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第365話 同盟vs那由多2

 しかしノア様は瞬時に超速移動し、那由多と距離を取る。

 ルクシアがそこに慌てたように全力で治癒魔法をかけ、傷は全快した。


「おい、今の……!」


 だけど全員、顔は晴れない。今の那由多の動きに見覚えがあったから。


「人の柔術(どりょく)、一発でパクるんじゃないわよっ……!」


 今のはリンクの技だ。

 わたしと永和以外の顔は驚愕と焦燥が現れていた。話に聞いていても、本当に出来るかどうか現実感が無かったんだろう。

 でもあれが那由多だ。人が一生かけて理解することに一瞬で至ってしまう究極の頭脳。

 凄まじい観察力で対象の動きを見て、後からその動きをミリ単位でトレースして。言うのは簡単だけど実現はほぼ不可能だ。

 だけど那由多は出来る。周囲の人間以外のすべてに恵まれていたこの子なら。


「良い技だ。スポーツと化した体術や護身術と違って、極めて実践的かつ攻撃的な柔術。実に便利だよ」

「うっさい!」


 コピーされたことに焦ったか、リンクが《縮地》で那由多との距離を詰めた。


「ダメよリンク!」


 だけどそれは悪手だ。ルクシアが叫んだけど遅かった。


「ワンパターンなんだよ君は」

「!?」


 那由多の服を掴もうとしたリンクの腕が掴まれた。

 リンクは身体を捻って外そうとしたけど、それより早く那由多の拳がリンクの鳩尾を穿つ。


「うっ……!」


 かなりの音が響いたにもかかわらず、何かしらの方法である程度受け流したのか、リンクは構わず動いて那由多の手を外した。

 だけどそれすら読んでいたのか、那由多はリンクの足を掴み、そのまま引っ張って無理やりリンクを自分の目の前に来させ、肘を首に叩き込んだ。


「か、は」


 リンクは吹っ飛び、壁にぶつかってそのまま倒れた。


「リンク!!」


 気絶したのかピクリとも動かない。

 ルクシアが回復させようとしたが、それより早く那由多が動いた。


「《爆ぜろ》」

「ぐっ……!?」

「ルクシア!」


 光の速度で回避したルクシアの動きすら読み切った那由多の言霊がルクシアを穿つ。

 わたしたちを苦しめ続けてきた、光の速度で動けるルクシアがこうも簡単に攻撃を当てられる。規格外の更に外側にいる那由多だからこそ成しえる神業だ。


 ルクシアは攻撃を受けたことによって回避と自己回復に専念せざるを得なくなり、一時的にリンク復活の契機を失った。

 ここでリンクを落とされるのはまずい。那由多に動きを予測され切っていない彼女が抜けたら、ここにいるのは全ての動作を把握されている者だけだ。

 こうなるともう那由多の流れ作業になってしまう。前までは那由多が時間稼ぎのために適当にいなしていただけだったからそれでも犠牲者は出なかったけど、今は違う。


 ステアが何をするか那由多でも判断できない以上、那由多はステアを一刻も早く仕留めたい筈だ。勿論わたしたちも要であるステアを失うわけにはいかないから全力で守る。だけど本気の那由多相手に果たして何分稼げるか。

 その時間稼ぎのためにも、リンクは失いたくない。全力でたたき起こさなきゃならない。


「永和、殴ってでもいいのでとにかくリンクを目覚めさせてください!」

「よしきた、おら食らえリンクてめこらぁああ!!」


 6割ほど本気の歓喜を滲ませた永和の土人形がリンクを囲む。


「《解けろ》」

「!!」


 だけど那由多が呟いた言霊によって、永和の土人形が全て元に戻ってしまった。

 勿論リンクを殴る前に。永和はそれが悔しかったのか地団駄を踏んでいる。


 那由多を信頼している者には無条件で言霊が効く。

 これがかなり厄介だ。何せこの影響で、わたしと永和は意思で言霊を弾けない。

 つまり行動や思考を操られる可能性が常に存在しているということだ。


『……スイ、代わりましょう』

『分かった』


 土人形の解除で改めてそれを思い知ったわたしは、即座にスイに代わることで防ぐ。

 闇魔法が有効な状況になるまではスイを主体にし、何かまずいことになればすぐに代わればいい。


『クロ、1回だけ最高位魔法を使うよ。いい?』

『那由多を殺すものでなければ構いません』

『よし』


 スイの要求に応える。

 わたしたちの魔力はノア様との戦いで半分近く切れていたし、どの道あと4分で那由多を倒せなければ終わりだ。

 この短い時間に魔力を集中させた方が賢明のはず。


 「《時空の封牢(タイムカプセル)》」

 「ん……?」


 最高位時間魔法が放たれる。

 その瞬間、時計のような紋様の魔法陣が那由多の足元に描かれた。

 那由多は飛び退こうとしたけど、足が接着したように動かないらしく、そのままにならざるをえなくなっていた。

 やがて魔法陣から光が放たれ、鎖が飛び出して那由多の手足を拘束した。


 「……」

 「《時空の封牢(タイムカプセル)》は、魔法陣の中に存在していて鎖が巻きついたものの時間を、ボクが指定した時間強制的に超減速させる。いくらお前でも暫くは動けない」


 凄い魔法だ。

 時間に干渉するためなのか、那由多相手にすら身動きを封じることが出来るとは。

 那由多も知らない魔法だったんだろう、初見で対応しきれずに食らってしまった。


 「ナイスよスイ。あとどれ位停止出来るの?」

 「魔力量にかなり差があるので、1時間くらいが限度です」

 「十分ね。今のうちに少しでもステアの回復と全員の治癒をするわ。ステアの負担を減ら―――」



 「《代われ》《使え》」



 「え……?」


 スイのおかげで止められた筈の那由多の言霊。

 だが2つの命令が聞こえると共に、わたしはいつの間にかスイと入れ替わっていた。


 「まずっ……!」


 わたしとスイの入れ替わりは、わたしに主導権がある。

 だからわたしを操ればスイを押しのけてわたしを呼び出すことは可能だ。

 だが……まさか、奥に引っ込んでいるわたしの人格そのものに魔法をかけられるのか!


 次の瞬間、わたしは《食い散らかす闇(ブラックイーター)》をスイの魔法陣に向けて使ってしまっていた。

 勿論そんなことでどうにかなる最高位魔法じゃない。だけどわたしとスイの魔法の共有は、レベルが比較的低いものに限られる。

 つまり最高位魔法と高位魔法の両立は不可能。無理に使えば―――!




 ガシャン!!



 「なっ!?」


 スイの最高位魔法が崩壊し、那由多が動き出した。


 「何が起きた!?」

 「……懸念。今の言霊、()()()()()()()()()

 「え!?」

 「よく見てるね」


 まったく慌てていない那由多が、わたしたちをじっと見つめている。


 「何をされるか正確には分からなかったけど、君らが私を拘束したがっているのは分かってるからね。完全に動きを止められる前に《与えろ》で一瞬だけ言霊魔法の権能を永和に貸与した。気は進まなかったけど《紡げ》で使う言霊を指定して私の言霊を代弁してもらい、久音が意味の無い高位魔法を使ってくれれば、後は勝手に拘束が壊れる。無駄な魔力を使ったねスイピア」


 魔法の、貸与?

 そんなことまで出来る?


『……あ』

 「あと2秒かな」


 やっぱり那由多は強い。

 ステアに頼るしか、ない。

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