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第34話 ゴラスケ

「えーっと、ステア?何をしているの?」

「おじょう」

「なに?」

「わたし、きょう、たんじょうび」

「そ、そうね」

「わたし、めでたい」

「そうね、だからこうやってここに」

「これ、ほしい」

「冗談よね?」

「じょうだんじゃない」

「………………」


 ステアが持っている人形の、具体的な説明をしよう。

 まず、色は黄土色に近い茶色。木のような色と言えばわかりやすいだろうか。

 頭には緑色の草をかたどったらしい、小松菜のような葉が生えている。

 細くて長い手に、まるで根のような足。

 そして何より、断末魔の叫びをあげている時のような顔が中心に描かれている。

 申し訳程度にコミカルな顔ではあるが、夜に見たら間違いなく世のちびっこはおもらしをするであろう顔面をした人形を、ステアはうっとりと見つめていた。


「おやおやお嬢さん、あんた中々物の価値が分かる妹さんを連れているようだ!」

「実妹ではないけどね。で、あれなんなの」

「ありゃあ、遥か北の漢方で有名な小国で一部のマニアに売れかけた、マンドラゴラ人形さ」

「売れてないですよそれ」


 小国の一部のマニアに売れかけたって、それはもう販売中止で製作者が首くくるレベルの低売れ行きでは。


「すごいだろう、あの大きさ!見た目!人形であれほどにマンドラゴラを再現できるとは、あたしゃ見た時感動したもんさ」

「実物のマンドラゴラを見たことないので何とも言えませんが、少なくともあんなものプレゼントされたら普通の子供は引くほど泣き叫びますよ。それこそマンドラゴラのように」

「マンドラゴラの鳴き声って、人の精神を蝕むって言うわよね。何かシンパシーでも感じ取ってるのかしら、あの子」


 ステアはというと、もうすでに自分のもののようにマンドラゴラ人形を抱きしめていた。


「で、どうするんだい、買うのかい?」

「おじょう、ダメ?」

「い、いえ、ダメではないけれど………」

「ステア、他のものにするわけには」

「これじゃないと、いや」

「何があなたをそこまで………」


 かつてない頑固さを見せるステアに、プレゼントを買いに来た手前無碍にするわけにもいかないノア様が、ついに折れた。


「………はあ。お婆さん、あれおいくらかしら」

「毎度あり!そうさね、あのセンスの塊のような将来性たっぷりの幼女に免じて、少し勉強して―――これくらいかねぇ」

「ねえ、ちゃんと勉強した?思ったより高いのだけれど」

「無茶言わないでほしいよ、これが売れるか売れないかで、あたしの今晩の宿が決まるんだよ」


 ノア様は引きつった顔でお金を婆さんに渡した。


「毎度ありぃ!」

「おじょう、ありがとう。たんじょうびって、すごい」

「まあ、ステアが喜んでるなら何よりなんだけどね」

「本当に、なにがそんなに琴線に触れたんでしょうか」


 ステアは高い高いの要領でマンドラゴラ人形を持ち、目を輝かせている。

 ダメだ、どれだけ凝視しても、これを気に入る要素が見つからない。

 ステアの感覚は、ノア様以上にわからん。


「なまえは『ゴラスケ』にする。あたらしい、ともだち」

「あれ、オスなの?」

「いんや、メスだね」

「オスでもメスでも、ゴラスケ。けってー」

「そもそもマンドラゴラに雌雄の区別あることに驚きなんですが」


 マンドラゴラ人形―――いや、ゴラスケを嬉しそうにギュッとするステア。

 別に本人が気に入ってるならそれが一番で良いことなんだけど、ただ欲を言うなら、顔をこっちに向けてギュッてするのやめてほしい。

 今まさに、絞め殺されそうになって断末魔の悲鳴を上げているように見える。





 ***




「おおおおお………!」

「あら豪勢ね」

「ニナさんに今日はステアの誕生日だったって言ったら大急ぎで準備してくださいました。ほーらステア、タワーホットケーキですよ」

「じゅるり」

「ほら、ご飯の時くらいはゴラスケを手放しなさい」


 ここ一か月で、ステアはずいぶんと人気者になった。

 いくら水色の髪とはいえ、庇護欲を煽りに煽ってくるステアに、この屋敷の連中はメロメロだ。


「美味しいですか?」

「コクコク」

「それは良かった。ステアは好き嫌いがないので、栄養管理が簡単で助かります」

「ちょっとクロ、どうしてこっちを見るのよ」


 たった一日でマナーを覚えて、お行儀よくホットケーキを食べる術を覚えたステアだったが、最近はホットケーキはかけるものによって味が変わることを覚えたらしく。

 うちの冷蔵庫には、味変用にメイプルシロップ、チョコソース、チーズソース、バター、蜂蜜、ヨーグルトなんかが常備されている。


「ほらステア、ホットケーキばかりじゃなくてサラダも食べなさい。ほら、口元にソースついてますよ」

「うむぅ」

「ふっ、まったくステアもまだまだ子供ね」

「いい年こいて野菜食べられないノア様が何言ってんですか」

「のあ、まだはっちゃいだもん」

「プライドないんですか転生者」


 夢中で食べ物にありつくステアを見ながら、わたしも肉を食らう。


「そういえばノア様、ステアに前世の話をまだしてないのでは?」

「してないけど、まだ理解できないでしょうこの子は。もうちょっといろいろ知識を身に着けてからよ」

「そうですね。そうしましょう」

「まあ、同じ年齢でサラッと理解出来ちゃった子がここにいるけどね」

「そ、そうでしたっけ?」

「ねえ、クロ」


 突然ノア様は声のトーンを落とし、真剣な顔になった。


「あなたと出会ってから三年経ったわ。そろそろあなたも私を信頼してくれたんじゃないかって思うの」

「あなたのことは出会った時から信頼しておりますが、突然どうしたんですか?」


「ねえクロ。あなた、私に隠してることないかしら?」

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