第362話 ナユタの猛攻
前回、リアルの問題が起こり報告なく更新が止まりました、すみません!
「ステア!意識はありますか!?」
「……大丈、夫。ぶい」
鼻血で顔と手が血だらけで、顔は青い。
だけどステアは確かに、してやったりという顔で弱々しくピースをした。
「時間が、ない……ルシアス、お願い」
「うお!……なるほどな、分かった。オトハ、オウラン、こっちこい!」
「え?」
「今すぐお前らをスギノキに飛ばす!ボタンを守れ!」
「……!ああ、了解だ!」
「なるほど。分かりましたわ」
「させるか、《断」
「《悪夢物語》」
「うくっ!?」
「ナユタ様!」
「《上級転移》!」
たった数秒で、状況が一変した。
先程まで完全な劣勢だった状況が、ひっくり返った。
一体何をしたのか皆目見当もつかないが、ただ1つ言えるのは。
「やったんですねステア。凄いです」
「最高よステア。本当に素晴らしい」
「……当、然」
まだ頭を抑えながらも、ステアはずっと笑っていた。
やってくれたのだ。あの那由多の予測を、上回った。
「ふっ、ははははは……マジでアマラと繋がらない。やられたよ。その優秀さ、今操られてる馬鹿と変えて欲しいくらいだ」
「ナユタ様、一体何が起こったのですか!?」
「アマラの超広範囲を利用したんだ。わざと精神魔法にかかり、自分も精神魔術師なことをいいことにその魔法に干渉し、効果範囲をアマラのものから自分のものへと一時的に改竄してあいつの精神を逆に支配した。今、アマラはステアちゃんの支配下にある」
「なっ……そんなことが可能なので!?」
「不可能だ。普通はね。久音と永和に分かりやすいよう言えば、携帯電話の電波を機器を使わずに逆探知するような規格外の神技だよ。到底人間が出来ることじゃない。……けど彼女はそれを成し遂げた」
那由多は、心から賞賛するように拍手をして。
「……素晴らしい。君は間違いなく私が生きた古今東西、いやこの世界の終末まで恐らく二度と現れない程の最も私に近しい天才だ。自分の計画を狂わされたことすら不思議と腹が立たない。……もう少し早く、君と出会いたかったよ」
「あ、ありがとう」
本当に心からの賛辞をステアに送っていた。
那由多がわたしと永和以外にここまで関心を抱いているのを見たのは初めてで、ステアを誇らしく思う一方、僅かに嫉妬の心が芽ばえる。
「ここまで私の計画を乱されたのは初めてだ。ステアちゃんは勿論、ボタン・スギノキも大したものだね。《重力崩壊》を使えるとは流石に思ってなかった。交神術で何かしらの裏技を使ったのかな?こちらは残り9人、しかも全員が消耗している状態でオトハとオウランを相手にすれば……」
だけど、妙だ。
今の状況は、那由多の想定外の筈なのに。
「だけどまだ、終わってない」
余裕を崩さない。
何の心配もしていないような笑みを浮かべ続けている。
「……まだ何か、考えているんでしょうね」
「当然。私を誰だと?」
「世界一頭がいい、自慢の親友です」
「ふふっ」
その大胆不敵な姿に、何度魅せられたことか。
「まあ、その種明かしをする前に……まずは
君ら全員、倒してしまおうか」
「!」
けど、今だけは―――那由多は敵だ。
「遊びは終わりだ。《生まれろ》」
「!かふっ」
「リーフ!」
那由多の言霊で、唐突にリーフが膝をついた。
《生まれろ》―――まさか、リーフの体内に毒か何かを生成したのか?
つくづく反則だ。毒劇魔法とほぼ同じことが可能だなんて。
「《異力切断》!」
「《跳ね返れ》」
「うおおっ!?」
那由多という神に最も近しい人間に与えられた、最強の魔法。
勝てるイメージが、全く湧かない。
「《闇拘束》!」
「《抜けろ》」
わたしの拘束魔法も容易く抜けられる。
拘束と共に魔力を消せないかと試したのに、全く効果がなかったらしく引き続き言霊を連発してきた。
「《光陰一閃》」
「!」
「遅れたわ」
そこにルクシアが攻撃を差し込んだ。
人質のリンクは解放された。ルクシアが止まっている理由は無い、当然だ。
後ろを見ると、ケーラとメロッタが睨み合い、永和とリンクはまだ立ち止まっている。
2人はさっきの戦いで魔力をほぼ使い切っている、役に立たないという判断か。
『クロ、代われ!』
『大丈夫なんですか?』
『折り合いつけた!もうつべこべ言ってる場合じゃない!』
『分かりました』
「……ああ、そろそろ出てくる頃だと思ったよ」
「《平行の未来》!」
「!」
スイの決意したような声と共に入れ替わると、いきなり知らない魔法を使った。
直後、周囲の岩が浮き上がりナユタを襲い、更に見えない何かがナユタを吹き飛ばした。
「おお!」
ルシアスが声を上げた。だが。
「なるほど」
「……!」
ナユタは、無傷で起き上がって身体の調子を確かめるように動かしていた。
「『もしかしたらあったかもしれない』エネルギーをこの世界線に持ってくる魔法ってところか。この魔法は知らなかった。やるね」
「……」
「たしかに厄介な魔法だね。けど所詮は既存のエネルギーの利用だ。無限に再生する身体でいくら受けたって私の命には届かない」
ナユタはいくら攻撃を加えても再生する。
転生特典による効果だから、おそらく魔力切れしても再生し続けるだろう。
魔力切れさせれば勝機自体は見える。けど、まったく起こす気配がない。
さっきから言霊を連打しているのに、一向に衰える気配を見せない。
対してわたしは限界が近い。
わたしだけじゃない、ノア様もだ。先程戦ってしまった影響で魔力が随分しぼんでいる。わたしとスイは魔力を共有しているから、わたしの枯渇はスイの戦闘不能も意味する。
全力を出せるのはルシアス、リーフ、ルクシアの3人だけ。単身で一国の軍隊以上の戦力を持つ3人だけど、おそらく世界全軍を相手取っても勝てるレベルのナユタ相手では勝機は薄い。
「《部位転移》!」
「《落雷》」
「《無数の閃光》」
「《裁きの光刃》!」
「《時間遅延》!」
高位魔法、あるいはそれに匹敵する威力の攻撃の飽和攻撃。
だけどナユタはため息を1つついて。
「《届くな》」
全ての魔法をたった1つの魔法で打ち消した。
「!」
「……嘆息。化け物め」
「そろそろやめにしようか」
そしてナユタは大きく息を吸った。
……連続で、誰も防げないほどの速度で言霊を使う気か!
「まずっ……」
スイが時間操作で防御を張ったけど、おそらく容易に砕かれる。
『口にした現象を現実にする』言霊魔法は、いくらでも後出しが効く。
(終わりか……!)
わたしは正直、諦めかけた。
やっぱり那由多は強い。本当に凄い。
ステアが頑張ってくれたけど、少し本気を出しただけでわたしたちを歯牙にもかけずに圧倒し始めた。
史上最強の魔術師であり、世界最高の天才である那由多を相手に、どうにか出来るとは―――、
「《縮め》」
「……ん?」
たった一言。
那由多が発した言霊はたった1つだけだった。
《縮め》。何を縮小した?
辺りを見渡す。だけど、何かが変化した様子はない。
「……?」
全員が困惑した。だけど最も困惑した顔をしていたのは。
「私は、何を……?」
他ならぬ、那由多だった。
「何をした?……いや、違う。私じゃない」
那由多はゆっくりと、わたしから少しズレた場所を見た。
そこにいたのは、言うまでもなく。
「……君か?ステアちゃん」
「……………」
ステアは、辛そうな青い顔で、止まらない鼻血を抑えながら、それでも立っていた。
そして、呟く。
「……よそ見、厳禁」
「!?」
「《縮地》」
気がつくと、魔力を失ったはずのリンクが一瞬で距離を詰めていた。
そして那由多の手を取り。
―――ズガンッ!!
「がっ……!?」
凄まじい動きで、那由多を地面に叩きつけた。