第360話 スギノキ決戦2
「……なるほど。流石はかつてナユタ様を封印した女の側近。侮り難しといったところか」
リーダー格らしい収束魔術師がそう言い、僕に向けて数発の収束砲を放ってきた。
勿論無敵化している僕には通用しない。更にその光線に合わせて銃を撃ち、頬を掠らせて出血させた。
「予定変更だ。全員でこの男を相手してから行くぞ」
「本気ですか?確かにあの射撃は脅威ですが、それでも警戒していれば対処できる範囲のはず」
「愚か者。今少しでもあの男から意識を逸らしてみろ、その瞬間に意識していない角度から弾丸が襲ってくるぞ。どうせボタン・スギノキは遠くには逃げられん、ここで確実にこいつを止める」
「殺しちゃダメなんだよねぇ?」
「ああ、ナユタ様が愛する御方の仲間だからな」
リーダー格の男は血を指で拭き取りながら、静かにそう言っていた。
僕としても好都合だ。ここで止めておけば、ボタンに被害が及ばない。
ステアに最後に教えてもらった、敵の希少魔法の情報。
ボタンの猛攻から生き残った敵の魔法は、《収束魔法》《植生魔法》《音魔法》《結界魔法》《念動魔法》《変身魔法》《錬金魔法》《回転魔法》そして《模倣魔法》。
模倣魔術師は初撃で殺した。出来るかは分からなかったけど、僕の無敵をコピーされたら最高に厄介だから。
「恐らくあの無敵は数分しか持たん。各々、自力で弾丸は回避または防御しろ。決して油断するな」
「「「了解」」」
全員厄介だけど、特に注意は収束魔法と強化魔法かな。
攻撃が効かないとはいえ、一切気は抜かない。
ボタンの命。そして世界の命運がかかっている。
「《食人植物》!」
「《地錬成剣》」
まず襲いかかってきたのは、植物と地面。
植物は言わずもがな僕を食べようと、地面は錬成魔法を流して操作してるのか。
「だからどうした!」
僕は足元にあった銃を飲まれないように全て蹴り上げ、僕自身もせり上がった地面を使ってジャンプ。
攻撃は掠った。けど効かない。無視して滞空中にサブマシンガンをキャッチ。
ガガガガガガッ!!
そのまま変身魔術師に撃ち込んだ。
「うわあっ!?」
変身魔術師は辛うじて弾丸を回避。
すかさずそこに収束魔術師の砲撃が飛んでくるが、今は効かない。
だが、いくつか銃を破壊された。
「ちっ……」
破壊された銃の破片をキャッチして形状を確認。
植生魔術師にギリ当たらない位置に向けて投擲する。
「どこ狙って―――」
破壊されていない銃の中から狙撃銃をキャッチ、脇に挟んで空中で角度を調整して撃ち込んだ。
衝撃は全部無敵化で弾けるから一切ぶれることなく、弾丸は僕が投げた破片に向けて飛んでいく。
耐性を付与した破片は狙撃銃の弾丸を跳ね返し、その弾は植生魔術師へと吸い込まれていった。
「ぎゃあっ!?」
「クソッ」
だが流石に思ったようには飛ばず、肩をぶち抜くだけに終わってしまった。
……なるほど、今の角度で撃つとダメなのか。もう少し調整すればいけそうだ。
「うっそだろ!?なんだ今の!」
「あんな曲芸じみた動き、どうやったらできるのよ!」
「勘」
全てを解決する答えを呟くと、数人が露骨に顔をしかめやがった。仕方ないだろ、本当にそうなんだから。
他の仲間程魔法の才能に恵まれなかった僕に唯一宿った、他の誰にも負けない才能。使わないと勿体ない。
「馬鹿者、ひるむな!絶え間なく攻撃を続けるのだ!無敵化が切れた時があの男の最後だ!」
流石に僕を脅威とみなしたらしい敵たち。
各々が自分の得意とする魔法を連射してきた。だが生憎、まだ3分半は持つ。
それより銃を破壊される方が厄介だ。僕は必要な銃と弾を庇いつつ、再び狙撃銃を構え―――、
「ばあっ!」
放とうとした魔術師が、突如煙を上げて姿を隠した。
一旦撃つのを中止し、代わりに傷を負っている植生魔術師に向けてけん制のために発射しておく。
まあ、普通に防がれた。
そして煙は晴れ、姿があらわになっていく。
そこにいたのは。
「アマラさんから聞いてるぜ?この女が好きなんだろ!?」
緑色の髪に、ぱっちりとした薄い黄色の瞳。
可憐な見た目に反した軍服が逆にバランスが取れている美少女。
「リーフ……」
「はっはっは!どうだ?好きな女を攻撃できな―――」
ズガンッ!
「げふっ……!?」
何か言ったようだが、隙だらけの変身魔術師の心臓に、今度は寸分たがわずスコープ無しの狙撃が命中した。
「て、てめ……なんで……」
「リーフはそんなテンションで喋らないし動きもそんな大きくない。お前みたいなふざけたにやけ笑いはしない。もっと冷えた目をしてるし隙を晒すこともない。それに本物のリーフなら僕の銃弾如きノールックで全部防げる。当たったことが偽物の証拠だ。僕を惑わせたいならちゃんと再現しろボケカス」
あまりの再現度の低さに苛ついて、過去最高速度で構えて撃ってしまった。
変身魔術師は変身が解け、そのまま崩れ落ちた。
あと7人。
「うっわ……」
「良く見てんなあ……」
……なんか敵に引かれた気がする。
あれ、これ僕がおかしいのか?いや、普通だよな。
好きな人を目で追ってしまうなんて普通のことなはずだ、うん。
あの姉の血縁だとか、そんなことは決して関係ない。
「さ、さて……次はどいつだ?」
変なことには目をむけないようにしよう。
僕は狙撃銃を背中に背負って、再びハンドガンを構えた。
「むう……想像以上の強さだ。適性のある武器を持つだけで人はこうも化けるものか。本来防御運用が主な耐性魔法をここまで攻撃に昇華させるとは」
「まあね。僕は周りに比べれば凡才だけど、これだけはうちの超人にも主にもお墨付き貰ってるんだ。だからお前らなんかにやられるわけにはいかないんだ、よ!」
そして、コッソリと背後に近づいてきていた回転魔術師に向けて銃を後ろに向けて発砲。
「うわっ!」
間一髪で避けたようだけど、今度は後ろをしっかりと見てもう一度撃つ。
何らかの魔法で軌道を逸らされたが、それでも脇腹を掠らせた。
「ぐっ……!」
「《物体念動》!」
「うおっ」
だが、銃が僕の手を離れて浮かび上がってしまう。
こうならないように耐性を付与していたが、やっぱり時間をかけると突破されるか。
「無力化したぞ!畳みかけろ!」
再び攻撃魔法の嵐。
効きはしないが、舞う砂ぼこりで辺りが見えなくなる。
一応腰にもう一丁銃はあるけど、さてどうするか。
(念動魔術師を潰したいな。さっきまでは瓦礫を浮かせて攻撃してくるだけだったのに、いきなり面倒になった。かといって見えてる銃弾は念動力で止められるから跳弾で仕留めるしかないんだけど、それを見越してか嫌な位置に陣取ってて倒せなかったんだよな……)
こうしている間にも周囲は砂ぼこりだらけだ。
こうしている間にボタンを狙いに行かれるかもしれない、それは避けなければ。
だがあいつらの狙いは僕の視界を遮って攻撃させないことだ。ここから脱出したところで再び集中砲火で砂ぼこりを巻き上げられる。
クソッ、面倒なことに……、
「2時方向距離40角度32、10時方向距離70角度44」
「!」
そこまで大きくない、だけど僕なら聞き逃さない声が聞こえた。
僕は迷わず言われた通りの場所に障害物があると仮定、何があるかも予測してぶっぱなっした。
数秒後、攻撃の嵐が止み、視界が開けると。
「なんだと!?」
首を討ち抜けていたらしい、倒れ伏す念動魔術師。
そして遅れて僕の頭に降ってくる、さっき奪われた銃。
「助かった」
「どういたしまして」
僕が「ほしい」と思っていた場所に、粘性の毒で跳弾用の障害物を作っておいてくれた姉に礼を言って、僕は弾を入れ直した。




