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第31話 精神魔法

「ステア、ノア様、着きましたよ」


 長旅で疲れ、昼になっても寝ていた2人を起こす。


「んにゃ………もう朝?」


「昼です。ティアライト領に着きましたよ。ほら、ステアも起きなさい」


「んむぅ………あ、ホットケーキ」


「誰がホットケーキですか。寝ぼけてないで、馬車から降りてください」


 2人を馬車から引きずり下ろし、運転手さんに合図を送って馬を小屋に繋ぎに行ってもらう。


「ノア様、ステアのことを御父上にご報告しなければならないのですから、ちゃんと目を覚ましてください」


「ふぁぁ………もういいじゃない、あんな男に報告なんかしなくたって。どうせ後になって執事が話すわよ」


「聞こえているぞ」


 声がして玄関の方を振り向くと、ノア様のお父上、ゴードン・ティアライト伯爵がいた。


「またか。またなのかノアマリー。何故お前は劣等髪を拾ってくるんだ!」


「ちょっと大声出さないでちょうだい、ステアが怯えるじゃない。クロ、ステアを先に連れて行って。私も後から行くから」


「かしこまりました。行きましょう、ステア」


「?わかった」


 あまりこの親子の事情には関わりたくないので助かる。

 わたしはステアを連れて屋敷の中に入り、中庭を抜け、今は使われていない使用人室に入った。


「ステア、わたしから離れないでください」


「ん」


「じゃ、行きますよ」


 床に魔力を流し込んで、闇魔法のエレベーターを展開する。

 ステアは驚いていたけど、わたしから離れないって言いつけはちゃんと守り、一緒に下に降りることが出来た。

 この3年で、このエレベーターにも私の新鮮な魔力を溶け込ませ、スピードを速くしている。

 それでも1分くらいはかかるけど、前よりはずっと効率良くなった。


 闇魔法が晴れ、階段を降りると、そこには大書庫が広がっている。


「………すごい」


「そうでしょう。さて、色々やる前に、ステアにはこれを預けておきましょう」


 わたしは奥から指輪を一つ取り出し、ステアに預けた。


「これ、なに?」


「ここの鍵です」


「かぎ?」


「ええ。この場所は、闇魔法の魔力を流し込まないと来ることが出来ません。けどそれにはわたしの魔力が込めてあるので、それを近づければここへの扉が開くようになっています。込められる量が少なくて10回使えば中が空っぽになりますが、わたしに言ってくれればまた入れてあげます。いいですか、絶対になくしてはだめですよ」


 ノア様がここに集めたいくつかのアイテムを改良して作ったものだ。

 元となるアイテムが少なくて5個しか作れなかったけど、ステアには必須だろう。

 そしてうち一つはノア様が持っている。


「これがないと、ここにこれない?」


「ええ、だからちゃんと自分で持っててください」


「ん、わかった」


 ステアは自分の指にそれを嵌め、指輪は自動的に大きさが調整される。


「ここ、なに?」


「ここはノア様とわたしとステアしか知らない秘密基地です。絶対にこの場所のことを他の人に話しちゃだめですよ」


「わかった」


 頷くステアを見て、わたしは感動していた。

 なんていい子なんだろう。うちのノア様なんか私の言うことをちっとも聞かないのに、この子はちゃんと聞いてくれる。

 ステアの素直っぷりに目頭を熱くしていると、後ろの方で音がした。

 ノア様が指輪を使ってここに来たらしい。


「はーっ、やっと黙ったわあの頑固男。待たせたわね2人とも」


「だいじょぶ、まってない」


「ステアに指輪を渡しておきました。これでこの場所に来れる者が3人に増えましたね」


「賑やかになるわね。さてステア、貴方が今後何をすればいいのか話さないとね」


「ん、おじょうのために、がんばる」


 ノア様はにっこり笑うと、近くにあった本棚の下の段から、一冊の本を取り出し、ステアに手渡した。


「《精神魔法》。それが水色の髪を持つ者だけが使える希少魔法よ」


「せいしん、まほう?」


「つまり、生物の心や思考、記憶を操る魔法ということでしょうか?」


「相変わらず理解が早いわねクロ」


 渡された本には、『四歳から始める精神魔法』と書かれている。

 しかし、ステアがそんなことが出来るようになったとしたら凄まじいことだ。

 精神を操る魔法。パッと思いつくだけでもあまりにも汎用性が高い。


「………??」


「ピンと来てないみたいですね」


「つまり、人の思ってることが分かったり、逆に自分が思ってることを人に伝えたりできるってこと」


「よくわからないけど、わかった」


「良く分かってないじゃないですか」


 しかしまあ、4歳の幼女には難しい話だろう。


「じゃあ分かりやすくしましょうか。クロ、属性ごとの特徴についてはもう話したわよね?」


「はい、人がそれぞれ持つ、属性によって分かれる特技みたいなものですよね。炎属性ならちょっとやそっとじゃ火傷しない、水属性なら溺れない、みたいな」


 闇属性なら、どんな真っ暗な場所でも見える暗視能力と生体反応を感知できる。

 光属性なら、どんな光を受けても目が眩まず、更に常人の100倍の動体視力を持つ。


「精神属性の場合はどうなるんですか?」


「クロ、27日前の天気を覚えてる?」


「いえ、さすがに」


「じゃあステア、わかる?」


「くもり」


「だそうよ」


「え?覚えてるんですか、ステア?」


「なんで、おぼえてないの?」


 きょとんとするステア。

 なるほど、そういうことか。


「精神属性の特徴って、つまり完全記憶ですか」


「そうよ。生まれた時から今までのことを絶対に忘れないのが、精神魔術師の特徴」


 なんて便利な。

 わたしなんて暗いところでも目が効くってだけなのに。


「なにか、へんなこと、いった?」


「ステア、良いこと教えてあげるわ。ステアは生まれた瞬間から今までのことを全部覚えてるわよね?けど、普通の人は忘れちゃうのよ」


「なんで?」


「なんでっていうか、そういう風に頭が出来てるの。けどステアは、人が忘れちゃうようなことを全部覚えてられる。他にもそうね、自分が見たいなって思った夢を見ることも出来るわ」


「すごい」


「そう、すごいの。それがステアの精神魔法よ」


「わたし、すごい」


「そう、ステアはすごいわ」


『自分が見たいと思った夢を見られる』という言葉に反応し、ステアは目を輝かせた。

 実際凄いけど、絶対使い方間違えてると思う。


「ま、とにもかくにもまずは勉強しなくちゃね。ステア、文字は―――」


「よめない」


「でしょうね。大丈夫、文字を勉強するための本もここには揃ってるわ。クロ、空いた時間で交代で教えてあげましょう。絶対記憶があるし、言葉は分かってるから一瞬で事が終わるわよ」


「かしこまりました」


 ノア様は奥の本棚から、絵本や文字の書き写しのための本なんかを持ってきた。


「じゃあ勉強する前に、魔力量だけ測っちゃいましょうか」


「そうですね」


 本をステアの隣に置くと、ノア様は机の上にあった体温計―――もとい、魔力測定器をステアに手渡した。


「はい、あーん」


「あーん」


「あーんっていっても食べちゃだめよ、咥えるだけ」


「ん」


 この測定器では、使用者の現在引き出せる魔力量と、才能の限界値である最大魔力量が分かる。

 ちなみに3年経った今のわたしは『96/400』、ノア様が『72/620』。

 最大魔力量平均が普通の四大属性使いは35、希少魔術師で150であることを考えると、相当多い部類だ。


「どれくらいでしょうね」


「まあ、200あれば嬉しいわね」


 少ししてピピッと音が鳴り、計測が終わったことを伝えてきた。


「ステア、見せて」


「ん」


 ステアが口から体温計(魔)を取り出し、ノア様に渡した。


「さ、どうかし………ら………?」


 それを見ると、何故かノア様は固まってしまわれた。

 まるでありえないようなものを見るかのように、計測された数字が表示されている部分を凝視している。


「どうなさったんですかノア様?何かおかしい………点………でも………?」


 気になって、わたしもノア様の背中の方から覗き見た。



『1/1450』



「「………はあああ!?」」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ステア、単純な魔力量だけなら「黒染の魔女・ハル」だった頃のノアすら凌駕…! 希少種の王をも超えているとなると、それは故障か我が目を疑いますね。
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