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第289話 限界少女

 わたしは自分で気配を消し、リーフは純粋な持ち前の技術で隠密しながら廊下を進んでいく。

 すると近くで、数人の苦しむような声がした。


「ぐ、ぎゃあ、ああああ……」

「た、助け……」


 何事かと思ってリーフに合図を送ってそっちに行ってみると、そこはまさに死屍累々。

 目、耳、鼻、口、おおよそ思いつく顔のパーツから血を噴き出して倒れる10人近い死体と、その中心でどこぞの井戸から出てくるホラー女のような体勢でいるピンク髪の姿が。

 よく見ると倒れている死体は、わたしが革命軍の中で頭が回って厄介だと思ってピックアップしておいた連中だ。

 あとでひっそり殺そうと思っていたが、手間が省けた。


「お久しぶりですオトハ。問題ありませんでしたか?」

「………」

「オトハ?」

「……じょ……さま……」


 ○子の正体、オトハに話しかけたが、返事がない。

 幽鬼が如くフラフラと動き、何かを呟いているので耳を澄ませてみると。


「おじょうさま……お嬢様あああ!!」

「うわっ」

「お嬢様が……お嬢様が足りない……もっと、もっとお嬢様をお嬢様しなければぁ……!」

「疑問、どういう意味?」

「わたしに聞かないでください」


 どうやらここ暫くの間に、ノア様に会えないストレスが爆発していたようだ。

 これでよく革命軍をここまで動かせたな。腐っても優秀な側近か。腐っても。


「仕方ないですね。オトハ?聞こえますか?」

「あ……お嬢様……?」

「ノア様に見えますかわたしが。アホ言ってないで戻って来なさい。帰りますよ」

「カエ、ル……?」

「ついに言語すら忘れましたか。帰宅です。まあ最後にちょっとした調整がありますが、明日には出発しますよ。ノア様に会えます」

「アエル……お嬢様ニ……お嬢様に会える!?」

「そうです」

「お嬢様に!ようやく!?……あら、クロさんにリーフ?」

「本当に見えてなかったんですか……」


 どうやら正気に戻ったらしい。なんて手のかかる後輩だ。


「お久しぶりですわ。お元気でしたか?」

「おかげさまで。そちらはちっとも元気ではなかったようですね」

「ええ、お嬢様の御尊顔が拝めないことで断続的に記憶が途切れるくらいには体調に異常が……ですが、その地獄も明日で終わり!ふふふふふ、お嬢様お待ちください、もうすぐ貴方様第一の下僕たるこのオトハが参りますわあ!」

「意見、第一の下僕はクロでは?」

「そう名乗った覚えは一度もありませんが、まあ側近を下僕と定義するのであれば多分そうですね」

「じゃあ第一の奴隷ですわね!」

「じゃあもうそれでいいんじゃないですか」


 こんな世界一どうでもいい会話をしてる場合じゃない。

 とにかく、このことをノア様に報告しなければ。

 とはいえ、オトハが絡むと面倒なことになって通信魔道具の魔力が要件を伝えられずに切れる恐れがあるので、1人での連絡が望ましい。


「リーフ、オトハを抑えておいてもらえます?」

「承知」

「はい?なんで―――お嬢様に連絡する気ですわねっ!私をのけ者にしようとしたってそうはいきませんわ断固として私も参加へぶっ!」


 こういう時、無駄に頭が回る変態は厄介だ。早々に手を打つに限る。

 リーフにサムズアップをして、魔道具を握りしめた。


『もしもし?』

「ノア様、クロです。お取込み中でしょうか?」

『いいえ、まったく。どうしたの?』

「アルスシールの裏工作がほぼ終了いたしましたので、そのご報告を。明日にはこの国を去る予定ですので、3日ほどで帝国に帰還できるかと思います」

『あら、思ったより早かったわね。流石よクロ、お疲れ様』

「勿体なきお言葉です」

『ステアが寂しがってるから早く帰ってきなさい。あと、私のお世話をする人がいなくて困るわ』

「承知しております。こちらとしてもオトハが色々限界というか、ノア様に会えないストレスで人ならざる存在になりつつありますので」

『あの子、私に会ったら死んだりしないかしら』

「十分に有り得るかと思いますが、それ以上にあの約束をノア様が果たされた時が心配です」

『ああ……そういえば帰って来たらキスしてあげるとか言ったわね』

「はい」


 今のオトハはノア様の顔を見ただけで鼻からの出血多量で即死の可能性すらあるのに、そこから唇にではないとはいえキス。

 オトハの死亡率は9割を超えているだろう。


「まあ、もうそれはそれでいいんじゃないですか。多分、この世で一、二を争う幸せな死ですし」

『困るわよ、あんなでも私の大切な側近なんだから。あんなでも』

「それもそうですか。では何らかの対策を考えておきます」

『それは助かるわ、是非よろしく』

「かしこまりました。ではそろそろ時間なので失礼いたします」

『ええ、気を付けて帰ってらっしゃい』


 通信機の光が消えたのを確認し、わたしはそれを懐にしまって元の場所に戻る。


「ふん、ふぎぎ!!」

「きょ、驚嘆……死なないよう加減しているとはいえ、ウチの拘束を破りつつある!」

「ふ、ふふふ、私を侮るなかれですわリーフ!お嬢様への私の愛に比べればこのような風程度、意味をなさな」

「連絡終わりました。気を付けて帰ってきなさいとのことです」

「ぶえっ」


 信じられないことに天災(リーフ)の魔法に対抗していたらしい変態(オトハ)だったが、間に合わなかったことを知って一気に抵抗の気が失せたらしくカエルのような声を出して潰れた。


「感心、ウチの魔法に抵抗するとは。ノアが認めた側近なだけある」

「まあ、そうですね。ノア様が絡まないとこの力が出せないのが致命的な問題ですが」

「ううっ……お嬢様ぁ……!」

「はいはい、早くそのお嬢様に会うためにも仕事してください。頼んでいた人物のピックアップは終わっているんですか?」

「ああ、はい。次期アルスシールのトップに据える人物の選定ですわよね?ぴったりの阿呆がいましたわよ」


 さめざめと泣きながらオトハが取り出した一枚の紙には、似顔絵とプロフィールなどが詳細に書かれていた。

 名前は“アーホ・ジョーダン”。元日本人の感覚的には、もう名前からして知性を感じない。


「なになに、本人は自分が頭がいいと思っているタイプの馬鹿。一番御しやすいタイプですね。それで革命軍の中では名の知れた英雄の一人息子で、支配欲が強く……ふむ、素晴らしい人材です」

「どーせ今頃、下の階でイキってますわ。何かしらの手柄を譲ればとりあえずトップには座れる血筋をしていますし、いいのではなくて?適当におだてれば、あとは取り巻きが評判を広めてくれるでしょうし」

「同意。ウチはコイツでいいと思う」

「わたしもです。素晴らしいですよオトハ、これほどの人材を見出すとは」

「お褒めに預かり光栄ですわ。じゃあさっさと連れてきて“相談”しましょうか」


 わたしたちの目的は、革命軍の連中をそそのかして革命を成功させ、その上で上に立つにふさわしい人材を皆殺しにし、無能をトップに置いてこの国を傀儡国家にすること。

 しかし、ただ無能なだけではこの役割は務まらない。ある程度の地位があって、この国のトップで満足する程度の欲しかなく、かつ周囲からある程度の信用がある人物でなければ。

 人選を間違えれば、第二第三の革命が起きかねない。その度にまた裏工作を仕掛けるのは面倒くさすぎる。

 その点においてこの男はこの上なく適材だ。こういうタイプはアドバイスという名の実質的な命令に簡単に乗ってくれる。

 ノア様の良い奴隷となってくれるだろう。


「あ、いましたわ」

「じゃあオトハ、一人で連れ出してください」


 オトハはやれやれというように、アーホに向かって歩いていった。

作中の魔法解説コーナー②




【光魔法】


髪色:金


使用者:ノアマリー・ティアライト、ルクシア・バレンタイン


特性:僅かにさす光を利用することによる視覚阻害に対する耐性、及び100倍の動体視力




文字通り光を操る魔法。世間一般で光と認識されているものは基本的に操作可能で、懐中電灯のような発光は勿論、熱を持った光線や自身に光を纏っての高速移動も可能。


光線や高速移動は理論上光の速度まで加速出来るが、高速移動に関してはその速度に対する心理的な恐れの克服に相当な時間を要するため、ノアの場合は最高瞬間速度マッハ100程度の速度だが、ルクシアは1000年以上の経験から光速での移動が可能となっている。


また、一般で知られている魔法の中では唯一ダメージの治癒が可能な魔法であり、これは希少魔法という括りで見ても非常に珍しい性質。


欠点として、光が速すぎるため術者自身もその動きを認識しきれないため、直線的な攻撃しか基本的にできないこと。鞭や剣などの形にすることも出来るが、その場合は光の速さを失う。


その性質上、毒劇魔法や金属魔法などに対してはほぼ勝てる魔法だが、反面、闇魔法とは打ち消し合う性質上互いに相性が悪く、空間魔法、時間魔法、重力魔法などの概念干渉系の魔法も天敵となってしまう。



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― 新着の感想 ―
[良い点] あ、『第一の下僕』は譲れるだね
[良い点]  この状態のオトハにルクシアと戦わせよう。バケモノにはバケモノ()をぶつけんだよ! [一言]  『アーホ・ジョーダン』に笑った。都合がいいけど同時になんか死にそうな気配もする……。
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