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第366話 同盟vs那由多3

「《尽きろ》」


 2つめの言霊が、那由多の口を使って放たれた。

 《尽きろ》。これは恐らく―――。


「魔力を、尽きさせた、けど……」


 壁によりかかって座り、血を流して青い顔をしたステアがそう言う。

 思わず駆け寄りたくなるが、今だけはそうもいかない。


「言霊魔法を封じたってことか!?」

「……2分の1」

「なに?」


「そしてハズレだ。《廻れ》」


 魔力が尽きた那由多を、全員が一斉に攻撃――したが、まったく変化なくわたしたちの魔法を空間ごと回転させて自分への命中を防ぎ、かつ仲間や同盟相手へとランダムで跳ね返された。


「うおっ!」

「疑念、何が起こった?」

「2分の1っていうのは、私が永久化している言霊の種類の話だよ」


 那由多は、転生特典で擬似的な不老不死を得ている。

 だけどそれだけじゃなく、底無しの魔力も手に入れていることは予想出来ていた。

 だからこそその底無しを《尽きろ》で底まで落としてしまえば、無力化出来る……じゃ、ないのか?


「仮に私の無限の魔力が“言霊で異常な程に膨大にしている”なら、今ので確かに魔力を失っていた。だけど生憎、私が永久化している言霊は《湧き出ろ》。これによって私の使用した魔力は、一瞬未満で無制限かつ即座に復活する。“無制限に湧き出る”このパターンの場合は、一度魔力を消しても即座に回復する。永久化させた魔法は私の魔力と関係なく動作するからね」

「……反則でしょう」

「よく言われたね」


 なるほど、そういう意味での2分の1か。


「らしくない賭けをしたねステアちゃん。いや、それくらいの賭けをしないと私に勝てないと踏んだか」

「…………っ」

「残念。君が行う賭けは全て私が勝つ」


 ステアにそう言って不敵な笑みを浮かべる那由多。

 そこにルシアスとリーフが突っ込んだ。


「《空間削減(エリアイーター)》!」

「《雷鳴の魔剣(カラドボルグ)》」

「おっ……」


 ……?

 今、ほんの少し那由多が……。


「永和」

「うん。ちょっとだけ……驚いた?」


 気のせい?演技?

 いや違う。わたしたちが間違えるはずもない。

 じゃあ何故驚いた。全ての動きを理解して動ける、未来視の上位互換のような能力を持つ那由多が。


「もしかすると―――那由多の予想を上回る、何かがある?」

「えっ、あの那由多よ?そんなのある?」

「あるとは思えませんが……」


 未だ例を見ない覚醒した超人体質と、自力で覚醒魔法へと到達した500年に1人レベルの天才。

 そんな2人が相手だ、那由多でも把握しきれていない何かがあるのかもしれない。


「永和、わたしたちは援護に集中しましょう。あの2人を主体にしてノア様とルクシアが加われば、リンクが抜けている今の状況でもステアを守りきれるかもしれません」

「ほんの少しでもイレギュラーを利用しようってわけね。OK任せて。那由多のことはアタシらが1番よく知ってるもんね」

「それは向こうも同じですけどね」

「あはは、そりゃそうか。頑張ろうね、久音」

「はい。頑張りましょう、永和」


 永和とは別の方向に分かれ、那由多の背後に回る。

 那由多にとっては予想通りだろうけど、それでもここが最適解と考えて。


「《黒の》―――」



 ズキンッ!!




「つぅっ……!?」


 突然、頭に電撃を食らったような痛みが走った。


「クロ!」

「おいどうした!?」

「な、にが……!」


 痛い。

 立っていられない。わたしは思わずその場に膝をついた。


『クロ!しっかり!』

「……?」


 いや、頭痛だけじゃない。

 抑えた頭から血が出ている。更に身体もズキズキと痛む。

 何が起こった?いや待て、この傷は―――。


「那由多と、戦った時の……?」


 記憶を取り戻す前、那由多のことを気づかず戦ってしまった時のダメージだ。

 那由多に治癒してもらったはずの傷が、元に戻っている。


「時間切れだよ、久音」

「時間切れ……?……!!」


 そう、か。

 言霊魔法の特性。数少ない弱点。



『生物に対して恒久的効果を及ぼすことが出来ない』。



(あの時かけられた、《治れ》の言霊が……切れた……!)


 だから記憶が戻ったことによる強烈な頭痛も、那由多がわたしを弱らせるためにつけた傷も復活した。


「久音!大丈……ぐうっ!?」

「ホルン!」


 少し遅れて《癒えろ》の言霊も切れてしまい、永和もその場に倒れ伏した。

 更にその影響で土人形が全て解除されてしまった。


「治してあげたいけどね……少しだけ我慢してもらうよ、2人とも」

「「《最上級治癒(エクストラヒール)》!」」


 ノア様とルクシアの治癒が、わたしと永和を包んでくれる。

 それによって外傷は全て消え去った。


 だけど―――頭痛は取れない。

 平衡感覚にすら影響を与えてくるほどの激しい痛みがわたしたちを襲い続けていた。


「光魔法による治癒は、あくまで外傷の修復。記憶を取り戻したことによる情報負荷による痛みまでは消せない。それを消すのは精神魔法の分野だ」


 精神魔術師のステアは、とてもじゃないけど今わたしたちを治せるような状態じゃない。

 痛みは全く引く気配がない。当たり前だ、わたしは14年、永和はおそらく15~16年分程度の記憶が一気に脳に注がれた。当分動けないだろう。


『クロ、なら代われ!言霊魔法の対象は常に1つである以上、対象外のボクは頭痛の影響を受けないはずだ!』

『さっきからそうしたいんですが……』

『?』

『……代われないんですよ』

『は!?』


 それでもスイなら動けると踏んだのに、さっきからどうやってもスイと入れ替わることが出来ない。

 おそらく、さっきわたしとスイを強制的に入れ替えた言霊の影響だ。


「その通りだよ、久音。《代われ》の言霊を永久化させることで、常に久音に身体の操作権があるようにしてある。もうスイピアとは切り替えられない」

『なあっ!?』


 失敗した……!

 言霊魔法のデメリットは聞いていた筈なのに。

 なんでわたしは、治癒はそのルールに含まれないと思っていた!


「これでやりやすくなった。2人を巻き込まないために、大規模な言霊は封印してたからね」


 那由多はほくそ笑み、全員が気圧される。

 わたしは必死に魔法を編もうとしたけど、あまりの痛みに途中で霧散し、まったく使えない状態にあった。

 永和も同様、土人形を動かそうともがくも、少し土が隆起するだけに終わっていた。


「悪いけど、いつまでも君らを相手にしてる程暇じゃない」


 その言葉を最後に、那由多の蹂躙が始まった。

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