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幕間 ステアの回想

「お嬢、終わった」


 お嬢を狙う変な人たちを、クロと一緒にいなくした私は、お嬢の所に報告に行った。


「あら、おかえりステア。お疲れ様、どうだった?」

「ゴラスケを馬鹿にされた。むかついたから悪夢見せた」

「で、その人は?」

「死んじゃった」

「そう。お仕事頑張ったみたいね。偉いわステア、こっちいらっしゃい」

「ん」


 お嬢の言う通りに近づいて、いつも通りにお嬢の足の間に座る。


「本当にいい子ね、ステアは。あの日、あなたを見つけられてよかったわ」

「ん。私も、お嬢とクロに見つけてもらえて、よかった」


 十二歳になった今でも、あの日のことは忘れない。

 お嬢とクロが、あの日私をあそこから助けてくれなかったら、きっと私は死んじゃってた。

 だから、お嬢とクロのことは大好き。


「お嬢、頭撫でてほしい」

「はいはい、わかってるわ」


 その大好きなお嬢に、頭を撫でられるのも好き。


「いくつになっても甘え上手ねステアは。クロとはえらい違いだわ」

「お嬢、クロのこと、嫌いじゃないよね?」

「そりゃそうよ、クロは私の右腕だもの。それにあの子がいなかったら、私は生きていけないわ」

「ん。ならいい」


 お嬢もクロも、お互いが大好きだってわかってるけど。

 でもたまに心配になるから、ちゃんと聞かなきゃ。


「心配性ねえ、ステアは。そういうところも可愛いけど」

「お嬢も、クロも、大人だから。初めて会った時から、ずっと。だから、自分の気持ちを隠せちゃうんじゃないかって、不安になる」

「ステアは心が読めるのに?」

「お嬢たちの心は深く読まない」

「怖いから?」

「ん、そう」


 私の魔法を使えば、お嬢もクロも、何を考えてるのか分かる。

 けど、それは嫌。本当は私のこと嫌いだったらって、どこかで思ってる。


「お嬢たちに使うのは、ジャンケンとトランプの時だけ」

「あなたやっぱりゲームで魔法使ってたわね、噂に聞いた賭博場でギャンブラーを泣かせた少女ってあなたでしょう」

「あれは私悪くないもん」


 お嬢が苦笑した感じがする。

 でも、あれは私たちお嬢の側近をバカにしてたやつらを一文無しにしただけ。

 確かに心を読んで相手の配役を覗いたり、トランプ配ってた人を操って五十連続くらい勝ったりしたけど、私は悪くない。

 ズルしたって言われたけど、証拠残さなかった。

 お嬢もクロも「バレなきゃ犯罪じゃない」って言ってるし、バレなかったから犯罪じゃない。


「もう、しょうがない子ね。まあいいわ、バレてないなら。そこで稼いだお金はどうしたの?」

「半分ちょっとはあの大書庫の中に入れておいた。残りは私のホットケーキになる」

「待ちなさい、大勝ちしたんだから半分でも相当な量でしょう。ホットケーキは後でいくらでも食べさせてあげるから、残りも大書庫に入れておきなさい」

「………むぅ」


 お嬢もクロもお金に厳しい。

 私がいっぱいお金持つのが嫌みたい。

 クロは「お金は人を狂わせますから」って言って、遠い目してた。


「ホットケーキよりおっきいバターを乗っけて食べたかった」

「それは普通に体に悪いからダメ、クロに怒られるわよ」

「むぅ」

「ほっぺ膨らませないの」


 ホットケーキは私の人生なのに。


「で、話を戻すけど。私たちがステアを嫌ってるんじゃないかって?」

「ん」

「別に、一度心を覗いてみればいいだけだと思うけどねえ。クロも私も、他の三人も、誰一人ステアを嫌ってなんかないわよ」

「ほんと?」

「もちろん。私とクロが大人びてるって言ったけど、それは私もあの子も転生者だからだもの。初めて会った時からこんな感じだったでしょう?」

「ん、お嬢は相変わらず、クロに怒られてる」

「まったくよ、昨日もこっそりパセリ避けたのがバレて怒られたわ」


 お嬢の話を聞いてたら、突然お嬢が私のこと抱きしめてきた。


「お嬢、なに?」

「ねえ、ステア。私についてきたこと、後悔したことある?」

「??」

「たまーに思うのよね。この子たちがわたしについてこなければ、どんな人生を送ってたのかって。ステア、あなたは私についてこない未来に幸せが待ってるって言われたら、どうしてた?」

「お嬢について行ってた」


 お嬢はキョトンとしてる。

 なんで、そんな顔するんだろう。


「お嬢と一緒にいることより幸せなこと、ない。何言われたってついて行ってた」

「そう?」

「ん。お嬢に助けてもらったから、私がいる。私はお嬢の側近。お嬢がせかいせーふくするのが、私の幸せ」

「結果的に、あなたに人殺しをさせたりしてるのに?」

「私たちからお嬢を奪おうとするやつらなんて、死んじゃえばいい」


 当たり前のことを言うと、お嬢は抱きしめる力を強めてきた。


「お嬢?」

「はー、本当にいい子に育ったわねステア!もう大好きっ!」

「?私もお嬢のこと大好き」

「まったく、私としたことが愚問だったわ。やっぱり側近たちには愛着が湧いちゃうわね。特にステアは、昔から妹みたいに可愛がって来ちゃったし」


 しばらくしたら、お嬢は手を放して私を降ろした。


「もういいの?」

「ええ。あなたもそろそろ休みなさい。疲れたでしょう」

「よゆー」

「あらそお?じゃあもう少しお話でもしましょうか」


 私はお嬢の隣に座って、いろいろお話した。


 お嬢たちにあうまでは、こんなこと考えられなかった。

 きっと私はもうすぐ死ぬんだって、ずっとその日が来るのを待ってた。


『私と一緒に来なさい、ステア』


 あの日、お嬢がそう言ってくれたおかげで、私はこうして生きてる。

 だから私は、お嬢のためにこの命を使う。

 どんなことになっても、お嬢のために生きる。

 だから。


「ただいまもどりました、ノア様………」

「あらおかえりクロ。あなたもジェンガやる?」

「いや敵地のすぐそこでなにしてんですか」


 神様がいるとしたら、お願いだから。

 この幸せを、ずっと続けて。

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