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第332話 抱いてはならない疑問

 どうすればいいのか。それを聞きたいのはわたしだった。

 だけど永和に聞いたって答えが出てくるはずもない。一応空気を読んでいるのか黙っているが、部外者であるスイに聞くのも変な話だ。

 それでも永和と2人きりにしてもらったのは―――2人で後悔のない選択をするためだ。


「永和、その……」

「ストップ。アタシの疑似魂殺した件についてはもう何も言わないでよし。さっきも言ったけどあんなもん普通にまた作れるし、結果的に生きてるんだから。終わりよければすべてよしだよ」

「……ふっ。変わらないですね、そのさっぱりした性格。何故わたしと那由多みたいなどろっとしたのと上手くいったのか、正直不思議です」

「あはは。まー元々はアタシら、友達いないし境遇似てたから集まっただけって感じだったじゃん?最初はその辺の友達グループと大して変わらない関係だったよ。ただ少しずつ全員の居場所が狭まってきたから、唯一の安地だった他の2人に執着するようになったって感じじゃない?」

「的を得ているとは思いますが、永和に頭使った分析されるとなんだかムカつきますね」

「おい!」

「冗談です」


 だけど、そうだな。わたしたちも最初は、顔を合わせたら一緒に遊ぶ程度のただの友達だった。

 たった数日で、2人はわたしにとってかけがえのない存在になった。

 自分以上に大切だと、傷ついてほしくないと思った。

 人との付き合いは、付き合った日数じゃない。わたしたちにとっては、その数日があれば十分だったのだ。


 記憶を取り戻した時にも思ったことだけど、わたしたちの関係は単に親友という言葉では本当は表せない。ただ、親友という言葉が最も使いやすかったからそれで表現しているだけだ。

 一番近い言葉をあげるならやはり、共依存になるんだと思う。

 互いが互いを思い合い、愛し、慈しむ。『自分を心から思ってくれる人が2人もいるんだ』という充足感を得るためでもあったことは否定しない。けど何よりも、心の底から2人が大切だった。家族に愛されず、愛せなかったわたしがやっと出会えた、心から愛することが出来たのが永和と那由多だった。

 何故仲良くなったか?何故そこまで執着するに至ったか?

 答えなんて分からないしどうでもいい。別にこれといったきっかけがあったわけじゃない。

 この世界で得た知識から言うのであればきっと、魂が共鳴したとかそんな感じなんだろう。理由なんてそんな後付けのものでいいのだ。

 ただ、わたしが永和と那由多を大切に思っていて、2人もわたしのことを大切に思っていてくれている。それだけが、日陰 久音のアイデンティティだった。


「……さっきの那由多の話聞いてさ。どう思った?」

「……きっと永和と同じことを思っています」

「うん。だよね」


 だからこそ。命よりも大切な那由多だからこそ。

 その那由多を傷つける者は、誰であろうと許さない。

 たとえそれが、生涯の忠誠を誓ったノアマリー・ティアライト様だったとしても。


「わたしの中で不動の存在であり理念そのものであったはずのあの御方への忠誠が、揺らいでいます。昔わたしがいじめられた時に2人がやってくれたみたいに、那由多を傷つけた者には相応の報いを受けさせるべきなんじゃないか。そう考えている自分がいるんです」

『!……っ』


 頭の中でスイが何かを言いかけた気がするが、何も発することは無かった。

 懸命だ。ここで第三者に何かを言われても、わたしは部外者は引っ込んでろと一喝するだけだ。どんな言葉も響く気がしない。


「アタシも、かな。てか、こっちはそっちに喧嘩吹っ掛けた側―――いわば事の元凶だからね。ヘイトって意味じゃ久音よりでかいかも」

「そうでしょうね。わたしもそちらの主人は可能なら即座に殺してやりたいと思っているくらいには恨んでます。那由多を酷い目に合わせたんですから」

「そりゃお互い様でしょ。アタシだってそっちの主人には憎悪マシマシよ?」


 当然だ。わたしたちが思い悩んでいるのは、那由多を傷つけたノア様とルクシアに対する怒りと、それでも尚心に残り続ける忠誠心の天秤のせいだ。互いの主人ではない方に対してはこれまでとは比較にならないほどの憎しみを感じている。

 ただ、永和が―――永和にとってはわたしが、心から思った主人だから手を出そうとしないだけだ。まあシンプルに実力が足りないというのもあるが。


「久音……参ったよ」

「まったくですね……」


 だけど、互いの主人に対しては違う。

 確かに怒っている。よくも那由多を傷つけたな、落とし前付けろとは心の底から思っている。

 だけどそれでも―――揺らぎこそすれど、忠誠心があるのは事実なのだ。


 苦労がかかって、強欲で怠惰で傲慢で、だらしがなくて、でも美しくてかっこよく、わたしたちのために命を懸けてくれる主。

 それだけではない。那由多の元に戻るというのは、仲間たちも全員切り捨てる選択肢なのだ。

 ステアを、オトハを、オウランを、ルシアスを、リーフを。

 この世界で得たわたしを慕う者、対等な目で見てくれる者を全て裏切ることになる。いや、裏切るだけならまだいい。下手をすれば、全員―――。


 だけど、那由多も大好きだ。

 かつてのわたしの絶望的な人生を明るく照らしてくれた、そしてこの世界に招いてくれた恩人。

 わたしと永和のために、1500年もの月日をかけてくれた、最高の親友。

 きっと、この世界で最も報われるべきな人。


「どっちも……裏切れるわけないじゃないですか……」

「……本当にねえ」


 2つの大切なもの。選べるのはきっと片方だけ。

 仲間を殺されているノア様とルクシアも、自分の邪魔をされた那由多も、どちらも引く気はない。

 どちらか片方に与すれば、もう片方はきっと―――。


「こんな……苦しい選択肢を突きつけるなら……」


 こんなこと言いたくない。言いたいわけがない。

 だけど、わたしは口に出してしまった。


「何故あの時、わたしを救ったんですか、ノア様……」

「久音……」


 わたしは膝を抱えて、ボソッと呟いた。

 救われたことに疑問を持つ。きっと一番やってはいけない禁忌。

 だけどそれでも、思わずにはいられなかった。

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