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第372話 布石

 那由多は他人の未来が分かる。

 それは予言や予知といった生易しいものではない。情報、性格、癖、身体能力、その他多数の要素から判断し、『自分がこう動けば相手はこう動く』と理解することで常に少し先を見据え続けている。

 那由多にとっては、戦闘も将棋やチェスと何ら変わらない。自分だけが最善の動きをし続け、相手が手をこまねいている間に倒す。それだけだった。


 しかしそんな那由多でも、1つだけ弱点がある。

 戦いの中での敵の成長だ。相手の強さの状態を大前提としている那由多の予測演算は、相手が今まで出来なかったことをできるようになることで狂ってしまう。

 通常は問題ない。最強である自身をバネにされ、強者がさらなる高みへと成長してしまうことは那由多にとって一度や二度ではなかった。

 だからこそ那由多はその相手の成長すら織り込んで動く、もしくは才能を感じた敵は成長される前に言霊魔法の物量で押し込むことで対処していた。それで問題なかった。


 だが那由多は、その自分の戦法が通用しない相手がいることを知っていた。

 それが1000年前のハルとルーチェだ。規格外の天才だった2人は、那由多との戦いとそれ以前の2人同士での戦いで、予測できない速度での急成長を見せ、最後は封印という手段とはいえ最強の代名詞と呼ばれた那由多に一矢報いるに至った。


 那由多は辟易しているが、こればかりはどうにもできないのが現状だった。

 凡人や秀才ならいざ知らず、自分と同じく天賦の才を持つ者が相手では、いくら那由多でもその成長曲線まで正確に織り込むことは出来ない。

 勿論、それが可能なほどの天才なんてめったに現れるものではない。封印されるまでの500年の間、那由多は多数の強者、多数の天才を見てきたが、その域に到達していたのはハルとルーチェの2人だけだった。


 今、この瞬間までは。



 ***



「《雷雲領域(エレクトロゾーン)》」

「《弾け》!」

「《纏わりつく雷(パラサイトサンダー)》!」


 リーフの雷雲がドーム状に広がり、全方位から雷の波状攻撃を放った。

 那由多はそれを言霊でバリアを張って弾く―――が、その雷が纏わりついて残留した。

 それによって発生した超高熱までは弾けない。0.1秒にも満たない思考の末、那由多は《動け》で脱出した。


(この女……!)


 ここまでで那由多が使用した言霊は、ステアに使わされたものを含めて僅か7つ。

 無制限の魔力を有していた時は一呼吸の間に使っていた数。

 だがそれだけの言霊で、既に魔力の1割が削れていた。


「《異力切断(パワースラッシュ)》!」

「ぐっ」


 魔法を使わずとも回避できる攻撃。

 だが、その回避した先に別の攻撃が飛んでくる。


(この男も!)


 ノアとルクシアの光の速度の攻撃も相まって、当たりこそしないが反撃に出られない。

 それだけではない。那由多の顔に、徐々に焦りが浮かび始めた。


(リーフ……ルシアス……こいつらの動きが変わり始めている!私も捉えきれない速度で!)


 かつてハルとルーチェとの戦いでも感じた、史上最強である自分を相手にすることで成長していく天才の動き。

 その片鱗が、リーフとルシアスにもたしかにあった。


(特にリーフ……!私が動きを読んで避ける先を、山勘で当てて攻撃してくる!落雷魔法は当たらなくても感電の余波でダメージが入るから、至近距離に雷を放出されるだけでこっちの動きが鈍る!)


 ただでさえ著しく弱体化した状態で、向こうは成長しながら襲い掛かってくる。ステアを上回る並列処理能力と演算によって躱し続けることは出来ているが。


「《強まれ》」

「《光粒子砲(フォトンノヴァ)》!」

「!クッソ……《戻れ》!」


 そうすることによってステアの精神攻撃に耐えるための思考能力が薄まり、更にリンクのリセット能力があるためにステアが全力以上の魔法出力を放っていることで、1分だった精神支配までの間隔が40秒まで短縮されてしまっていた。

 貫かれた脇腹の状態を戻し、那由多は戦いながら考える。


(永久化が戻るまであと17分31秒……私の魔力を消し去ることが出来る言霊は全て使ったが……《湧き出ろ》に代わって《速まれ》を使う分に魔力を300は保持する必要がある。私の勝利条件はそれまで攻撃を最低限の魔力で凌ぎ続けること……!なのにステアがわざと雑な魔力で言霊を使うせいで、そこまで耐えきれない!)


 ルクシアの軌道を読み、身体を逸らす。

 ノアの光線も同様に。

 1000年前の戦いとその後の封印中、この2人の動きは無数にシミュレーションしている那由多は、ノアとルクシアの攻撃は危なげなく回避できる。

 だがそこに差し込まれるリーフとルクシアの猛攻が、限りなく那由多を苛立たせていた。


(これ以上精神操作を食らうとまずい……度重なる侵入でステアが私の脳に慣れ始めている。勿体ないが、ステアの思考力を奪うか殺すかしないと私が負ける!)


 1529年生きてきた中で初めて出会った、自分に並び立てるかもしれない頭脳を持った天才児を那由多は高く評価していた。

 だからこそ全霊を持って、ステアを潰さなければ自分に未来はない。

 逆に言えばステアさえ倒せれば、彼女に割いている多くの思考力と消費する魔力の削減、なにより自分が唯一思考予測すら出来ない頭脳が消えることで残った連中は残存魔力だけで対処できる。のらりくらり躱して永久化の復活まで待てばいい。

 久音と永和、それにスイピアもいるが、同時対処が可能だ。

 それだけの自信が那由多にはあった。

 あとはメロッタがケーラを倒し、それを操って封印を破壊させれば、那由多の目的は8割がた達成される。


(ただ問題は……この程度の浅い考え、ステアも思いついている。だからこそリンクを下がらせて自分の護衛に使っている。かといってステア自身がアマラに行った精神操作の糸を手繰り寄せて逆支配する離れ業は、精神魔術師ではなくて最低限のサポートすらない私には困難だ。なら―――)


「(《――》)」

「《食い散らかす闇(ブラックイーター)》」

「《魂魄衝波(ソウルショック)》!」

「!」


 何かを那由多が呟いた直後、別方向から飛んできた殺意のない攻撃に、那由多は即座に対応して回避する。

 そして魔法を放った2人を愛おしく思いながら。


「魔法出力が戻っている……リンクのリセット能力か。2人とは出来ればこれ以上戦いたくないんだけどね」

「わたしもです、那由多。……ですからもうやめにしましょう。こんな喧嘩は」

「アタシもそう思う。お願いだよ、那由多」

「……いくら2人からの話でも、そればかりは聞けないね。それを聞き入れたら、私の1500年が全て水泡に帰す」


 ここから2人分、しかも自分は攻撃しづらい2人が加わることで、自分のタイムリミットを再演算していた。


「それだけは嫌だ。我儘かもしれない。だけど私は、絶対にあの楽しかった3人だけの世界を取り戻す。それを邪魔するなら―――まだ続けるよ、この喧嘩は」

「……そうですか」

「頑固だねえ」


 ―――91秒。

 約1分半以内にステアを倒せれば、再び自分の優勢に傾く。

 そう判断した那由多は、そのための布石を既に打っていた。

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[一言] 那由多……哀れだ
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