第369話 転生特典
『リンク』
『きゃっ!?……ステア?』
『そう。今厳しいから要約して伝える。あなたの転生特典、教えて』
『!?なっ……なんで、そのこと……!?』
『気にしている場合じゃない。いいから早く』
『そ、れは……!』
『このままだとこの世界のすべてがナユタによってリセットされる。もし那由多がタイムリープを完遂してしまえば、あなたの大好きなルクシアもメロッタもケーラも消える。それが嫌なら教えろ』
『で、でも、でも!』
『その転生特典が、ナユタ攻略の唯一の鍵になるかもしれない。あの人外級の天才をどうにかするには、予測のしようがないイレギュラーがないと無理』
『それは……分かる、けど……!』
『大事なのは、自分がどんな力を生まれ持ったかじゃない。どんな過去を持っているかでもない。今現在の自分の手持ちの力が、自分の大好きなものを守れるかどうか』
『……分かってる、わよ……!ああもう、分かったわよ!リンクの転生特典は―――!』
***
「リンクが……転生者……!?」
それも、転生特典を持って生まれているということは―――この世界における、正常な転生をしている?
「そこだけがイレギュラーだった。……だけどメロッタに監視させていた限り一度たりとも転生特典を使わなかったから、非戦闘系のものなのかと思っていたよ。なんでさっさと使わなかったのか」
「ナユタ……貴方は気づいていたって言うの!?」
ルクシアが那由多に向けて怒鳴った。
「当然だ。私は《伸縮魔法》なんてものも紺色の髪も知らなかったからね」
「……?」
「この世界のルールの話だ。新たな魔法は転生者からしか生まれないんだよ。だから初見の魔法の使い手が現れた時点で、そいつは転生者であることが確定する」
リンクはルクシアと那由多の会話を聞いて、唇をかんで押し黙ってしまった。
「……リンク。何故、黙っていたの?」
だけど、ルクシアはそれを許さなかった。
リンクは何度か口をパクパクさせた後、やがて意を決したように語りだした。
「リンクにとって―――自分が転生者だっていう事実は、消し去りたいものだったんです。だから自分が転生者だということも話さず、転生特典も使わなかった。前世のことは、もう終わったことだって区切りを付けたかったから」
自分の手のひらを見つめるリンクの顔は、辛いことを思い出しているように見えた。
「自分は転生者なんかじゃない。たまたま他人の記憶を持って生まれただけの別人。ずっとそう思い込むようにしてきました」
「なんで、そこまでして……」
「割といるんだよ、そういう転生者は」
那由多は引き続き厳しい目で、全員を見渡せる位置から言葉を発していた。
「かつての世界から有力な才能を持つ者を世界に引き入れるこの世界のシステム、だけどそういう天才の中には、自分が望まない才能を見出された者もいる。そういう連中にとって2度目の生は”前世の続き”じゃなくて”やり直し”なんだ。私やテスラとは違ってね」
「……なるほど。だから転生特典も使わないということですか」
「それは人によるけどね。常時発動型の特典の場合もあるし、割り切って使うやつもいる。ここまで徹底して使わないパターンはあまり見たことないかな。ただ、こういうタイプは特典自体が余程ピーキーな性能かあるいは―――余程前世の自分を嫌っているかのどちらかだ」
「………っ」
「リンク……」
「でも、もう変な意地はるのはやめたの」
リンクはばっと顔をあげて、那由多を見据えて。
「あなたと会って、ホルンが離れようとしてメロッタが裏切って―――ようやく分かった。リンクが大好きな居場所を守るには、手段を選んでいちゃいけないんだって。可愛くなくて忌々しくて、もう二度と使いたくないと使う度に思っていたこの技も。昔の弱い自分の象徴みたいで嫌いだった転生特典も。全部使う。変なプライドも意地も邪魔でしかないって、そう思ったの」
「正解だとは思うよ。事実、前世の無念や経験が大元になる転生特典は私でも予測出来ず、こうして隙を晒したわけだ。……まったく、今日は人生初の経験を色々とさせてくれるね」
那由多にとって、勝利や相手の優位に立つことはただの作業に近い。
那由多よりも高い能力を持つ人間なんて存在しない。きっと今後現れることもない。
だけどその那由多に、たしかにステアが―――並び立っていた。
「どおおおりゃああああ!!」
「いったいわねぇ、マジで……!」
「!クソッ……」
更に大声が聞こえてきて振り向くと、そこには傷を残しながらも動いても問題ないレベルまで再生したルシアスと、気絶から復帰して自己治癒で全快したノア様の姿があった。
「叱責、遅い」
「わりぃ、空間の解除に手間取ってよ」
「これでも急いだ方だわ」
わたしの頭痛もだんだん取れてきた。
いや、というか永久化が解除されたなら。
『スイ、代われます。お願いします』
『了解!』
わたしも回復するまで奥に引っ込み、スイに身体を渡して復帰。
永和もある程度土人形を動かせるまでには回復したようで、頭を押えながら土を形作っている。
「はっ!」
ルクシアの剣が那由多の脇腹目掛けて突かれる。
「くっ……!」
那由多はそれをかわし、しかしそこにはノア様とリーフ、そしてスイが。
「《黒雷》!」
「《時間停止》!」
「《勇者の聖剣》!」
「ちっ!」
不可避のはずの光と雷すらも、スイの時間停止を織り込んだ動きで回避。
だけどある程度の感電は受けたのか、即座に《流れろ》で体内の電気を地面に流していた。
『妙ですね』
『何が?』
『先程から那由多の言霊魔法が、必要最低限の使用になっている気がしませんか?ずっと絶え間なく使っていたのに、何かおかしいです』
『……たしかに』
わたしに湧いた疑問を解決してくれたのは、またしてもステアだった。
「永久化を、壊すことによる、利点は、再生能力の破壊だけじゃ、ない」
「?」
「ずっと、思ってた。言霊魔法は、便利すぎる。理論上は何でも可能な、きっと世界有数の、強力無比な魔法。そんな力が、普通、あんなにホイホイ使えるわけ、ない」
……!
そうか。《湧き出ろ》が壊れたことによる弊害か!
「言霊魔法は、多分、恐ろしく燃費が、悪い。他の魔法の、比じゃないくらい。今までは、無制限の魔力で、対処してた。けど今は、出来ない。いくら、元々膨大な魔力がある、那由多でも―――遠からず、魔力が、尽きる」