想定外の反撃に、那由多は怒り、焦り、戸惑った。


(超集中状態から、この短時間で自力で戻ってきたって言うのか!?有り得ない!!どう少なく見積もっても、あと10分は稼げる計算だった!!一体どうやって!たしかに《沈め》の言霊はリンクにリセットされたが、それでもっ……)


 そしてそこから、1秒とかからずに結論にたどり着く。


「まさか……」


 《沈め》の言霊はあくまできっかけ。1度超集中させてしまえば、その思考からは暫く帰って来れない。

 だが《沈め》がリセットされたということは、()()()()()にしておくことは出来ない。だから意思で戻ってくることは不可能では無い。

 それでも、天才的頭脳を持つが故にあらゆる疑問への答えと好奇心を持つステアが、次から次へと降り注いでくる疑問とその攻略方法を思いつく状態から戻ってくることは困難のはずだった。


 だがほんの一瞬、思考の海から浮かび上がる程度なら出来る。

 それでもまた疑問に引きずり込まれるはずだった。

 だがステアは―――。


(舌を噛んで一瞬だけ覚醒し……その隙に、自分の記憶を破壊して抜け出した!?)


 これなら口から血を流していた辻褄が合う。

 思考の海に飲まれていると察したステアは、少し浮上して自分の意思を取り戻し、その隙に思い切り舌を噛み砕いた。

 その瞬間を狙い、痛みに耐えながら先程まで浮かび続けていた疑問―――全て答えられれば世界を変えられるほどのもの―――に関する記憶を、全て破壊した。

 そうすれば超集中する理由が無くなり、思考から戻って来られる。

 だが自分の考えを大元ごと破壊するなんて芸当、並大抵の意思でできることではない。

 それこそ那由多ですらも、久音と永和の命でもかかっていない限りは自信が無かった。


「《圧縮魂魄波(オーラスフィア)》!!」

「うっ……!」


 適合しない魂を幾重にも合わせ、それをぶつけて大きな衝撃を与える死霊魔法が那由多に直撃する。

 大きく吹き飛ばされ、そこにノアの闇魔法が数本突き刺さった。


「ぐ、あっ……!」


 那由多の頭は理解している。

 永久化が復活していても、無限の魔力を得る手段を失った今、自分の勝機は失われた。

 遠からずなけなしの魔力も底をつき、仮にこのまま防戦にもつれ込んだとしても、仮死状態から遠からず復帰してくるルクシアたちに追い詰められてしまう。

 そんなことは分かっている、が。



「まだ……まだだああああ!!」



 常に解析によって得た結論を理性的に受け止める那由多が―――激情に任せて叫んだ。


(今使ってしまった魔力は、1時間半程度で全快する!耐え続ければ……!)


 不可能だと自分でも分かっていた。

 だがその理想に縋る。縋り続ける。

 すべては―――失ってしまったあの時間を取り戻すために。


「なんで……なんで、どいつもこいつも邪魔するんだよっ……!私は、私はただ……!」

「那由多……」


 自分の往生際の悪さに驚きながら、那由多は拳を突き出した。


 ―――だが、限界は来る。




「……言いたいこと、感謝したいこと、謝りたいこと。どれだけ言っても言い尽くせないくらい、色々あります」

「うん。だけど今は……終わらせよ」




 ノアの闇が、混乱によって限界まで出力を落とした那由多の頭脳を突破し、脇腹に突き刺さった。


「ハル……貴様……やめ……」


 もはや彼女の頭はオーバーヒート状態で、いつものような解析能力も洞察力も失われていた。

 罵倒の言葉すら出てこないほどに。


「ぐっ!」


 ノアも既に限界を超えている。

 長時間最高位魔法を維持し続け、更に受けた傷もかなりの深手だった。

 ここで限界を迎え、膝を折った。


「私は……君たちと……大好きな……愛してるのに……なんで、なんで……」


 うわ言のように言葉を吐く那由多。

 それを受けて、クロとホルンは心臓を握りつぶされるかのような苦しみを味わう。


「……っ」

「ううっ……!」


 だが、ここで立ち止まるわけにはいかない。

 全てを無駄にしないために。


「っ、久音!」

「分かってます!」


 一時的に死体人形と化したリーフの風が那由多を壁際まで追いやる。

 頭は働いていなくとも、長年の経験と勘で離脱しようとしたところを―――、


「おりゃっ!」


 ホルンが、抱き着いて止める。

 無意識で2人を受け入れている那由多に、それを避けることは出来なかった。


「今!」


 それでも、迎撃しようとした。

 最後に残ったなけなしの言霊を使って。


「《弾けろ》」


 空間に命令した言霊は、クロの身体を吹っ飛ばすはずだった。

 だがそれは叶わない。


「……!?」

「《時間分身(タイムクローン)》」


 あらかじめ投影していた時間魔法。

 自身の行動全てを、実際に行った時から1秒間遅れて投影させる魔法。

 つまり那由多が攻撃した場所は、クロが1秒前にいた場所であり。

 実際は既に、魔法も準備した状態で至近距離にいた。


「……もうやめましょう、那由多」


 言霊を紡ぐ時間はない。避けたくても抑えられていて逃げられない。


(ああ……)


 追い詰められたことで僅かに戻った頭が、全てを理解させた。



(終わり、なんだ)



 そして。



「……《常闇の拘束(ネオダークバインド)》」


 クロが放った最後の闇魔法が―――那由多を拘束し、全ての魔力を消滅させた。

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― 新着の感想 ―
言霊が頭ひとつ抜けてるのは間違いないが、ぶっちゃけ他にも光と闇みたいな印象による抽象的な能力付けだったり、時間という概念であったりとクソ強能力がある中、人間である以上絶対に欠かすことの出来ない、脳みそ…
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