表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
340/446

第330話 ナユタの過去7

 10年の間に、外の世界は大きく変わった。

 まず、魔女国オースクリードは核であるハルを失ったことで崩壊。そして大陸全体がこの神殿を除きあの2人の魔力で埋め尽くされた。

 今でこそ魔力は霧散して随分と薄くなっているが、1000年前の時点では並のレベルじゃ希少魔術師ですら闇側では一瞬で寿命を消され、光側では過剰回復によって体が崩壊するほどの恐ろしい濃度の魔力が漂ってしまっていた。

 2人がぶつかりあった時点で多くの大陸全土の住民が避難していたものの、そこそこな数人死にも出たらしい。まあ私には関係ない話だが。

 ハルはスイピアに連れられ、スイピアの生家であるクロノアルファ王国跡地に匿われたそうだが、時間魔法では案の定傷を癒しきれず、残った数少ない配下の献身もむなしく、後遺症で死んだようだ。


 私はすぐに行動を開始した。まず行ったのは魂の確認だ。

 転生魔法による副産物で、魂を知覚できる術式を開発していた私は、ハルの死後、魂が抜け出ていることを確認した。

 しかし同時に、輪廻転生の輪に向かわなかったことも確認できた。


(やっぱり《歪曲転生(リインカ―ネイション)》を使ったか。ルーチェとの戦いの後の弱体化が少し過剰すぎると思ってたけど、恐らく転生に力を注いでいたからだな。となると、弱体化後のハルの魔力と魔法の痕跡、魂の強度などから、ハルの転生する年代を先読みできる)


 私は頭でシミュレーション演算を行い、ハルの転生する先が997年と36日後であることを突き止めた。

 次はルーチェだ。1日1回のテレパスによる定時連絡の時、アマラに伝えておいた。


『ルーチェの居所分かるよね。その付近でそれとなく、ハルが死んだことと大まかな居場所の情報を流せ。多分それであいつは勝手にバカやってくれる』


 私以外にはハルもルーチェも殺せない。

 つまりここに囚われている現状では、ルーチェを始末する手段はない。

 だから私はハルの死亡情報をわざと流させた。

 あの狂人のことだ。次の一手は予想できる。


(あの女は十中八九、再びハルに出会えるまで《再誕の日まで(リバースデイ)》を使い続けて転生を繰り返すだろう。だけどどんなに優れた魔術師だろうと、幼少期は魔法が使えない。その隙を突く)


 ハルが死んだと知れば、ルーチェは即座に命を断つ。

 何故ならあの戦いで後遺症を負ったのはハルだけではなく、ルーチェもかなり弱体化をしていた。あのまま衰え続ければ転生が出来なくなっていたはずだ。

 ハルが死んだと分かればルーチェで居続けるメリットはどこにもない。即座に転生して新しい身に生まれ変わり、再びハルが現れるのをご自慢の病みレーダーを張って待ち続けるのは容易に予想できた。

 私の予想通り、ルーチェは死んでくれた。10年の歳月をかけて再び、私の目的に必要なのが時間魔法だけになったのだ。


『アマラ、用意は出来てる?』

『はい!万事ナユタ様の仰せのままに!』


 ここからでは見えなかったが、アマラは手に禁術の書を持っていただろう。

 目標は―――スイピア。

 ハルの死によって失意に飲まれ、希望を見失ったスイピア。

 いくら魔力量で大幅に劣るとはいえ、そんなネガティブな精神状態の相手であることに加えて禁術で多少ブーストすれば、才能のないアマラでも精神操作が通じるだろう。

 そう考え、私はアマラに指示を出してスイピアに精神操作魔法をかけさせた。


「《精神寄生(パラサイト)》!」


 その目論見は成功した。スイピアはその瞬間、アマラの支配下に置かれた。




 ***




『……待て!』


 ナユタの話を、ただじっと聞いていたわたしは、内側から聞こえてくる声に驚いてびくっと身体を震わせる。


『……代わります』


 一言スイに言って、わたしは体を渡した。

 スイは身体がぶるぶると震えながらも、ナユタに向かって叫んだ。


「じゃあ、ボクはお前に手を貸したっていうのか……!?」

「そうだよ。お前は覚えてないだろうけどね」

「そんな……いや、そんなわけがない!だって、ボクはこうして魂の状態だけでも生きていた!お前の言う通りなら、ボクは魂ごと消滅してこの時代にいないはずだ!」

「まあ、当然の疑問だね」


 その通りだ。

 那由多の言葉が確かなら、スイがここにいるはずがない。

 だが実際スイは魂だけの状態とはいえこの世界に残り、時間魔法まで使うことが出来ている。

 ということは、那由多が嘘をついているということになる―――が、わたしは那由多が嘘を言っていると一切感じられなかった。


「答えは簡単だ。お前は、精神魔法によって操られて禁術を発動した―――()()()()()()()()()()()だ」

「はあ……?」

「大したもんだと素直に感心したよ。お前は私の魔法が完璧に及ぶ範囲であるこの最深部の部屋に入る直前―――禁術まで使ったアマラの精神魔法を自力で破ったんだ」


 それを聞いたスイの反応は、ただただ困惑だ。

 それはそうだ、本人に記憶がないようだから。


「私への恐怖心かハルへの忠誠か、それとも両方か。いずれにしろお前はあと1歩で私の領域に入る所で、精神操作を無効化しやがった。今でこそ《堕とせ》のように無生物に対する簡単な言霊なら封印の外にも命令できるようになったけど、当時の私はまだそんなことできなかった。つまり、お前が精神操作を破った時点で私は手を出せなかったんだ」


 那由多は忌々しいものを見るようにわたしを―――ではなくスイを見た。


「だから私は―――()()せざるをえなかったんだ。お前が大人しく操られてくれていれば、そんなことせずに済んだのに」

「な、何の話……?」

「精神操作を強制解除した直後、お前は私を見るや否や今みたいに体を震わせて怯えていた。だけど同時に、昔のような生気が感じられなかった。すぐ気づいたよ、ハルを失ったことで生きる意味も失っていたんだとね。だから私はお前に言った。『もう一度ハルに会いたいか』と」

「う、嘘だ!ボクはそんなこと言われた覚えも……そもそもここに主様の死後に訪れた覚えもない!」

「当たり前だ、忘れることも()()のうちだったんだから」

「え……?」

「私の言霊魔法は、基本的には”口にした命令を現実にする”魔法。だけど他にも多少便利な能力があってね。その一つが―――”双方合意の元で行われた口約束を強制遵守させる”魔法だ」

「!?」

「これは通常の言霊魔法と違い、距離に縛られない。通話の魔道具を介しても魔法が発動する。そして、”私のみを封印する”この封印は、私が使う魔道具などの効果は対象外となる。だから私は封印内にアマラを入れて、あいつを電話代わりにしてお前とつなぐことで封印の対象外となり、お前に魔法を届かせた」


 ……まさか。

 那由多、あなたは―――。


「お前はその時、私の質問に対して『会いたい、もう一度あの御方の力になりたい』と言った。……実はね、お前が精神操作を打ち破るのは予想していた展開の1つではあったんだ。だから私は保険をかけておいた。禁術をアマラに使わせたとき、同時に―――『ハルの転生についての情報』を記憶から破壊するように命じておいた」

「な、あ……!?」

「だからお前はあの時、ハルが転生することを知らなかった。私が転生のことを少し話すと、目を輝かせたよ」


 スイの―――自分の顔が、段々と色を失っていくのを感じた。


「だけどお前が封印の外にいる以上、どうやってもお前に魂を含めた禁術を使わせることは出来ない。『ハルの情報を渡すから魂寄越せ』じゃ流石にお前も取引に応じるわけがないからね。つまり、私たち双方に最大のメリットがある妥協案を探る必要があった。そしてひねり出した取引案が―――」


 那由多。

 まさか全部、あなたが。


「”ハルの転生に関する全ての情報と、スイピアの魂が輪廻転生に導かれないように細工してハルとの再会を可能にする”。代わりに”魂以外の自分のすべてを使った禁術の発動と、それに関する一切の記憶の忘却”を要求した」

「魂、以外……?」

「そう。魂は禁術において最も強い力を放つ。だけど、なまじお前は強かったから、魂を使わずとも必要な魔力量の91%は確保することが出来る計算だったんだ。計算では、転生魔法の発動自体は時間魔法が規定量の89%を超えていれば出来ると出ていたから、私は魂を犠牲にした完璧な禁術を発動させることを諦めた。これが”妥協”だ」

「いや、違う……嘘だ……だってボクは、あの時主様の配下だった死霊魔術師の……そうだ、そうだよ!ボクはシュラの力で魂を維持し続けた筈なんだ!」

「……スイ」


 必死になるスイに話しかけたのはノア様だった。

 ノア様は厳しい表情で、那由多を見据えながら言った。


「シュラは……最初の戦いで那由多に殺されたじゃない」

「え……?あ……」


 失った記憶の整合性を取るために、無意識で記憶が置き換わっていたのだろう。

 だが、スイはそれを思い出した。そして、那由多の言葉が何も嘘ではないことを察したのだ。


「お前を魂の状態で1000年の時を渡れるようにしたのも、1000年後にハルが現れることを教えたのも、それをルーチェが追うことを予想してやったのも、全部私なんだよスイピア。そしてその代わりに私はお前に禁術を使わせ、不完全ながら時間魔法の力を手に入れたすべてのピースが揃ったんだ」


 ―――何故だ。

 語られたのは、那由多の苦心の歴史。私と永和のために頑張ってくれた、那由多の努力の話のはずだ。

 なのに―――この先は聞いてはいけないと、私の本能が告げた。


「すべての魔法を組み込み、私は転生魔法を発動させた。……結果は分かるよね。成功だ。私が生きた500年は、向こうの世界の1年にも満ちていなかった。正常に発動した時は誰にも見せられないほどに狂喜したよ。そして私はこっちに転生してくるのを”2人がどちらも向こうの世界で死んだとき”に設定した。これで同時期に、かつほぼ同じ場所に、正常に久音と永和が転生する―――はずだった」


 そうか―――そういうことだったのか。

 何故、わたしと永和が記憶が欠落した状態で生まれて来たのか。

 なぜ那由多のことすら忘れてしまっていたのか。

 全てつながった。


「時間魔法の出力が足りなかった影響で―――転生が不完全な状態で行われたんですね」

「……その通りだよ。本来は完璧な記憶と転生特典を持ち、ごく至近距離で生まれるはずだった2人は、記憶は欠落、転生特典はなく、中途半端に遠い距離で生まれてしまった。しかも最悪なことに、記憶は大切なものが優先して失われていたことで―――2人はお互いのことも、私のことも忘れていた。私が1500年かけた計画は、完璧な成功はしなかったんだ」

『ナユタのここまでのおさらい+αの裏設定』


【約1500年前】

那由多、この世界に転生。久音と永和をこの世界に呼んで再会するために転生の研究を開始。


【約1370年前】

転生の理論完成、同時にナユタが魂の存在を確信。最後のピースが時間魔法だとも明らかに。


【約1010年前】

・時間魔術師スイが現れ、ナユタはスイを狙う。

・ルーチェの副官として潜伏し、期を見て邪魔になるハルとルーチェを始末しようとするが失敗、封印されてしまう。


【約1000年前】

ハル&ルーチェ死亡、ナユタが再びスイピアを狙うが精神操作を破られたことにより目論見が失敗。かけておいた保険による妥協案としてスイの魂を諦め、魂以外のすべての肉体を使った禁術を発動させる。


【18年前】

永和の死に合わせ、約1000年かけて転生魔法発動。しかし時間魔法が魂を使えなかったことによって不完全だったため、記憶と転生特典が欠落した状態で久音クロ永和ホルンが転生してくる。


【1年前(1周目)】

クロとホルン、互いに記憶を失ったままに交戦し、最終的にクロとホルンどちらも死亡。実はこの際、それを知ったナユタはここに書けないほど凄惨な状態になった後に自殺している。


【1年前(2周目)】

クロとホルン、どちらも生存。もたらされる少ない情報からハル(ノア)とルーチェ(ルクシア)の行動を読み、的確に指示を出していた。尚、ノアが全神国とスギノキで落ち着かない様子だったのは、どちらもナユタが関係する場所だったから。




次回更新は4月3日予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 1周目の那由多が可哀想すぎるんだよなぁ......親友に会いたくてこっちに呼び出したら2人共記憶を失っててそのまま両方戦ってタヒぬって...... 那由多さん貴方、ステアとスイに泣いて感謝…
[一言] 1500年が報われないのはひどい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ