第344話 ホルンvsリンク4
当然の話だけど、アタシにだって限界はある。
例えばこのままアタシが攻めきれずに魔力が尽きると、これ以上疑似魂を生み出せなくなる。そうなれば魔力に頼らない柔術があるリンクに一方的にボコされるのは目に見えてる。
リンクは久音のとこの超人と違って体力にも限界はあるけど、それを加味しても長引けばアタシが先に潰れる。あと、那由多にすぐ戻るって言っちゃったから約束の為にも長期戦は避けたい。
戦い方を工夫して速攻で終わらせるしかない。じゃあどうするか。
「おいおいリンク、息上がってんじゃないのぉ?かーっ、やっぱお前ごときにはこれくらいが限界だよね!マヌケでポンコツなあんたにしちゃ頑張ったんじゃない?」
「はあああ!?ちょっと新技身に付けたくらいで調子に乗ってんじゃないわよ!リンクのこと見くびるとどうなるか教えてやる!」
よしいいぞ、乗ってきた。
こんな安い挑発に引っかかるとか馬鹿で助かるわ。
この土人形を創る魔法は、最初に巨大な疑似魂を土の中にぶっこみ、そこから使う分を土人形に分割して突っ込んでいる。アタシが「死体」と無理やり認識してはいるものの所詮は土だから、わざわざ人間にぶち込むときみたいに適合を考えてこねくり回す必要が無く、とりあえず入れれば動いてくれるから燃費と速度が段違いだ。
勿論能力自体は訓練を積んだ兵士なら容易に倒せるくらいには低いものの、それでもアタシが状況を見て最適な場所に配置すればチリツモ理論でかなり強力になる。しかもこれ、もう1つ利点があるのだ。
(よしよし、アタシを探すのに躍起になっているうちに、と)
アタシはリンクの足元に大量の小さな土人形、それこそアタシの膝までもないくらいの大きさのを創った。
”一寸の虫にも五分の魂”ってことわざがあるように、身体が小さければ入れる魂も少なくて済む。ん?ことわざの使い方違うか?まあいいや。
とにかくリンクはアタシがそんなことできるなんて知らないから、小さな敵への対応は遅れる。
「出てきなさいよこのチキン!マジで次に視界に収めた時があんたを八つ裂きにする合、図―――!?」
案の定リンクは急に現れた土人形に足を取られ、怯んだ隙に別の人形に背中や腕にひっつかれた。
「な、ちょ、こいつら……!離れろぉ!」
普段のリンクなら全身を回転させて遠心力で吹っ飛ばすくらいやってみせるだろうが、足を取られている今はそれも出来ない。
時間を使えば自分と土人形の物理的距離を伸ばして引き剥がせるだろうが、そんな暇は与えない。
「いけ!」
アタシの合図で、一斉に土人形がリンクを押しつぶした。
アタシは死体と意識や感覚を共有したりは出来ないので、どうなったかは分からない。ただ、あの状況でリンクが防ぐ手段は無かった筈だ。
慎重に、ゆっくりと、1体ずつ、土人形を剥がしていく。
すると何体か戻したところで、リンクの腕がだらんとなっているのが見えた。
「……うっし」
土人形に何度か触らせてみるが、動く気配はない。気絶しているらしい。
アタシは勝利を確信した。
「《空間伸展》」
ぼそりと、リンクがそう呟くまでは。
「な……にいぃ!?」
リンクが魔法を使った瞬間、周囲一帯の土人形がすべて消えた。
いや、違う。消えたわけじゃない。追いやられた。
辺りをばっと見渡すと、はるか向こうにいる土人形が豆粒のようになってるのが見えた。
「ちょっ……なんだぁ!?」
慌ててリンクの方を見ると、そこにはボロボロになり、ツインテがほどけつつも闘気ビンビンなリンクの姿があった。
「……この魔法は、リンクがいる場所を中心に空間を伸ばす……というより広げる。空間と空間の間に仮の空間を作りだす魔法」
「なっ……おい、それ最高位魔法だろ!聞いてないぞそんなん使えるなんて!」
「ったりまえでしょ、誰があんたに奥の手教えてやるのよ……!」
「しかもこれ、アタシの土人形だけをその拡張した空間から追いやりやがったのか!?あれだけ数がいた中からアタシだけをピックアップして魔法の中に入れて他は弾くとか、お前そんなに器用じゃないだろ!」
「はっ。土人形使ってくれてたのが運が良かったわ。アタシはあれを生物として認識してない。だから生物以外のすべてをこの空間から追いやるように魔法を使えばいいだけでしょ」
し、しまった!
土人形を呼び戻して……ダメだ遠すぎて間に合わない!
「珍しく意見があったわねえホルン……リンクだって、あんたに負けるのは死んでも御免よ!」
「クッソ!」
だけど最高位魔法を使った以上、リンクの魔力はギリギリのはずだ。
土人形を全部引き剥がし、アタシだけこの場に残すためとはいえ、随分無茶な魔法を使ってくれやがって。
ここまで近づかれちゃ、スピード勝負になる。リンクがアタシを組み伏せるのが先か、アタシが再び土人形を大量に作り出すのが先か。
リンクはボロボロの状態とは思えない速度でアタシに近づいてきてる、迷っている暇はない。
出来るだけ簡素に、手早く疑似魂を作り、土にぶっこむ。
それで大きめの土人形を数体作り、それで時間を稼いでいる間にまた巨大疑似魂を作って土にぶっこみ、大量召喚だ。これしかない。
お互いに奥の手を切り、リンクの《縮地》を加味しても勝負はほぼ五分。
アタシが掴まれるより先に、手だけでもいい。土人形を作って阻めればそれでアタシの勝ちだ。
必死に魔法を編む。リンクは全力で走ってくる。
そして案の定《縮地》で一瞬でアタシとの距離を詰め、手を伸ばしてきた。
―――ガシッ。
「!?」
「……間に合った」
先に決め手を出したのは―――アタシだった。
リンクが手を伸ばしてきたが、先に手だけ作ったアタシの土人形がリンクの足を掴んでひっぱったことで、リンクはアタシとの距離を遠ざけた。
ギリ腕は掴まれなかった……のだが。
「ちょ、うおっ!?」
それでも、指で袖はつままれていた。
リンクはニヤリと不愉快な笑みを浮かべて、土人形に引っ張られると共にアタシを引っ張った。
普通はただ袖を引かれたくらいじゃ、油断してなきゃたたらは踏まない。だけどリンクの緩急つけた動きで踏ん張りがきかず、アタシは前のめりになってしまった。
「テメッ……!」
「遅い!」
土人形で引き剥がそうとしたけど間に合わない。
再び距離を詰めたリンクに腕を掴まれ、そのままアタシの身体は自分でも分からない形で宙を舞い、地面に叩きつけられた。
だが、咄嗟に頭を土人形に受け止めさせたことで気絶は回避し、しっかりとアタシに覆いかぶさるリンクの顔を見据えることが出来ていた。
「しぶとい!」
「こっちの台詞だ、ボケ!」
リンクは腕をアタシの首に押し当て、窒息させようとしてきた。
だがアタシもそんな悠長に時間をくれてやる気はない。地面に触れている手から疑似魂を作って周囲に大きい土人形を5体展開。
リンクを伸縮で逃げられないようにしつつ、何かをアタシにしたら即座に倒せるようにした。
「………」
「…………」
アタシの首を締めれば土人形がリンクに襲い掛かる。リンクの腕ならアタシは数秒で落ちるだろうけど、その数秒はあまりに長い。
かといってアタシが土人形を先に動かせば、リンクももっと過激な方法でアタシを行動不能にしてこようとするだろう。
完全な膠着状態に陥ってしまった。