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第306話 接敵

 大陸に降り立つと、そこは一言で表すなら何もなかった。

 生き物どころか、木や雑草の1本すら生えていない。地面は灰が降り積もったような細かい砂で覆われている。

 隆起している部分はあるものの、おおよそ身を隠せるような場所はない。感覚的には砂漠の真ん中にいる感覚が近いだろうか。

 荒野が大半を占めるアルスシールですらもう少し植物があった。


「これが、例の闇魔法の残滓の影響ということですか?」

「そうみたいね。意外と残るものねえ」


 同じ闇魔術師であるわたしは分かる。

 微弱で、しかし確かに強固な死の魔力が空気のように残留している。

 だが、これでも1000年の間に随分と中和されているんだろう。どうやら想定よりも魔力が薄い。

 これなら最も魔力抵抗が低いルシアスでも余裕で耐えられる。一般人でも1時間くらいなら問題なく活動できると思う。その後死ぬけど。


「それよりどうにかして姿を隠さなければ、早々にルクシアたちが来ますよ」

「ルシアスの亜空間で姿を隠すのが一番だと思うわ。出来る?」

「おう」

「じゃあお願い、まああの用心深い女ならいきなり突っ込んでくることは」


 ノア様がそこまで言った、次の瞬間。


「『!!?』」


 オンにしていた未来視が、1秒先の悲劇を捉えた。

 反射で闇で盾を作るとほぼ同時。


 ―――ギィィィン!!


 形容しがたい鈍い音が鳴り響き、わたしたち以外も全員がこちらを振り向いた。

 今の音は聞き覚えがある。ノア様に特訓に付き合って頂いた時、闇と光がぶつかり合った時に鳴る音だ。

 しかしノア様はいまここにいる。つまり今の音の元凶は。


「っ!」


 ノア様と同じ金色の髪。手に持った光剣、人畜無害に見える顔立ち。


「ルクシア……!」


 わたしたちにとっての不俱戴天の敵、ルクシア・バレンタインがそこに立っていた。


「……ノア様、すぐには来ないのでは?」

「この女がそんな短慮を犯すなんて思わないじゃない!しかも仲間も連れずに!」

「お前ら、言い合いは後にしろ!」


 その場の全員が臨戦態勢を取り、ルクシアから一瞬たりとも目を離さないようにする。

 光速で移動されようと、今のわたしは未来視で着地点を把握できる。少なくとも超速で一瞬の間に殺されたりすることはない。

 だが、それを差し引いても相手は世界最強の魔術師。前回よりも有利な状況とはいえ、油断をすれば死ぬ。

 1秒たりとも気を抜くな。何故いきなり来たのかは後で考えて、


「……ちっ」


 ん?

 今この女、舌打ちしたか。

 舌打ちしたいのはこちらの方なんだけど、何か妙じゃないか?

 このヤンデレのことだ、真っ先にノア様への愛を囁きそうなものなんだが。

 そう疑問に思っていたら、ブツブツと何かを言い始めた。


「あークッソ……なんでこんな時間に起きなきゃなんねえんだよ、起こすんじゃねえよてめえら……マジぶっ殺すぞホント……」


 …………。

 は?


「おい、誰だあれ」

「……見てくれはルクシアなんだけどな」

「あんな感じでした、あの女?」

「……?」


 後ろの面々も疑問視しているが、ノア様だけは得心したような呆れたような顔をしていた。


「……こいつ、17回も転生してるのにまだそのクセ治ってないの?」


 クセ?


「なんですかそれ?」

「この女はね、朝が馬鹿みたいに弱いのよ」

「……え?朝?」

「そう」

「じゃあなんです?あれは寝起きだからああなってるってことですか?」

「まあそういうことね。自力で起きた時はそうでもないんだけど、誰かに起こされるのが大っ嫌いでね、起こした奴と起こされた原因をボコボコにしないと止まらないくらいには機嫌が悪くなるの」

「なんてはた迷惑な」


 じゃあもしかして今頃―――。




 ***



 その頃、ルクシアの側近陣営では。


「ホルンしっかりしろ!死ぬな―!」

「脈はありますか脈は!」

「ぶはははは!ざまああああ!ジャンケンで敗けた時のあんたの顔ったら!死ーね♡死ーね♡あはははははは!あはははははは!」

「オマエ……コロス……ゼッタイ……」

「今微かに反応したぞ!」

「リンク、その調子です!罵倒し続けてください!怒りのエネルギーを生きる活力に変えるのです!」



 ***



 じゃあなにか?

 本来は余裕をもって待ち構えるはずだったのが、「朝起こされた」って理由でそれを全て無駄にして怒ってこっちに突っ込んできたと?

 向こうの側近に若干同情するな。


「ノア様、あれ止められないんですか?」

「無理よ、あの状態だと私の声も届かないわ。」

「なんで開幕早々、こんな訳の分からないことになってるんです、かあっ!?」


 喋ってる間にイライラしたのか、再びわたしにむかって突っ込んでくるのを未来視で先読みしてガード。

 続いてルシアスの方へ向かったが、至近距離だったために光速を使われても反射で対応できたようで普通に弾いた。

 その隙に背後からリーフが刺突を繰り出したがルクシアはバク宙で回避、そのまま光線を10本程度撃ちだし、それをすべてわたしがガード。

 続いて無数の光球を放ったが、ステアが認識をずらしてわたしたちの座標を誤認させたようですべて外れた。

 畳みかけるようにノア様が同じ光剣で首を狙ったが、手をずらされて掠るだけに留まり、そのままノア様は蹴りを食らいかけたが後ろに下がって回避。

 全員がほぼ元の位置に戻った。


「……戦えますね」

「そうね」


 かつては手も足も出なかったルクシア相手に、かすり傷とはいえダメージを一筋負わせることに成功した。

 更にそれだけではなく、フラフラしながらもしっかりと動けていたルクシアは突然膝をついた。


「……?」

「なんだあ?」

「あなたですかオトハ?」

「周囲一帯に無色無臭の毒霧を散布しておきましたわ。傷口から入ってさぞ苦しいでしょう!」

「皆には僕の耐性を付与してるから大丈夫だよ」

「流石ですね」


 全員有能で助かる。

 ルクシアは今のバーサク状態でも本能的に毒を盛られたことを察知したのか、肉眼で見えるギリギリまで一瞬退避した。

 解毒の為だろう。だが。


「どうらああ!」

「!?」


 こっちには進化した空間魔術師がいる。

 解毒される前にルシアスが距離を詰め、全力で攻撃。

 竜巻と見紛うくらいの砂塵が舞い、2人の姿が見えなくなった。


「リーフ!」

「無っ、論!」


 リーフが風の槍を投擲、程なくしてそれが右足に刺さったルクシアが姿を現す。


「畳みかけろ!」


 対ルクシアにおいて、もっとも効果的と判断した戦法。

 それは、とにかく回復の間を与えずに攻め続けること。いや、効果的というよりはこれしか方法がないのだ。

 毒も外傷も、少しでも暇を与えれば即座に治癒される。1秒たりともこの女に暇を与えたら、その時点で振り出しに戻る。魔力量でもステア以外は圧倒的に劣っている以上、魔力切れも期待できない。つまりはどんな地味な攻撃でも放ち続け、回復が出来ないように立ち回るしかない。


「《(アンチドー)……」

「《連射される暗黒(ショットダーク)》!」

「っ……かふっ」


 かなり毒が回っている。吐血を始めた。

 このままの状況が続けば勝てる。だが、この女が何もしてこないわけはない。


「絶対に気を緩めないでください!僅かでも攻撃を外せばその瞬間に回復されます!」


 ステアの認識操作のお陰で、わたしたちに攻撃はほぼ当たらない。

 寝起きの影響か前よりも精神魔法が通りやすいらしい。

 だが、前にルクシアを苦しめた《記憶の爆裂(メモリーパンク)》は使っていないようだ。

 正しい判断だ、記憶で激痛を及ぼすあの魔法を使えば、いくら今のルクシアでも完全に目を覚ます可能性が高い。

 現在のバーサク状態のルクシアは以前よりも遥かに弱い。今のうちに殺すのがベストだ。


「《(デス)》!」


 今なら効くかもしれないという淡い期待を込めて、わたしは即死魔法を撃った。

【落雷魔法】

髪色:緑

使用者:リーフ・リュズギャル

特性:電撃に対する完全耐性、身体能力が多少向上


この世界の一般的な魔法である四大属性魔法が後天的に上位属性へと変化したものであり、覚醒魔法とも呼ばれる魔法の一つ。ベースは【風魔法】。

強大な攻撃力に加え、雷の速度で動くことも出来るため、光魔法に次ぐ速度を誇る魔法でもある。

光ほどの速度を出せない代わりに、直接当たらなくても感電でダメージを与えられるなどのメリットがある。

また、落雷魔法という名ではあるが電気に関する事象であれば操ることが出来るため、応用で磁力や体内の電気信号を操作することも可能。

欠点は副産物である感電などは制御が効かないため、周囲に味方がいると巻き込んでしまう可能性が高く、本気を出し切ることが出来ないこと。ただしある程度は風魔法で補うことは出来る。

ほぼ全ての魔法に等しくダメージを与えられるオールマイティ魔法だが、電気を通さない土魔法や、純粋な水によってある程度受け流せる水魔法とはやや相性が悪め。

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