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第345話 リンクの秘密

 こうして至近距離まで近づくと、改めてムカつくなと感じる。

 何故かって?ナルシストが本当に美形だったらムカつくでしょ。そういうことだ。

 アタシはじっとアタシの目を見てくるリンクと、たっぷり10秒以上睨み合っていた。


「……なんだよ」


 沈黙に耐えきれずに声をかけてしまった。

 けどどうやらリンクもそれは同じだったようで、話に乗ってきた。


「あんた、マジでお姉様を裏切る気?」

「……裏切るってのとは、ちょっと違う。元に戻るんだ。一緒に那由多と久音とバカやってた、あの頃のアタシに」

「………」

「那由多と久音はアタシにとって、この先絶対に現れないほど大切な親友だ。その親友を、あの御方は傷つけた。善悪がどうあれ、その事実は変わらない。けどアタシは久音と違って万に1つも主人に勝てないから、那由多に代わって復讐なんてできない。ならせめて、那由多と一緒にいてあげたいんだよ。アタシにまた命をくれたあの子のために」


 アタシら3人がどれほどお互いを大好きか。それはきっと他人には分からない。喧嘩をしようと何しようと、好意が薄れることは一度も無かった。

 誰にも邪魔されたくない、アタシらだけの絆。だからこそ、アタシは那由多を選ぶと決めた。


「お前に分かるか?子供の頃からずっと孤独で、誰にも愛されなかった救いのない人生送ってた人間が―――自分を心から思ってくれる人に出会えた時、その奇跡にどれほど感謝できるか。一緒に遊んで、嫌な思いをさせたやつには報復して、時には喧嘩して……今まで生きたすべての人生を合わせた時より、那由多と久音と一緒に過ごした1日分の方がアタシにとっては大切だったんだ。それは那由多も同じなんだよ。……だからアタシは、あの日々をもう一度過ごすために、那由多についていく」


 アタシの決心をリンクにぶつけた。

 聞き終えたリンクは―――それまで一切動かなかった表情を歪め、アタシから目を逸らした。

 アタシの意思が固いことを察してくれた、と思ったが。


「……分かるわよ」

「ん?」

「分かるっつってんの。その気持ちは」


 リンクもまた、決心したような顔つきになった。

 そして、アタシの耳に顔を近づけ、ボソッと……。


「(――――――。――――――)」


 ………は?


「ちょっ……はあ!?おま!?な、なんでそれ黙ってたんだよ!?」

「……リンクにとってはもう終わったことだから。今のリンクは、昔のあんたと同じように居場所を見つけた。だからもう忘れようと思ってたの」


 リンクがアタシに話した、自分の秘密。

 嘘かもしれない。だけど今の話が本当なら、何故リンクがあれほど強いのかの説明はつく。

 だけど……ええ……?


「……それ、他に知ってるのは?」

「いないわ。あんただけ」

「なんで、アタシに言う?ルクシア様にすら話してないのに」

「……分かんないの?」


 リンクはいつの間にかアタシへの攻撃姿勢を解いていたが、そんなことより頭が追い付かなさ過ぎて攻撃どころじゃない。

 リンクはアタシに覆いかぶさったまま、恥ずかしがっているような表情で言った。


「アタシの居場所は、お姉様の元よ。どうしようもない人生に意味を与えてくださった、あの人がリンクのすべて。……だけどさ。リンクはあんたのこと大っ嫌いだけど、それでも感謝はしてんのよ。だって、あの時あんたがリンクを見つけてくれてなかったら、リンクはここにはいなかった。また救われない人生を繰り返してた」

「お、おう……」

「あんたのことは、野菜の次くらいに嫌いだけど……それでも、仲間じゃない。リンクがようやく見つけた、居心地がいい空間にいる1人じゃない。勝手にいなくなろうと、すんじゃないわよ……」


 アタシは、思い出した。

 この喧嘩が始まった最初は―――リンクがアタシをぶん殴った。

 あの御方に、自分が那由多の元に行くことを伝えようとしたところで。

 さっきは違うって思ったけど、やっぱりこいつ……?


「お前まさか、そのためにアタシのこと殴ったのか?」

「……っ」


 アタシが離反すると思ったから、それをルクシア様が聞くと悲しむからアタシを殴ったと言っていた。裏切り者の処断って名目でアタシを亡き者にしようとでもたくらんでるのかと、そう思ってた。

 けどこいつ本当は、アタシがルクシア様にそれを言ってしまったら、もう元には戻れなくなると思って―――だからアタシを殴ったんだ。

 アタシと、そしてなにより自分のために。


「お、お前馬鹿だろ?それただの引き延ばしじゃねーか!アタシの意思が変わらない限り何の意味もないだろ!」

「……そうね」


 未だかつて見たことがないほどしおらしいリンクに、アタシは違和感バリバリだった。

 こいつは喜ぶと思った。アタシがいなくなるって。なのにこいつは、アタシがいる空間がいいと言う。

 いや……まあ、そりゃ、アタシだって。

 名残惜しいって気持ちがないわけがない。だって、記憶が無かった時にアタシに居場所をくれたのはルクシア様なんだから。

 ケーラとメロッタと一緒にいる時間も楽しかった。

 そしてまあ……忌々しかったけど、嫌いだけど。

 こいつと喧嘩してる時間も、なんだかんだ新鮮だったことは否定できない。


「あんたとナユタとクロが、どんな時間を過ごしてきたのか―――リンクには分からない。だけど、リンクたちだってあんたの居場所じゃないの?記憶を取り戻して、もっと楽しい場所思い出したからはい終わり、だなんて……!」

「お、おいリンク……」

「もっと欲張れよ!あるわよ、ナユタとも和解出来てリンクたちとも一緒にいられる、そんな都合のいい物語みたいなことも!」


 何を無茶苦茶言ってるんだと、アタシは思った。

 普通に考えて、そんなことできるわけがない。できるわけがないからあんなに悩んだんだ。

 けど、そう言い切ってしまうほど、アタシは大人じゃなかった。

 突然飛び出してきた根拠のない大言に、魅力を感じてしまった。


「だから、いきなりいなくなるなんて、そんな決断いきなりするんじゃないわよ……バカホルン……!」


 顔に一滴だけ当たった水を手で拭きとって―――アタシはゆっくりと身体を起こした。


「……悪かった」

「ううっ……!」

「お前の言う通りだ。親友に会えて、ちょっと自分を見失った。ごめん」


 リンクの顔を見て、アタシはそう言った。

 そうだ。アタシはもっと欲張りになってもいい。前の世界であんなに抑圧されたんだ、こっちの世界ではもっと自由にしたっていいかもしれない。

 那由多もルクシア様たちも、どっちも選ぶ。そんな滅茶苦茶な欲を抱いたって。


「ちゃんとルクシア様―――ご主人様と話すよ」

「……ん」

「でも、それはまあ一旦置いといてさ」

「へ?」


 そして、そんなに色々欲を抱いていいなら―――このままじゃ終われないって思ってもいいよな?

 アタシは再び土人形を地面から呼び出し、リンクを囲った!


「とりあえずあんたに勝って、スッキリするところから始めようかなあ!」

「ちょ、おおおい!?不意打ち卑怯―――!」


 リンクは土人形を必死の形相で回避し、1体の首を飛ばした。

 だがその程度じゃ止まるわけがない。


「だははは、無駄に綺麗な顔が台無しだぞリンク!言ったろ、お前に負けるのは死んでも御免だって!」

「ざっけんなあ!いいわよ上等だわ、リンクの本気魅せてやる!死ねホルン!」

「お前が死ねえ!」


 アタシとリンクは、そのまま数分ぶつかり合って―――!

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