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第349話 那由多の計画

「は……?」


 絞り出すような声を出したのはオウランだった。

 ()()をよく知るオウランだからこそ、困惑もひとしおだろう。

 何せただ共有された記憶でしか姿を知らないわたしすら、那由多が何を言っているのか分からないんだから。


「いくら歴代トップクラスの重力魔術師と言えど、圧倒的な数差に加えて全員希少魔術師相手じゃ、抗いきるのは不可能だ。私の計算ではこっちは29人中8人は殺されるけど、残りで圧殺出来る。重力と相性がいい魔術師を優先的に守らせつつ事に当たるように指示しておけ」

『ははぁーー!かしこまりました!』


 那由多で隠れて見えなかったが、鏡の奥にいた男が平伏し、やがて鏡は那由多を映した。

 通信の魔道具なのだろうが、そんなものは気にもならない。那由多が何のつもりなのか、まったくの意味不明だ。


「な、なにを……なんのつもりだ!!」


 オウランが叫ぶ。

 那由多は全てに興味を失ったような目で、わたしたちを見渡した。


「……大切な親友に対して、こんなことは心の底から言いたくないんだけどね」


 そう言った那由多は、永和に目をとめて。


「永和。リンクを助けたいよね?」

「な、何言って!こんなやつ、アタシは」

「でも焦ってる。発汗量が増え、足もリンクの方を向き、アタシに対して困惑と怒りの感情を向けている。助けたいと思っている証拠だ」

「……っ!」

「リンクを助けたければ―――」


 そこで言葉を一旦切り、今度はわたしに目をむけた。


「久音の中に入り込んでいるスイピアの魂を、死霊魔法で分離するんだ。そして、その魂を私に宿してほしい」

「は?」

『な、ああ……?』

「適合については気にしなくていい。合わなければ言霊で私の身体を変質させるだけだ。さあ早く」


 疑問が、頭を駆け抜けた。

 メロッタが那由多の配下とはどういうことか?

 さっきの男の声は誰だ?アマラと呼んでいたけど、1000年以上前の信者と同一人物なのか?

 何故ボタン・スギノキを狙う?

 スイを自分に宿せ?


 あまりに多い疑問に、頭がくらくらしてきた。


「で、出来ないよ……アタシ、魂の分離なんてそんな……」

「出来るよ、今ならね。そもそも何故今まで久音とスイピアの魂の分離が出来ないと思っていたのか?それは2人の魂の境界が分からなかったからだ。複雑に絡まった2本の糸を目隠ししてほどこうとしてたみたいなものだ。だから引っこ抜こうとしても、生者である久音の魂と絡みついて抜くのは不可能だった。けど今は違う」


 那由多の作戦が何か進んでいることは分かる。

 だけどその内容が全く分からない。スイを分離することとボタンを殺すこと、何の関わりがある?


「記憶を取り戻したことで、永和は久音に対する解像度が極限まで上昇した。だから今なら2人の魂の境を明確に感知できるはずだ。時間はかかるだろうけど、死者であるスイピアの魂を分離して強制的に引き出し、私に移すくらいは出来る」


 わたしの中で、スイが震えているのが分かった。

 どんな魂胆かは分からないけど、スイにとってろくでもないことを那由多が画策しているのは確かだろう。


「ナユタ……!」

「動くなよルーチェ。少しでも攻撃するそぶりを見せれば、メロッタがリンクの内臓を破壊する」

「………」

「メロッタ、何か言いなさい!何故ルクシア様を!」

「先ほどナユタ様が申された通りだ、ケーラ。私は最初から、ナユタ様の命令でお前たちのもとに潜入した。記憶を消された状態で、お前たちと語らい……月に1度、アマラ殿を通して一時的に記憶を戻して頂き、ナユタ様に状況を報告していた」

「………!」

「ずっと裏切ってたってわけかよ、メロッタ……!」

「裏切っていた?それは貴方が言うにはふさわしくないだろう、ホルン。ナユタ様はいついかなる時も、常にお前の味方なのだから。だから少なくとも、私は貴方だけは裏切ってはいない」

「うぐっ」


 正直なことを思うなら―――今、窮地に立たされているのはルクシアたちだ。

 やられたのはリンクであって、わたしたちの仲間じゃない。だからわたしたちは別に好きなように動ける。

 だけど、メロッタが裏切ったことで。わたしたちと同様、鉄壁だと思っていたルクシアたちの関係に亀裂が走ったことで。


 思ってしまった。「わたしたちの中にも那由多の息がかかった者がいるかもしれない」と。


「那由多、貴方まさか……わたしたちの方にも……」

「大丈夫、クロ」


 そんなわたしの不安をかき消すように、落ち着いた声を出したのはステアだった。


「私たちの、中に、裏切り者は、いない」

「な……なんでそう言い切れるんですか」

「私が、いるから」

「え?」

「基本、記憶の”完全な”消去は、有り得ない。だから、消去という言葉は、誤り。”封じる”とか”忘れさせる”が、正しい」

「……それがどうしたんですの?」

「完全に、消されたわけじゃ、ないなら―――私が、記憶の違和感に、気づかないわけ、ない」

「あ……!」


 そうだ。その通りだ。

「記憶を戻してほしい」と願っていなかったわたしの場合を例外として、長年連れ添って一緒にい続けた仲間に記憶分野で問題があれば、ステアがそれに気づけないとは思えない。

 敵方にいたメロッタに気付けなかったのは仕方がない。敵の記憶に違和感があったとして、それをわざわざ復元したりする義理はないんだから。

 だけどうちの天才が、仲間の違和感を察知できないわけがないのだ。


「……ふぅ。そっちも疑心暗鬼に陥ってくれればと思ったんだけどね。ま、正解だ。ハル、お前たちの方に私のスパイは紛れてないよ」

「……ふん」

「ステアちゃんに感謝するんだね。彼女がいなければ私はそっちにも送り込んでいた。まったく、つくづく色々な意味で厄介だよ、君は」

「ありがと」

「……別に褒めてない」

「あと、いっぱい時間、あったおかげで」


 那由多が警戒するようにステアを見つめる中、ステアは1歩前に出て。


「あなたの、計画、分かった」

「……!」

「本当?ステア」

「ん。これなら、全部、繋がる。でも、1つ、確認したい」


 那由多の目をステアはじっと見つめ、質問を投げかけた。


「スギノキの『禁術』は―――()()()使()()()()()()()()()()()()()()()。違う?」

「……へぇ。やっぱすごいね、君。私の計画をこの少ない情報量で見破られたのは初めてだ」

「やっぱり」

「ど、どういうことだよステア!なんでボタンが狙われるんだ!」

「……私から、説明、しようか?」

「いや?どうせ見破られてるんだ、私から言うよ」


 2人の天才が、互いを認め合いつつ警戒し、睨み合っていた。

 そして那由多は―――計画を明かし始めた。


「プランZは文字通り、本当の意味での最終手段だ。スイピアの魂を転生魔法に組み込めないと悟った瞬間にかけておいた()()を用いた、私自身も正直使いたくない計画だったよ。このプランは何らかの理由によって2人の中での私の優先度が第三者より低くなった場合、かつ永和が生存している場合にのみ使える。材料は2つだ」


 那由多はわたしを指さした。いや、おそらくスイを指さしたんだろう。


「1つ目は時間魔法、お前だスイピア。そしてもう1つが……海洋国家スギノキに私が残した『交神術』の術式」

「交神術―――あの文字がびっちり書かれた部屋か!」

「そうだ。ステアちゃんの推測通り、あの術式は『最後に使用した者がその所有権を得る』っていうように設定してある。あの魔導文字による術式の所有は脳の容量を若干割くからね、今後も禁術を研究していく都合上あのプロトタイプは不必要だったし、無駄な容量を消すために所有権を放棄した。まあ今思うと失敗だったよ。なんせわざわざ、人に頼って現神皇を殺さなきゃならない羽目になったし」

「……どういうことです、那由多。何故、ボタン・スギノキを殺す必要が?」

「なに、いたって単純な話だよ。現神皇が《重力魔法》の使い手ということは、彼女は交神術を発動している。つまり現在の所有権があるのはボタン・スギノキだ。……じゃあ、今ボタンを殺すとどうなる?」


 考えられるパターンは、2つだ。

 所有者死亡により権限が宙に浮き、次の使用者が現れるまで誰にも所有されていない状態になるか。

 あるいは―――。


「後者だよ、久音」


 私の思考を読んだ那由多が、少し笑いながらそう言った。


「交神術の所有者が死んだ場合、あの術式の所有権は()()()()()()()()()()。そいつも死んでいた場合は更に戻る。これを繰り返して、歴代の所有者が全員死んでいた場合、初めて所有権が宙に浮くんだ」

「……やっぱり、そういう、こと」

「そうだ。だけどあれを作ったのは私だ。だから、最初に動作確認のために使ったのも私。そしてボタン・スギノキ以前の歴代所有者は全員死亡している。つまり彼女が死ねば、その所有権は私に移る」

「……あの、術式、ちらっと、見た感じ―――()()()()()()()()()

「その通り。あの術式は所有者に限り、星の裏側にいようと効果が発動するようにしてあるんだ。つまりあのプロトタイプにのみ備わる、『何かを代償に願いを叶える』っていう効果を、再び私が使えるようになる」

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