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第359話 スギノキ決戦

 転移した瞬間目に映ったのは、9色の髪色。

 そして、そのうちの1人が指先から何かを発射しようとしているところだった。


「誰だ……!?」


 攻撃の正体を瞬時に把握できない。

 ただのエネルギーの塊か、光の収束か、それとも別の何か?ステアなら気づくのと魔法の発動をほぼ同時に出来るんだけろうけど、僕はそこまで天才でも器用でもない。だから。


「オトハ!」

「《粘毒の壁(アシッドバリア)》」

「《完全耐性(フルガード)》!」


 全てまとめて、守る。

 放たれた光線は、僕の後ろにいるはずのボタンに向けて放たれた。それを阻むため、オトハが張った毒の壁に一瞬だけあらゆる攻撃を無力化する高位魔法を付与。

 光線は壁に着弾し、そのまま霧散した。


「無事か、ボタン」

「なん、だと!?」


 光線を放った男が驚愕の顔で僕たちを見る。

 そこで待ってろ。ボタンをこんな目に合わせた奴ら、全員。


「オトハ、どうだ?」

「傷は深いですが、致命傷は受けていませんわね。すぐに手当てすれば死にませんわ」


 僕が叩き潰す。


「……もう大丈夫だ、ボタン。よく頑張ったな」

「だ……」


 ボロボロだ。この国を守るために力を振り絞ったんだろう。

 たった1人で。本当に凄い。


「後は任せろ」


 僕はボタンの手を握って、できるだけ力強くそう言った。

 少しでも、ボタンの苦が和らげば……。


「だ、だ……」

「だ?」

「……旦那様あ!」

「違う!!」


 僕の心配と安堵を全部吹き飛ばすように、ボタンは恍惚とした顔ですっとぼけたことを言い始めた。


「旦那様、ワシ頑張ったぞ!そりゃもうめっちゃ頑張った!見ろこの見るに堪えないボロボロの姿、これはもうあれじゃ、ご褒美がないとやってられない奴じゃ!さあ何かこうワシが報われるようなやつを!なんかあるじゃろほら!」

「お前思ったより元気だな!あんまり動くな死ぬぞ!」

「話には聞いてましたが……はて、この愚弟のどこにここまで好かれる要素が?」

「ぶっ飛ばすぞ!」

「愚弟?……ということはこっちの見知らぬ女性は話に聞いていた義姉上か!」

「なんでさっきからもう結婚してる前提なんだお前!」


 僕らがどうやってここにとか、敵は何者なのかとか聞くべきこと色々あるだろ。

 でも、ここまで受け答え出来るってことは見た目よりダメージは深くなさそうだ。良かった。


「……歓談はそろそろいいか?」

「!」

「お前たちノアマリー・ティアライトの側近、オトハとオウランだな。何故ここにいる?ナユタ様の元にいたはずだ」

「答える義務はありませんわね」


 僕は一旦ボタンから目を離し、敵へと目を向けた。

 希少魔術師が9人。それもルクシアと戦った時に見た、染色魔法によって髪色を変化された紛い物じゃなく、僕らと同じ先天的な。


「オトハ。ボタンを安全圏まで避難させてやってくれ」

「1人で大丈夫ですの?」

「ああ」

「3分で戻りますわ、持ちこたえなさい。さっ、行きますわよ」


 オトハがボタンをおぶって、勢いよく走り出すのが分かった。


「……死ぬなよ、オウラン!」


 彼女の懇願するような声。

 わかっている。君との約束を果たす前に、死ぬ訳には行かない。


「大丈夫。僕は無敵だ」

「大口を!《空気収束砲(エアロキャノン)》!」


 なるほど、あの男は収束魔術師か。

 あらゆるものを1点に集中させる。応用によってそれに指向性を持たせて放ち、こんな風に遠距離攻撃にも対応出来る強力な希少魔法だ。

 だけど。


「《無敵化(ゼロエネミー)》」


 今の僕は、無敵なんだ。

 放たれた攻撃は僕の心臓を穿ち、だけど僕にダメージはない。

 完全に弾いた。成功だ。


「なにぃ……!?」


 《無敵化(ゼロエネミー)》はようやく僕が習得した、最高位耐性魔法だ。

 約5分の間、物理魔法精神問わずあらゆる攻撃に対する完全耐性を得る。

 つまり5分だけ、拘束を含む一切の攻撃が効かない無敵状態になる。その代わり効果が切れれば、無敵化中に受けた攻撃と同質のものへの耐性が半分以下に低下するが、そのデメリットを補ってあまりある僕の最強の魔法。

 その何もかもを無効化できる5分の間に―――、


「お前らを潰す」


 僕がそう言った瞬間、目の前にガチャガチャッと音を立てて何かが降ってきた。

 ルシアスの空間収納でしまってもらっていた、僕の銃だ。タイミングを見計らって送ってくれたらしい。

 その中から2丁のハンドガンを手に取り、僕は構えた。


「……ほう。まさかとは思うが、そのアルスシールの武器で我々と渡り合う気か?」

「確かに誰でも高い火力を出せるという点では優れた武器ですが、希少魔術師相手に通用すると?」


 予備の弾を両手に仕込み、1発撃った。

 やはり普通に防がれる。当たり前だ、ただの牽制だから。


「無敵になるその力は脅威だが、制限時間があるだろう。あと何分持つんだ?それまで我らを留めておけるとでも?」

「全員で固まっていても意味がありません。数人すり抜けて、ボタン・スギノキを始末しに行きましょう」

「お前たちをここに送る判断をしたやつは愚かだねぇ。ここに来るのがノアマリー、ステア、ルシアス、リーフ、ルクシア、リンクの誰かであればあたしらもヤバかった。だがあんたらなら数の暴力でどうとでもなるんだよ」


 言ってろ。

 確かに僕とオトハは、他のメンツに比べて劣っている。ルシアスのような超人でもない。

 この武器を得てかなり戦えるようにはなったけど、それでも力不足は感じていた。

 だけど。


「……僕らをここに送れと判断したのは、ステアだ」

「?」

「分からないのか?あのステアが、僕とオトハに行けって言ったんだ」


 あのナユタすら欺いた天才が。

 僕らを選んだ。それはつまり。


「お前らは、僕らだけで十分だと―――そう判断されたんだよ」


 僕はもう1発、今度は照準を外して斜めに撃った。


「……どこに撃ってんだ?」


 一見大外しの外れ弾だけど。


 ―――カンッ。


「ボタンたちはどこへ向かった?」

「あっちだ、今なら追いっ」


「今なら追いつける」と言おうとした男の言葉は続かなかった。


「なっ……!?」

「何よ、今の!」


 僕が撃った弾が跳弾で、頭を射抜いた。

 完全な死角からの攻撃なら、常時防御を張れる膨大な魔力と魔力効率を持たない限りは魔法を展開できない。それこそリーフ級でもなければ無理だ。


「何が起きた!?」

「空間魔法か……?いやしかし、空間魔術師はナユタ様と交戦中のはず……!」


 その通り。ルシアスは勿論、ステアもナユタに集中していて僕を手助けする余裕は無い。


「お前か……?」


 今やったのは僕だ。

 ちょうどいい角度の瓦礫があったから、跳弾させて頭を射抜いた。


 僕は射撃の才能がある。ルシアスお墨付きの特技だ。

 だけど、僕にあるのは「狙った場所に正確に当てる」だけ。風抵抗や飛距離といった部分を計算する頭はないから、屋外だと外れることもある。

 けど、弓を使っていた時もやっていたように弾丸に《空気耐性》を付与すれば、あらゆる抵抗を無視して真っ直ぐ弾は進んでくれる。

 更に《物理耐性》で、跳弾させるときの威力減衰と変形も軽減。これでハンドガンでもかなりの飛距離を威力を保ったまま撃ち抜ける。

 僕の魔力は他のメンバーに比べて高くない。だからこそ培った、少ない魔力で敵を殺す技。


「これでも半数で僕を止められるか?」


 残り8人。僕は慣れない挑発で敵を足止めする。

 世界のため、そして約束のために、ボタンを守る。

作者(……こいつリーフが好きなんだよな???)

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