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第364話 同盟vs那由多

「《穿て》《憂えろ》《這いよれ》《壊れろ》《揺らせ》」

「くぅっ!」


 オトハとオウランが抜けたとはいえ、そこに新たにルクシアとリンクが加わり、8対1の大激戦へと発展した。

 こっちは1人1人が現代では埒外と言える大戦力。だけど。


「うあっ!」

「《潰えろ》」

「あっぶ……!」


 那由多は全員相手に一歩も引かず、それどころかほぼダメージを受けずに攻撃をいなしながら戦っていた。


「《縮地》!」

「っ、《離せ》《掴め》《投げろ》!」

「ちっ!」


 ただし、さっきまでと比べて余裕で相手しているかと言われればそうでもない。

 特にリンクが入ってくれたのが大きい。彼女の柔術をすべて把握しきっていないらしい那由多は、リンクを近づけないように立ち回っている。

 そのためにそっちに言霊を割くから、若干ではあるが意識が逸れて何度か攻撃が当たっていた。だけどそれも永久化による不死で即座に再生される。


「なんっでこんだけ魔法を連発してんのに魔力切れしねえんだよ!」

「予測、《保て》と同じように何らかの言霊で魔力総量を増大させている可能性が高い。持久戦は勝機無し」

「なるほど、なあ!」


 リーフの言う通り、このまま戦いが長引けば先に力尽きるのはこっちだ。

 魔力量の問題もあるが、ステアが精神操作を差し込めるのは残り5回。現状決定打になり得るものがそれしかないわたしたちにとって、その5回で那由多を無力化できなければ詰み。


 更に言えば、リンクの柔術もだ。那由多の動きを制限させてくれているのはいいけど、このまま那由多に見せ続けるのはまずい。

 自分が知る知識を200%活用することで最善の立ち回りをひたすらに続ける那由多相手には、初見の技もしくは行動しか通じない。リンクが全ての技を出しきればもう那由多に柔術は通じないし、それどころかおそらくコピーされて那由多に使われる。


 現に那由多はさっきから、何度かリンクの攻撃を食らっている。那由多のことを知り尽くしているわたしだからわかるが、あれはわざとだ。

 リンクが柔術を使えば使うほどこっちが不利になる。かといって使わなければ動きを止められず、誰かが那由多に倒される。

 1人倒されればそれだけ隙が生まれ、また1人ずつ潰されてしまう。

 それでステアがやられれば終わりだ。今度こそ勝機がゼロになる。


『クロ、そろそろ1分だよ!』

『了解』

『3……2……1……』


 時間魔法の特性による超正確な体内時計を持つスイの言葉に従い、身構える。

 さっきの《縮め》はリンクの魔力回復速度を縮めることによってリンクを戦線復帰させるもの。今度は何を使うか、それは唯一ナユタを出し抜ける頭脳を持ったステアに任せるしかない。


「ぐっ」


 1分。

 5回の内の1回目、1秒だけステアが有利な言霊を使える。


「《満ちろ》」


 那由多が虚ろな目でそう唱えた。

 だが瞬きした瞬間には既に目の光を取り戻し、油断なく構える。


 《満ちろ》。何の効果を誰に与えたのか。

 疑問に思ったその瞬間。


「んお?……きたこれ!」


 後ろから声がした途端、地面が一気に隆起した。

 土は一気に盛り上がり、人間大の大きさで人型を形取る。

 無数の土人形が那由多を囲った。


「これってさっきの……」

「永和!」

「そ!魔力全快したよ!」


 なるほど、永和の魔力を満たしたのか。

 これが1回目。


「ははっ。悪い選択じゃないねステアちゃん。だけど本当に使いたかったのは《壊れろ》だったね?残念、先んじて使わせてもらった」

「……っ」


 功労者のステアは、しかし悔しそうな顔をしていた。

 どうやら早々にプランを乱されたらしい。

 那由多の言霊魔法は、一度使った言霊を連続して使用できず、多少のインターバルが必要らしい。その弱点を逆に利用してステアの言霊を制限した。


「うっ」

「ステア!」


 ステアは那由多を睨みつけた。けど突然苦しそうな表情で膝と手をついてしまった。

 ビチャッという音と共にステアの鼻から血が吹き出す。しかも今度は鼻血だけじゃなく、片耳からも若干ながら血が出てきてしまっていた。


「ケホッ……ハァッ……!」

「本当に凄いね、私の脳に干渉してその程度のダメージなんて。アマラに一度やらせてみたことあるけど、あいつは初手で脳死したよ?」

「忠告、余所見!」


 ステアを見つめた那由多の背後からリーフとルクシアが斬りかかる。


「《弾け》」

「!」


 那由多はステアを見たまま言霊を紡ぎ、2人を勢いよく仰け反らせた。


「言霊魔法の1度に1対象という制限の都合上、確かにわたしは1対多がどうしても苦手だ。だから解釈の変化による土人形の操作が可能となった永和を復活させたのはいい判断だね。だけど」

『まずい!?』

「全員飛びのいてください!」

「《圧せ》」


 スイと共有している未来視で何が起こるか先読みしたわたしは叫んだ。

 それに合わせて全員が後ろに下がり、直後に那由多の周囲にあった土人形が全て潰された。


「言霊の対象を人や物ではなく、空間そのものと指定すれば、範囲が狭いっていうこの魔法の弱点を消せるけどね」


 あの実力を解放したリンクすら苦戦させた永和の土人形を、一瞬ですべて破壊した。


「……へんっ。でもね那由多、アタシは魔力が続く限り何体でも今のを生み出せるよ」

「だろうね。けどそれ、私の語彙が尽きるまで魔力が持つかな?」

「うっ」


 那由多のボキャブラリをよく知る永和だからこそ、それが不可能だと分かっている。

 リンク同様、あるいはそれ以上に那由多の注意を逸らすことは出来る。けど無限じゃない。


「……そうだ!おいステア、次の言霊でこの中の誰かを」

「私と同じように不死化させる?それは無理だね」

「……ん、無理」

「な、なんでだ!」

『言霊魔法は生物に対して恒久的効果を及ぼさない。強力な言霊であるほどに効果時間は短くなる。それを防止するには永久化を使うのが必須。だけど転生特典である永久化の使い方は私では時間をかけないと把握できない。だから不可』


 口を開いて話すのももう辛いのか、ステアはテレパスでそう言った。

 そういうことか。だからステアははなから那由多の精神を一瞬でも乗っ取ることに終始した。

 無駄だと分かっていることに力を削ぐ余裕がないから。


「そういうことだ。《跳ねろ》」

「!!」


 全員が歯嚙みした途端、那由多が仕掛けてきた。

 言霊でバネのように加速し、ノア様の腕を掴み。


「なっ……」


 そのまま脱出されるより早く、恐ろしく洗練された動きでノア様を壁に叩きつけた。


「げ、ほっ」

「ノア様!」

『主様ー!』

「ノアちゃん!!」


 ノア様は血を吐いて崩れ落ちてしまった。

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