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第319話 永久の世界

 わたしは那由多に抱き着いて、那由多も強くわたしを抱き返した。

 前世の時間を全て合わせたら約20年ぶりの親友との再会で、わたしの情緒はぐちゃぐちゃになっていた。

 あの楽しい記憶、那由多を失った時の悲しみ、何故忘れていたのかという自分を責める気持ち、再会できたことへの最大の歓喜。

 感情の濁流で潰れてしまいそうな、そんな感覚に襲われる。


『は?……え、あ、んん?』

「那由多、那由多……!」

「うん、那由多だよ。あはは、こうして触れてもまだ現実感がないな。また久音に会えるって信じ続けてたのに」

「わたしも、です。こうしてまた話せるだなんて、思ってもいませんでした。夢じゃないですよね?」

「ほっぺひっぱったげようか?」

「ふふっ、せっかく治してもらった後なのでやめておきます」


 ようやく少しだけ、ふわふわした気持ちが落ち着いてきた。

 わたしは那由多から離れて、チラッと後ろを振り向いた。


「ううっ……」

「ところで、あっちは大丈夫なんですか?」

「うん。久音より少しだけ長く生きてたから、その分思い出す記憶が若干多いみたいだね。でもじきに落ち着くよ」


 那由多の言葉通り、彼女は直後にフラフラと立ち上がって。


「いだだ……」


 頭を両手でぐりぐりして、痛みを抑えていた。


「《癒えろ》。ごめんね、傷つけちゃって」


 那由多が魔法をかけ、全ての傷が癒えた。

 わたしの時みたいに本当に申し訳なさそうな声色で、那由多は謝罪する。


「どうでもいいよ……そんなの」


 彼女、ホルン―――いや。


「那由多……?本当に、那由多なの?」

「うん。また3人で会えたね、永和」


 わたしたちの親友、雛月 永和は、顔をクシャッと歪ませた。


「じゃあ、もしかして……クロは……久音?」

「はい。久しぶりって言うのもなにか変な感じになってしまいますね。永和」


 わたしが微笑んだ途端、永和はジャンプしてわたしと那由多の方にダイブしてきた。

 ギリ受け止めた。こういう突拍子もない行動をするところも変わらない。

 なんでずっと気づかなかったんだろう。なんで思い出せなかったんだろう。


「ちょっ、重いよ」

「本当ですよ、まったく」

「なんでそんな落ち着いてるのさああ!なんでっ、なんでこんな……!夢じゃないよね!?」

「それはさっきわたしが言いましたよ」

「じゃあ本当なんだよね!?本当に那由多と久音なんだね!?っ、うあ、うわあああん!」


 ああ、いつも活発だったのに一番泣き虫なところも変わってない。

 わたしは背中をポンポンと叩き、那由多は頭を撫でた。

 永和は力が抜けたのか、わたしたちに寄り掛かるみたいな姿勢でずっと泣いていた。


「那由多は死んじゃうし、久音はどこかにいなくなっちゃうし!アタシ頑張って久音が引っ越したところ見つけて、会いに行ったのに……久音も、死んだってぇ……!」

「すみません、あれ以上生きられなさそうだったもので……」

「私もまさか、親があそこまで愚かだとは思わなくてさ。関心が無さ過ぎて逆に無警戒だったよ。天才と馬鹿は紙一重とはよくいったものだね」

「いいんだよ……またこうやって、会えたんだからぁ……」


 永和も落ち着いてきたんだろう。まだ足取りはおぼつかないけど、わたしたちから離れて袖で涙を拭った。


「ふぅ、まだ心臓うるさい……」

「わたしもです」

「私も。ま、2人は記憶を取り戻した負荷もあると思うけどね」

「《蘇れ》と《戻れ》で、記憶を戻してくれたんですね。今思うと序盤の《醒めろ》も記憶を覚醒させるための言霊ですか」

「いえす。まあ99%効かないとは思ってたけど……本当にごめんね、痛い思いさせて」

「さっきも言ったけどどうでもいいってそんなの。ちゃんと2人のこと思い出せたんだからさ」

「ですね。むしろお礼をどれだけ言っても言い切れないくらいですよ」


 ああ、こうして少し話せるだけでも心から幸せだ。

 大好きな2人と、世界を超えて再会できた。それだけで、わたしは―――。


『……いや!いやいやいやいや!どういう状況これ!?』


 ………。


「うるさいですね、今くらい黙っててくれませんか。空気読んでください」

『今だからこんなに叫び散らかしてるんだよ!え、なに?なんなの!?』

「わたしの記憶を軽く見ていいですから、しばらくシャラップです」

「ん?なになに?」

「ああ、スイピアか。まさか久音の身体を使うとはね、流石に予想外だった」

『ひうっ』


 この感動の状況に割り込んできた部外者に若干理不尽な苛立ちを覚えて思わず口に出しながら話すと、那由多がこっちに意識を向けた。

 それだけでスイは縮こまり、恐怖からか意識の奥にすっこむ。

 記憶が戻っていない時は仕方がないと思っていたけど、今となるとこの感じに違和感があるな。


「那由多、あなたスイに何かしました?」

「ああ、うん。転生現象の魔法再現に時間魔法が必須だったからかなり追いかけまわした」

「それでですか。那由多がこっちを見ただけで随分と震えてるもので」

「ん?転生現象って?」

「言ったでしょ、2人をこの世界に呼んだのは私だって。それについてだよ」

「あー、なるほど。流石那由多だね、そんなことできるなんて!」


 ……ん?

 今、なにかがひっかかったような。

 なにか矛盾があった気がする。気のせいだろうか。


「久音は知ってると思うけど、随分昔から2人に会うために試行錯誤を繰り返したからね。色々と予定外もあったけど、こうして久音と永和に会えたんだから、永久にも思えた日々が報われた思いでいっぱいだよ。本当に、本当によかった」

「そう、ですよね。だって―――」


 今まで謎の転生者だと思っていたヒトトセの正体は那由多だ。

 つまり、アルスシールで見つけたあの日記の著者も那由多で。

 つまり、それは。


「那由多、あなた……いつから生きてるんですか?」


 あの日記に書かれた壮絶で凄絶な話が、すべて那由多の体験ということになる。


「ん?この世界に転生したのは、478億4105万587秒前だよ」

「……えーっと」

「あー、1時間が3600秒なので、24時間だと……86400秒?これで割ると」

「約553715.86日かな。まあ計算を割愛すると、ほぼピッタリ1517年だね」

「へぇ、1517年……1517年ん!?」

「なっ……」

『はあ!?』


 1517年!?

 ということは、ノア様たちが生きていた1000年前よりも遥か以前の時代から生き続け、ノア様たちと戦った時点で500歳以上だった?


「親友に言う言葉じゃないし、転生させてもらっておいてどうなんだって話を承知で言うけどさ、なんで生きてんの!?」

「その辺もおいおい話すよ。どうせこの後、私たちには無限の時間があるんだからさ」

「……?それってどういう」

「久音、永和。私たちの“約束”、覚えてる?」


 わたしたちの驚愕も束の間、那由多がそう切り出した。


「忘れるわけない……とかっこつけたいところですが、不甲斐ないことについさっきまで忘れていましたね」

「だね。でも今は覚えてるよ。懐かしいねえ」


 わたしたちの約束。

 叶えられなかったわたしたちの夢。


 ―――3人だけの世界を作って、一生一緒に暮らす。


「あの約束の1ヶ月後に私は死んだ。本当にこの1500年、申し訳なさと自分の不甲斐なさで何度も心を病んだよ」

「あれは那由多のせいじゃないです!」

「そうだよ、悪いのは那由多を殺した両親でしょ!?それに、那由多を守れなかったアタシたちにも責任あるって!」

「ありがとう。何年たっても、2人の優しさは変わらないね。やっぱり2人は、私の唯一の理解者だ」


 那由多の胸中にあるのは、ただひたすらな歓喜と決意。

 わたしたちを本当に好いてくれているのが分かって、思わず顔が綻ぶ。


「……この世界でも、私を理解しようとしてくれる人間はいなかった。恐れるか、畏れるかの二択。実はこの世界、私を崇める宗教なんてのもあるんだよ?私の力を畏れて崇め始めたやつらがいてさ」

「へぇ~すご」

「ま、そんなやつらには正直毛ほどの興味も無いんだけどね。私の理解者は、後にも先にも君たち2人しかいないんだから」

「はい、知ってます」

「でもさ。この世界は、前の世界よりは幾分かマシだよ」


 ……?


「どういうことですか?」

「私たちの約束を果たそうってことだよ。―――世界は変わったけど、私たちはまた集まれた。二度と叶わないと思ってた望みは、この世界では魔法という絶対のルールでどうにでも出来てしまう」


 那由多は、わたしたちの手を取った。

 そして、ニコリと笑って。


「作ろうよ、私たちだけの世界。3人だけの永久の世界を」

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― 新着の感想 ―
転生前のホルンとクロの名前、「永久」から取ってるんですかね?「永」和(ホルン)と「久」音(クロ)で「永久」ってことですか。あとただの勘というかなんというかこうだなーって気がついただけでそれ以上はなにも…
[気になる点] クロの感じた違和感。 日記の件でいうと、転生魔法は6人の希少魔法使いが禁術を使った自己犠牲の上で成り立つ技術だったと記憶しているが、那由多はどう解決したのか!?
[良い点] うう~良い話だな~ 三人には今後幸せになって欲しい、失った時間を補う。
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