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第309話 互いの補完

「いたっ!」


 何秒落下したんだろうか。

 間違いなく20秒前後は自由落下を体験したところで、わたしは尻から地面に着地した。


「いったあ……」

『なに、なんなの?』


 闇を展開して体に纏わせることで衝撃を緩和しようとしていたが、どうやらその必要も無かったようだ。

 地面に落ちる直前、わたしの身体が一瞬ピタッと停止したのだ。まるで何かに受け止められたかのように。

 何事かと思いながらも闇を解除すると、直後にドスンと落とされて尻を打った。痛い。


「っ……まったく、何事ですか」

『!!ここって』


 尻をさすりながら立ち上がって周囲を見渡すと、そこはあまりにも妙な空間だった。

 広い。体育館が6つくらい入りそうな広さだ。

 しかもそれだけの空洞でありながらしっかりと整備されており、壁には妙な壁画まで彫られている。

 そして、四方にそれぞれ出入口があった。


「なんですか、どこですかここは」

『……っ』

「?スイ、何か知っているんですか」

『えっ!あー、いや、その』

「なんですか、知っているなら勿体ぶっていないで」


「ぁぁぁぁああああああ!!」


「『!?』」


 この空間のことを何か知っている雰囲気のスイを問いただそうとすると、その前に天井から声がした。

 わたしの他にも誰かが落ちて来ているようだ。このままノア様たちも落ちて来てくれれば好都合なのだが。


「あでっ!」


 やがてわたし同様に空中で一瞬止まり、そのまま落とされた人物は、わたし以上に尻を強打したらしくそのままゴロゴロと悶え始めた。


「あっでえええ!尾てい骨!尾てい骨打った!尻割れた!絶対割れた!」

「元から割れています」

「え、ああ……そうか」


 ()()の髪をした少女は、そのまま強打した部分を抑えてぷるぷるしながらも立ち上がり。

 やがてわたしをじっと見て。


「……げぇぇええ!?クロ!?」

「ホルンと言いましたか?どうもこんにちは」


 大声で叫んだ。

 そう、降ってきたのはルクシア側の死霊魔術師、ホルンだったのだ。


「え、なんであんたが……つかなんでアタシたちだけこんなところに!?」

「さあ。あなた方の策略ではないのですか?」

「違う違う、仮にそうならアタシとあんた一緒の場所にしないでしょ!ご主人様に食い下がる技量を持った時間魔術師を宿してるヤツと!」

「ああ、確かにそれもそうですね」


 一瞬、これも何かのルクシアの策なのかと警戒したが、どうやら違うようだ。

 わたしとスイとホルン、わたしたち3人のみ、不測の事態で他のメンバーから隔離されたことになる。


「まあ、色々考えることはありますが、とりあえず」


 やるべきことをやろう。

 そう考え、わたしはホルンに指を向けた。


「え?ちょいちょいちょい、何する気!?」

「なにって、殺すんですよ。ルクシアがいるときは隙を晒せないので諦めましたが、この状態ならあなたを殺すまたとないチャンスです」

『そうだね。生かしておく理由がない』

「い、いいのかな?アタシは死霊魔術師だよ、宿っている魂は偽物かも」

「疑似魂を入れられている死体人形は生体感知に反応しないんでしょう?ですが今のあなたはがっつり反応に出ていますよ」


 つまり、目の前にいるホルンは魂も肉体も本物だ。

 遠隔操作ではどうしても身体操作も魔法も精度が落ちるために念を入れて本体が来ていたのだろうが、裏目に出たな。


「……ふんっ、いいよわかったよやってやろうじゃん!ここであんたを殺せれば、ご主人様に対抗できる戦力を1つ潰せるからね!」

「心意気だけは立派ですね。しかし実力が伴わなければただの空元気です」


 わたしが強くなれたのはスイのおかげなのになにを上から目線で、と自分でも思うが、こうやって少しでも気勢を削ぐのも大切な戦法だ。

 魔力量では圧倒的に勝っているとはいえ、相手はあのルクシアが選んだ側近の1人。何か奥の手を隠していると考えるのが自然だ。しかもそれは死霊魔法の特性上、初見殺しの一撃必殺技の可能性もある。

 カウンターされることも考えて、使う魔法は慎重に選ばなければ。


「じゃあ、始めましょうか」

「いつでも来い!……ん?」


 わたしもホルンも、魔力を編纂して互いの全力をぶつけようかというところだった。

 しかし。


「?なんですこの音」


 四方から聞こえてきた地響きのような音に、全員が気を取られた。

 発生源を特定しようにも、音の反響でどこからかが分からない。

 ただ、近づいてきているのは確かだった。


『なにこれ、足音?』

「足音?だとすると……」


 ところで、先ほどこの部屋には四方に出入り口があると述べたが。

 実はこの空間、縦横だけでなく高さも相当なものだ。

 10メートルはあるだろうという広い天井。そして出入り口は、その高さに合わせて作られていた。

 最早出入り口というよりかは、裂け目と言った方がいいかもしれない。


 さて、では見間違いだろうか。

 その裂け目の、限りなく天井に近い位置。

 つまり10メートルくらいの場所に―――目が見える気がするのだが。


「……ゴ○ラ?」

「それはー、もうちょっと大きいのでは……?」

「ああ、そう……?」


 そんなツッコミを入れてみたが、それどころではなく。


 正面の亀裂からバカでかい恐竜のような生き物が現れた。

 更にそれだけではなく、その足元には小型恐竜みたいな魔獣、そしてやば気な鎧と武器に身を包んだアンデッドの大群がいた。

 しかも恐る恐る振り向くと。


 四方全部から、魔獣とアンデッドが湧きだしていた!



「「「「グオオオオオオオオ!!!」」」」

「「『どわあああああ!?!?』」」


「《不死者傀儡(スレイブアンデッド)》!《魂魄衝波(ソウルショック)!》」

「《蒔かれる終わり(デッドシード)》!《連射される暗黒(ショットダーク)》!《(デス)》《(デス)》《(デス)》《(デス)》!」

「《時間加速(アクセラレーション)》!《時間拘束(クロノバインド)》!《時間停止(タイムストップ)》!」


 慌ててホルンと背中合わせになって、目の前の敵をひたすらに撃ちまくった。

 一度スイと交代した、のだが。


『あなた動きを止めてばかりじゃないですか、即殺してください!』

「無理だよ、時間魔法は基本的にサポートが主軸なんだから!攻撃向けの魔法はあんまり無いんだよ!」

『ああもう、代わってください!』


 アンデッドとわたしが殺した骸をホルンが次々に死体人形へと変え、次第に敵は沈んでいく。


「でかいのきた!先生―!」

「誰が先生ですか!」


 即座にでかいのを殺し、それをホルンが操ったことで周囲の魔獣を一気に踏み潰すことに成功。

 結果、約20分で全滅させることが出来た。


「ぜはー……ぜはー……」

「はぁ……はぁ……な、なんですか今の」

『多分、この大陸に住んでる魔獣とアンデッドが地下に流れ込んできてるんだね。アンデッドは闇魔法、他の魔獣は光魔法の残滓によって強化されてる。んで、残滓の影響はこの遺跡には及んでいないから』

「安住の地というわけですか」

「ふー……でも結果オーライ。あんたが随分と死体を量産してくれたおかげで、死体人形がたっぷりだ!これなら物量でワンチャン押し込めるね!」

「ちっ……」


 だが、やむをえず共闘したもののまだこの女がいる。

 しかも、さっきの戦いで生まれた死体を操れるため実質囲まれているようなものだ。

 さっきまでより状況は悪くなっている。だが、わたしの魔法でホルンを瞬殺すれば襲われる前にことが終わる。


「さあ、それはどうでしょうね。では再開しましょうか」

「どっからでも」



 ―――グギャアアアアアアアア!

 ―――ブルルルルル……

 ―――シャアアア!!



「「『………』」」


 やっぱり、まだいるな。

 それも、この大陸に住まう凶悪な魔獣が。


「……ねえ、クロ」

「……なんですか」

「すっとぼけないでよ、多分同じこと考えてるでしょ」

「まあ、おそらく」


 わたしの闇魔法は生物に対しては高い優位性があるが、アンデッド相手だと質量を消さなければならないため効率が悪く、途中で魔力切れを起こす恐れがある。

 それはスイも同様で、時間魔法による急速劣化は既に朽ちているアンデッドには効かないし、生物に対しても“及ぼす効果が操作する物体の質量と魔力に反比例する”という特性上、ここの巨大かつかなり多い魔力を持つ魔獣には効きづらい。

 それに対してホルンは魔獣にはとことん弱いが、アンデッドに疑似魂を押し付けて問答無用で操作できる死霊魔法を持っている。


 つまり、得手不得手を互いに補完できる。

 ここでどちらかが死ねば、不得手な相手にぶつかったときに殺される可能性がある。わたしとしてもホルンを殺すだけならいいが、その後共倒れになるのは御免だ。

 だからここは妥協するしかない。


『どう思います、スイ』

『仕方ないんじゃない?ボクとしても第二の生をこんなに早く手放すのはイヤだよ』

「はあ……仕方ありませんね」


 確実に生きてノア様と合流するためにはこれしかない。


「ホルン、とりあえず互いの陣営と合流するまで手を組みませんか」

「ま、そうだよね。オッケー」


 かくして、わたしたちの仮初の同盟が始まった。

作中の魔法解説コーナー➉


【死霊魔法】

髪色:灰色

使用者:ホルン

特性:生物のオーラ(魂)を観測出来る、与えた致命傷を治癒不可にする


この世で唯一魂を知覚し、かつそれに干渉することができる、生物の根源に最も近いと言われている魔法。

基本は魂を操る魔法であり、生物の死体に疑似再現した魂を入れて死体人形として利用し、自分の思うがままに操作するのが主な運用方法。この死体人形は生前と同等のスペックを出せるが、感情表現や成長は出来ない。

自分だけに限るならば、本物の魂を体から抜いて疑似魂を代わりに入れ、遠隔操作することも可能。この状態の時は自分の身体が死を迎えても魂は無事なため、適合する死体に入ればその体で復活することができる上、あくまで自分の身体に入っているのは疑似魂のために死体と認識され、毒や精神操作、生体感知などが通用しない。ただし、魂のみの状態は四十九日しか維持できないため、その間に適合する死体を見つけられなければアウト(※ちなみにスイの場合は限定的な時間停止を併用していたのでこの制限の対象外だった)。

また、魂という不明瞭かつ認識不可能なものを操るため、魔法抵抗力の効果適用外となっている。そのため、基本的に防御することが出来ない。

最大の欠点は、個人での戦闘用の技が他の魔法に比べて圧倒的に少ないため、死体なしだとその性能が半減すること。同技量の魔術師と1対1だと基本的に不利となる。そのため、基本は多対多の後方支援が主な使い道。

また、ホルンの場合は自分の意識で動かせる死体は本気を出しても二体が限度で、それ以外の死体は生前の動きをトレースした単調な動きのみになってしまう。

死体を操るため、闇、精神、毒劇といった死やそれに近しい状態異常を与える魔法とは相性がいい。代わりに氷雪魔法を始めとする、外的要因による行動阻害を広範囲に行える類いの魔法は相性が悪め。

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