第304話 決戦の地へ
前回、体調不良で投稿出来ませんでしたすみません!
完成した船の中に、次々と物資が積み込まれていく。
基本的にステアが操っている男たちが1つずつ木箱を持って行進しているが、中には変なのもいる。具体的には1人で木箱を8個抱え、行進の10倍の速度で往復している超人だ。なんだあれ気持ち悪っ。
「へぇ、立派な船じゃない」
「はい。ところでノア様、あんなに物資必要ですか?そう何100日と航海するわけではないでしょう」
「貰えるものは貰っておけばいいのよ。それに、向こうで何が起こるか分からないからね。最悪、敵と戦争みたいになって兵糧が必要になるかもしれないわ。そのための準備よ」
「と言いますと?」
「相手はあのルクシアよ。どんな作戦をもって待ち伏せしているか分かったものじゃない。もしかしたらゲリラ作戦とか、死霊魔法の死体人形を使った特攻とか、長期戦を見据えてくるかもしれない。もしかしたら私たちが長期戦に持ち込むこともあるかもしれないわ。そういう選択肢を増やす目的でも物資は多い方がいいのよ」
「なるほど。ご慧眼恐れ入ります」
「この話をフロムにしたら、倉庫をひっくり返す勢いで物資をくれたから助かったわ。やっぱり共通の敵がいる人間っていうのは頼もしいわね」
「そうですね。まさかここまでしてくれるとは思いませんでした」
「当然だ。あの女を始末するためだからな」
「あらフロム」
「本来ならばワシも行きたい、いやさ行かねばならぬ所なのだがな。帝国の軍部と政治を同時に動かせるのがワシしかおらん現状、同行するわけにはいかんのだ」
「自らの主の復讐と、主が残した国の存続を天秤にかけて後者を選ぶとは、誰にでもできる選択ではないと思います。少なくともわたしなら前者でした」
「よしてくれ、そんな大層なものではない。それに、リーフが必ずや仇を取ってくれるという確信もあるからな」
「それは大きいでしょうね」
今回の対ルクシアには勿論リーフも同行する。
帝国からの刺客という意味もあるが、それ以前にリーフがいないと勝ち目が薄くなる。
というかルクシアとマトモに戦える人員のうち1人でも欠けると勝率が1~2割下がってしまう。
ただでさえ6対1でも推定7割程度の勝ち目を、これ以上下げるわけにもいくまい。
「頼んだぞノアマリー殿。必ずやあの女狐を始末してくれ」
「そのつもりよ。私としてもあの女とはそろそろ蹴りをつけたいわ」
ノア様は苦虫を嚙み潰したような顔でそう言った。
1000年前から現在まで続く因縁。あの女をどうにかしない限り、それは続く。
「しかしノア様、1つ懸念が―――」
「分かっているわ」
ただ問題は、あの女が転生魔法を使えることだ。
ルクシアを殺したとしても、再び世界の誰かに染色魔術師として出現し、15年も経てば再びわたしたちのまえに立ちはだかってくるだろう。
しかも染色魔法の特性上、あの女は無害な四大魔術師を装って近づいてこれる。もっと言えば、今回は氷雪魔法を習得していたが、10代の魔法成長期に合わせて別の属性の魔法を習得することも不可能ではないはずだ。
闇魔術師としてノア様が転生すると勘違いしていた今回とは違って、次に転生するときはルクシアは光魔法に対する天敵属性を習得してくるだろう。時間魔法は魔導書や資料が少なすぎて習得は難しいだろうが、それこそ重力魔法なんて身に付けられたら最悪だ。
あの女を殺すなら転生魔法を無効化するのは絶対。それが出来ないのならば、自殺が出来ない状況下で一生幽閉するしかない。
しかし、あの女を永遠に閉じ込めることが出来る檻なんてあるものだろうか。
「それに関してはいくつか考えはあるわ。でも、あの女に勝たなければその考えすら意味がない。まずはあの女を倒し、周囲の希少魔術師を殺す。これは絶対条件よ」
「そう、ですね。わかりました」
「おーい姫さん、クロ、積み込みおわったぜ」
「ありがとうございますルシアス。ではノア様、早速出発致しましょう」
「ええ」
そうだ、皮肉なことにルクシアのことを最も理解しているのはノア様だ。
ルクシアの対策はノア様と、あとステアに任せるしかない。わたしはただ、あの女を倒すために全力を尽くすだけだ。
船に向かって歩きながらそう考えた。
「ノア様、お手を」
「あらありがと」
ノア様の手を取って甲板に上がって振り向くと、そこには既に仲間の姿が。
「全員準備は出来ていますか?これより、ルクシア討伐に出発します。作戦等については出発してからお伝えします。かなり多いですが頑張って覚えてください」
「余裕。ぶい」
「あなたはそうでしょうね」
船の出発準備に関しては、既にステアが操った兵士たちがやってくれている。
なのでわたしたちにやることはない。
……ついに出発か。
あのルクシアとの決着、生きて帰れる保証はない。
だけどすべてはノア様のためだ。
「ルクシアは強敵です。正直、希望的観測を抜きで言うならば、ここにいる全員が帰ってこられる保証はありません。最悪の場合ノア様以外全滅もあり得ます。間違いなく最初にして最後にして最大の敵でしょう。各自、悔いのないように準備をしてください」
「問題ありませんわクロさん。私からお嬢様を奪おうとするあのアマ、全身から血噴き出させてやりますわ!……と言いたいところですが、私とあいつは相性悪いし自力が違うので、周囲の側近を可能な限り削りますわ」
「僕もそっちの手伝いをするよ。ノアマリー様の覇道のため、アイツらは邪魔だ。向こうの側近は4人だったよね?全員僕の新武器の餌食にしてやる」
「前はまったく敵う気がしなかったがな、今なら俺もアイツの動きについていけそうだ。ははは、楽しみだぜ、あの世界最強に俺の実力がどこまで届くかがな!」
「決意、帝国の敵であるあの女は排除しなきゃならない。フロム様の為にも」
「……ころす」
各々気合十分のようだ。
特にステア、過去一なんじゃないかってくらい言葉に心と殺意が灯っている。
『ボクもいるよ』
ああ、そうだった。
1回代わるか。
「ボクも頑張らなきゃね。1000年続いた因縁の終わりだ、あのサイコ女の顔に1発ぶちこんでやらなきゃ」
「1000年前はあなた、手も足も出ずにボコボコにされたものね。貴重な時間魔術師だから生かされたけど」
「言わないで貰えます!?」
「あの頃から成長したようで、見出した私も鼻が高いわ。最初の頃なんて時間魔法の使い方が分からなくて、半泣きで私に」
「わーわーわー!今は!今は違うじゃないですか!あの頃だって最後の方は1番強かったですし!」
「まあそうなんだけどね?」
「結構興味あるな、あんたらの昔話」
「読み取って、いい?」
「ダメに決まってるじゃん!?ああもう!言うこと終わったからクロ代わってよ!」
『え、聞かせてくれないんですか?』
「君までそんなことを!いいから早く!」
身体を共有している都合上、そしてノア様が闇魔術師だった時代の記憶を見せてもらう過程で、わたしはスイの昔を少しだけ知っているが。
どうやら随分いじられキャラだったようだ。ハルからも、そして強くなるまでは当時の希少魔術師にもオモチャにされてたらしい。
まあたしかに、からかうと面白い雰囲気があるのはわかる。
「仕方ないですね。じゃ、そろそろ出発しましょうか。どんな調子ですかステア」
「いつでも、いける」
「じゃあお願いします」
「ん。錨を、上げろー」
ステアの全くやる気を感じない掛け声とともに錨が上がり、船が動いた。
「頼んだぞ諸君!」
「申告、フロム様も気をつけて。行ってきます」
こちらに手を振るフロムも、どんどん遠くなっていった。
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次回更新は1月3日か6日の予定です、皆様良いお年を!