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第358話 精神魔術師vs精神魔術師

 眼前で繰り広げられる、ナユタの圧倒的強さを観察しながら、私は考え続けていた。

 今までここまで頭を回したことはないってくらい、思考全てをフル回転させて那由多を攻略する方法を考えた。

 考えて、考えて、考えて。

 考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて。


 そして出た結論は。


(……無理だ)


 この先私が10年修業しても、きっとナユタには少しも精神魔法を通せない。

 精神力、魔力量、頭脳、そのすべてが私の上位互換。

 私1人じゃ、どれだけ頑張ろうとナユタをどうこうすることは出来ない。


(でも、だからって……!)


 このままなにもしないわけにはいかない。


 クロが、私たちと生きる道を選んでくれた。私になんとかしてくれって頼ってくれた。

 その期待と信頼に応えるために。世界を終わらせないために。

 また、クロとお嬢と皆と生きるために!


(まだだ……まだ、いける……!)


 ぎゅっと目を瞑って耳も塞ぎ、できるだけ外の情報が入らないようにして思考に集中する。

 まだ、もっと考えられる。まだ私は本気を出せてない。

 ナユタへの警戒意識だけは残し、それ以外は全て思考に充てる。


 ナユタを攻略する方法。メロッタを潰す方法。癪だけどリンクを救う方法。ボタンを助ける方法。


 これらすべての解決を、ナユタに気付かれる前にやらなきゃいけない。

 普通に考えれば不可能だ。少なくともいつもの私ならそう結論付ける。

 だけど、今は、今だけは。

 その選択から逃げるわけにはいかない!


(あっ……)


 そして―――気づいた。

 あまりにか細い、だけどたった1つの。

 ナユタを攻略する方法を。


 それに気が付いた瞬間、私は、意図的に自分の魔法抵抗を抑制した。

 約5分。その間、流れ弾でも来たら多分私は死んでいた。

 だけど、そうしなければいけなかった。

 そして。

 その瞬間は、やってきた。



『……見つけた』

『!?』



 私の魔法抵抗が落ちているのを察知した男の魔法が、私の思考を読むために頭に入り込んできた。

 判断としては間違っていない。私の思考さえ読めれば、ナユタの勝ちは完全に確定するから。

 だけど、今に限っては愚かな選択だ。


『くっ……!?』

『逃がさない』


 私に向けられた精神魔法の主。禁術によって超広大な発動範囲を持つ男、アマラ。

 そいつの精神魔法を、わざと受け入れる。

 そして―――その精神の繋がりを、辿る。


『貴様、なんのつもりだ!?』

『予想はつくはず。同じ精神魔術師なんだから』


 本来は、かけられた魔法の大本を辿るなんて真似は不可能だ。魔力とは本来不可知であり、生身の人間にそう簡単に感じ取れるものじゃない。

 だけど、同じ間精神魔術師の魔法なら。そのメカニズムを全て理解している精神魔法なら。

 細くてすぐに切れる糸で綱引きをするような鬼難易度ではあるけど。

 不可能ではない。

 不可能じゃないなら。理論上可能なら。


(私なら、出来る)


 魔法を切られないよう、相手にかけられた精神魔法を私の精神魔法で抑える。

 そのままその糸を、辿っていく。


『クソッ……何故だ、魔法が解除できん……!』


 アマラは必死に抵抗するけど、私は少しずつ近づいていった。

 もし仮に今の状況をナユタに連絡でもしようとしようものなら、それで緩くなった警戒の隙をついて一気に辿り切る。

 向こうもそれが分かっているらしい。私への妨害のみに集中していた。


『ぬ、ぬうううう!?』


 私が今やっていることを一言で言えば”ハッキング”だ。

 アマラの魔法範囲が広いのをいいことに、アマラが発した魔力を辿ってアマラに到達する。

 すると―――私は、アマラに精神魔法を届かせることが出来る。

 アマラの発動範囲を逆手に取って、アマラを乗っ取る。

 だけど当然、ほんの僅かにでも魔力の調整と思考演算をミスすれば即座に魔法の繋がりを断たれ、二度とアマラは私の頭に入って来てくれない。

 難易度は鬼ムズ。チャンスは一度。過去最高に神経を注いで、絶対に糸が切れないように数日分の集中力をここで費やす。

 脳が焼き切れるような感覚に襲われ―――それでも、やめない。


『……バカな!?なぜこんなことが出来る!いくら同じ属性といえど不可能だ!!』

『……不可能?』


 私は、頭の中で笑った。


『それは、()()()()常識の範疇の話でしょ?』

『…………!!』


 那由多の話を聞く限り、この男もまた1300年くらい生き続けている。

 精神操作の才能はないらしいけど、実際、情報収集や読心術なんかは抜群に上手い。その点のみ私と互角と言っていい。

 だけど。


『貴様ああああ!!』

『もう、少し……!』


 その才能は。

 私には遠く及ばない!


『このっ……!私の100分の1しか生きておらん小娘が!!調子に乗るなあああ!!』

『うっ!』


 ズキンと頭が痛くなってきた。

 自分の精神に支障をきたす覚悟で、繋がりをぶち切る気か!


『させない』

『!?更に、早く……!』


 鼻血が流れ出るのを感じながらも、全部無視して辿り続ける。手繰り寄せる。


 ここで止まったら、もう終わりだ。

 ぶつけろ、自分の力を。

 生まれ持った才能と、お嬢のために培った努力を。

 全部、出し切る!


『馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な!人間技ではない!こんな、こんな……!』



 そして。



『……捕まえた』


 辿り着いた。

 頭の中で、40代程度の男が歯ぎしりしているのが見えた。


『有り得ん……有り得ん!かくなる上は……!』


 自分が利用される前に自害する、か。

 私が何をしようとしているのか分かったんだろう。頭は回る。魔法も凄い。何より即座にナユタの不利益とならないために自害を選ぶ忠誠心。


 でもそれは全部―――私も持っている。


『させない!』

『ぐあっ!』


 そして頭の中なら、私は無敵だ。


『おのれ……おのれえええ!15にも届かん小娘が!何故1300年をあの御方に費やした私を超える!?有り得ん、こんなことあってはならない!こんなことが出来るのはナユタ様っ、貴方以外にいては……!』


 私は笑った。

 務めて、お嬢に似た笑い方で。

 心をへし折るために。



『その身体と魔法は、(天才)がもっと上手く使ってあげる。だから―――失せろ凡人』



 ―――《精神侵食(メンタルインヴェイド)》。



 乗っ取った。

 成功した。私はやった。


(早く、早く……!)


 アマラを操ったことによって、私はアマラの超広域発動範囲を得た。

 しかもアマラは精神魔術師。普段は使う魔法が違くて勝手が分からないから、精神支配した人間は命令するだけの全自動(フルオート)モードで使っているけど、今回は直接操作(マニュアル)でモードで操る。つまり、アマラを使って私と同じだけの精神魔法を発動できる。

 即座に先程までアマラが発動していた全ての精神魔法を検索、再発動。現在のスギノキの惨状を確認。

 そこでは、


(……ボタン!)


 大きなクレーターの中心で倒れるボタンと。

 未だ残っている、9人の希少魔術師。

 時間がない。順を追ってことを成す。

 まずはアマラを使って、不快だけどルクシア陣営を解放する。


『メロッタ、聞こえるか?ナユタ様からの御命令を伝える。今すぐ、リンクに侵入させた金属を摘出せよ』

『え……?』


 アマラの声の抑揚、口調。その他あらゆる要素を洗脳前と完璧に同じにしての操作。

 この超長距離精神干渉を、そもそも出来ることすら知らないメロッタはアマラが操られているだなんて考えない。


『ど、どういうことですか?何故ナユタ様は』

『ナユタ様の深謀を我々ごときが理解出来るとでも?傲慢だなメロッタよ』

『いえ、そういうつもりでは!……かしこまりました、すぐに摘出致します』


 第1段階クリア。

 次は、ナユタ本人。


『ナユタ様!』

『……なんだよ、親友との会話に割り込んでくるな』


 頭に響いた声は、さっきまでのクロに対するものとは似ても似つかない冷たい声。

 だけどそれは、ナユタすらも今は欺けていることを意味する。


『申し訳ございません、しかし火急でございます。少し大きい情報を送信致しますので、御手数ですが少し精神を緩めていただけると……』

『なんだ?……まあいいけど。これで』


『《記憶爆裂(メモリーパンク)》《悪夢物語(ナイトストーリー)》《擬似痛(メンタルペイン)》!!』


「!?……が、あ、ぁぁああ!?」


 流石はナユタ。気を緩めても、精神支配が出来るレベルまでは解放しなかった。

 だけど今はそれでいい。片端から精神にダメージを与える魔法を叩き込む!

 メロッタに摘出させるのも成功した。後のステップは1つ!


 ―――ガクン。


 あ、あれ?

 身体に力が入らない。頭を使いすぎた?

 ……ダメだ、まだ耐えろ。ここで脳がボンッてなってもいい。

 私の好きな全部を、消させないために。


「ふっ……あは、あはははははは!!……マジか!天才だとは思ってたし見くびっているつもりもなかったけど……そこまで出来るか!申し訳ないね、まだ過小評価していたよ!」


 私のしたこと。そして、これから起こすことを察知したナユタが笑った。

 やっぱりすごい。もう気づいた。

 そして、初めて出会った私以上の頭脳を出し抜けたこと、そして褒められたことが、場違いにも嬉しくなった。

【お知らせ】

次回連載予定の新作を短編形式で書かせていただきました。


『魔王の娘とクズ系女子たちによる、倫理観なき魔王討伐の旅』

https://ncode.syosetu.com/n3758jh/


勢い余って2万字超えてしまった。本当は1万字くらいに押し込むはずだったのに。

……そうなっちゃうくらい面白さが溢れる作品ってことです、はい!

是非読んで頂けると幸いです!

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[良い点] 流石はノア組屈指のチート
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