第382話 打ち止め
「……とにかくリンク、あなたさっさと能力で全員の死をリセットしなさい。誰か1人いるだけで大分状況が楽になるわ」
「分かってるわよ!敵のクセに指図しないで!」
「はいはい」
「させるとでも?」
那由多がリンクの前に立ちふさがり、拳を打った。
リンクはそれを手で捌き、那由多に近づいて足を絡ませてその場に固定、指を服の裾に引っかけて自分ごと倒れた。
「うおっ……」
「ホルン!」
「わーってるよ!」
初見の動きに対応しきれなかった那由多は、完全に倒れることこそもう1つの足でふんばって回避したものの、リンクに状態を固定され、そこに永和の闇人形が迫る。
触れれば魔力を消せる闇人形をリンクごとくっつける気か。だけどリセットがあるリンクは魔力を奪われても元に戻せる。
そうとなればわたしも止まっている理由はない。便乗して魔力を消せる闇魔法と動きを止める時間魔法を複数用意する。
「ちっ」
「んえっ!」
だけど那由多はそこまで甘くなかった。
完全に固定されていたと思っていたが、どういう方法でか身体を軟体と見紛うほどに流動させてリンクの固定から脱出し、更にそれを防止しようと突き出された拳を軽く後方に頭を下げるだけで回避、更に映画でしか見たことがないような無駄のない動きでリンクの右肩を打った。
「うっ……!?」
関節を外されたのか、右腕がだらんと下がっている。その隙を見逃さず、那由多は背中でそのままぶつかってリンクを跳ね飛ばし、わたしと永和の魔法の衝突直前に離脱した。
「うげっほ……!鉄山靠って、どこで覚えたのよ……!」
「昔やってたゲームで出てきて、興味あってね。人に披露したのは初めてだ。機会をくれたことには礼を言う」
「リンク!いいからさっさと能力使えよ!」
「うっさいわね!分かっ……っぶな!?」
那由多はかわして永久化が戻るまで待つのを諦め、リンクを潰すことを選んだらしい。
リンクだけでなく、この世界と元の世界に関わらずあらゆる武術を用いてリンクに攻撃を仕掛けている。
リンクもそれに応戦するけど、劣勢だ。当たり前だ、相手はあの那由多なんだから。
むしろおかしいのは、那由多と勝負になっている彼女の方だ。
「んのっ……!」
「妙だね、なんでリセットを使わない?さんざ言われてるのにも関わらず。それにさっきから防戦一方。まるで今は戦いたくないみたいに」
……ん?
「打ち止めだね。能力の」
「打ち止め!?」
「うぐっ」
「転生特典は万能じゃないんだ。あくまでこの世界のバランスを崩さない程度の能力に設定されている。私の永久化に発動個数制限があるように、その他の転生特典も何かしらの弱点や制限を抱えている場合が多い。知識、常時発動、生まれた時からの特性なんかの場合を除いてね」
つまり、リセットにも弱点がある?
「あらゆる事象をなかったことにするなんて強力無比な能力、そうほいほい使えない。十中八九回数制限がある。何日に何回っていうような……感じではないね、だったらもう少し温存するはずだ。ならおそらくチャージ式かな。リセットに使うための魔力とは違う特殊なエネルギーがあって、それが溜まってないとリセットできないソシャゲのライフ的なパターンか。で、それがまだ溜まり切ってない。違う?」
「………」
「勝手を知らない永和が無理に使ったから余計に消費したってところか。まあ今すぐ使えないなら」
伸縮によって距離を取ったリンクに、それを予期していた那由多が再び近づく。
リンクは鳩尾に掌打を放ったが、その手を掴まれ、ドアをノックするような一見簡素な拳を左腕に受けた。
サポートしようと魔法を使おうとしたが、闇魔法だとリンクを巻き込みかねず、付け焼刃の時間魔法では発動が間に合わない。
「いっづ……!?」
「私の敵ではない」
まったく力がこもっていないように見えた攻撃は、リンクの腕を破砕音と共に破壊した。
リセットが使えない今、リンクに怪我を治癒する能力はない。両腕を使用不能にされたリンクはそれでもあきらめず、軸足で勢いを付けて渾身の上段回し蹴りを打ったが。
「なんっでよ!」
何が起きたのかわたしには分からない。
分かるのは何かの技で那由多が攻撃を受け流したくらいだ。
「君がこの世界に転生してきたのは、その類い稀な武術の才を買われてのことだろう」
「うわっ……!?」
「たしかに君の技術は脅威だ。過去に見てきた転生者たちの中でも、戦闘力だけなら上澄みと言っていい。かつてのあの世界なら間違いなく世界一の才能だろうね」
受け流した腕を脇に挟んで固定し、リンクにの身動きを完全に封じた。
まずい、ダメ元で時間操作を使うしか……!?
「……だけど相手が悪すぎた」
那由多の攻撃が無防備のリンクに―――、
「おるぁ!」
「あぶえっ!?」
「おっ……」
「………え」
「ええ……」
当たりかけたコンマ数秒前。
突如2人の足元に人間大の闇人形が生まれ、那由多に巨大な拳を放った。
リンクごと。
リンクの華奢な身体はかなりの距離吹き飛ばされ、那由多は直前でギリギリ回避した。
だけど闇人形からもう1本の腕が生え、それに那由多は掴まれる。
「クッソ……!」
1秒もしない間に離脱されたけど、今のでそこそこ魔力を削れた。
「ナイスです永和!」
「でしょ!」
「どこがナイスよぉ!何リンク諸共攻撃してくれてんのよマジぶち殺すわよクソホルン!!」
「……ちっ、生きてたか」
5割ほど本気の舌打ちをした永和に若干引きつつ、油断なく那由多を見る。
こっちに向こうの魔力を知るすべはない。けど那由多の表情に、たしかな焦りが見えた。
おそらく、今ので致命的とは言わないまでも浅くない魔力ダメージを負っている。
「ここまで予測に支障が出てるか……」
「そうみたいだね」
残り時間は分からない。
おそらくそこまで遠い話ではない。だけど今すぐというわけでもないはずだ。
今の極限まで弱体化している那由多相手なら、勝機はあるはずだ。
「あともう少しです!削りますよ!」
「了解!ほらリンク立て!」
「あんた後で覚えてなさいよ!」
最終ラウンドも、もう大詰めだ。
【お知らせ】
ここまで3の倍数日に投稿をしてきましたが、最近色々と忙しく、このままのペースを維持することが困難となりました。
そのため、今後の投稿を5の倍数日へと変更させて頂きます。
楽しみにしていただいている方々、本当に申し訳ございません。問題が落ち着けばまた元のペースに戻す場合もあるかと思います。
今後とも拙作をよろしくお願いします。
次回更新予定日は11月5日です。