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第276話 ボタンvsルシアス2

「《範囲掌握(エリアグラスプ)》《神経侵蝕(ドミネイトニューロン)》」


 安全な場所に下りて最初にやったことは、塔内部にいる全員の神経を停止させ、一切の動きを封じること。

 いくら超高度を誇るこの塔とはいえ、その高度自体は500メートル程度。余裕も余裕で私の魔法の有効範囲内。

 神皇さえいなければこの塔はいくらでも支配できる。


「流石ねステア。これで誰にも邪魔されずにオウランを探せるわ」

「ん。今、全員の、記憶から、探してる」

「ルシアスは?」

「消えた。私の、探知外」

「じゃあ話通り廃村に転移したわね。あそこなら誰にも邪魔されずに一対一で神皇と戦える。あいつの望み通りに」

「……勝てると、思う?」

「7:3、ルシアスが7ね。単純に総合的な戦闘力を数値化するなら、まあ神皇の方が上でしょう。けど彼の身体能力は、重力魔術師にとってのこれ以上ない天敵になり得るから。ただ一つだけ気がかりなのは」

「神皇の、本気が、分からない」

「ええ。重力魔法は強力だけど、重力という星のルールに干渉する以上、精密なコントロールが非常に難しい筈。それこそ光魔法や闇魔法と同等以上にね。けど神皇はそれをほぼ完璧に使いこなせていた」


 天賦の才か、それとも例の重力魔法の“受け継ぎ”に関係があるのか。

 いずれにしろ、神皇は一朝一夕で身に付けられるレベルではない精密な魔力操作を扱うことが出来ている。

 オウランとの戦いの時も、まったく本気を出していなかったはずだ。


「重力操作のルールも未知数なところが多いし、なにか切り札を隠し持っている可能性も高い。それがルシアスの体質を突破するほどのものなら、一気に彼の勝率は2割を切るわね」

「同意見」

「けど」


 でもそんな危険な状況に置かれたかもしれないルシアスを慮っているはずのお嬢は、何も心配していないような顔でふっと笑い。


「それで負けるなら、彼もその程度だったということね」

「……お嬢、ルシアスには、厳しい」

「彼の目標はこの私を倒すことよ?相性抜群の敵くらいしっかり倒してもらわないと、百年修業したって敵わない夢になってしまうわ」


 そう言って楽しそうに笑った。

 ……あ。


「お嬢、見つけた」

「相変わらずの手際の良さね。どこ?」


 遥か上層にいる男から気絶したオウランを運ぶ記憶を読み取った私は、お嬢と共にオウラン救出に走った。




 ***



「ぐ、ぬぅっ!」


 空間魔法で一気に距離を詰めたルシアスの剣を、ボタンは両手を翳して受け止めた。

 そのまま剣を弾き、膝をルシアスの脇腹に入れて吹き飛ばそうと試みたが。


「ほっ!」

「ええい、この猿が!」


 ルシアスは一度剣を持ったまま手をつかずに側転してそれを回避。

 そのまま勢い付けて逆にボタンの鳩尾につま先をめり込ませる。


「ちっ、やっぱ効かねえか」

「このっ!」

「うおっ、またか!」


 反重力を展開しているボタンには効かず、手前数ミリで壊れない壁にぶつかったような感覚と共に足が止まり、その一瞬の隙をついてボタンがベクトル操作でルシアスを遠くに吹き飛ばした。


「はーっ……はーっ……」


 戦闘開始から数分。

 既にボタンは息切れをしていた。


「塔から出ることもほぼ許されぬ引きこもりに……いきなりこれはないじゃろ……!」


 神皇という職務上、多忙なデスクワークが多いボタンは、魔法と物理を併用するノアやリーフと違って体力が低い。

 重力魔法という圧倒的な攻撃力のみですべてを蹂躙できるボタンには98%必要のないものではあるが、皮肉なことにルシアスは2%の方だ。


 ―――なんなんだ、あの男は。

 どれだけ重力をかけても屈しない、それどころかその重みを利用して攻撃を仕掛けてくる。

 反重力を展開して接近戦に持ち込んでも、向こうの攻撃は通じない圧倒的有利な状況のはずなのに一撃も与えられない。

 魔法の技量不足を圧倒的武力で補っている、つまりワシとは真逆。

 だが、その武力が高すぎて重力魔法の効果が激減している!


(触れた状態の最大出力で一気に押しつぶしてしまいたいが、反重力の守りと相手への強重力は両立出来ん。もし一瞬で仕留め切れなければ反重力がない状態では一瞬で斬られる。そもそもあいつ何倍かければ潰れるんじゃ!)


(なるほど、ちょっとずつ分かって来たな重力魔法のルールが。にしてもあいつの反重力、ありゃ反則だろ。俺の全力攻撃が通らないだと?一応空間属性も使ってるはずなんだが、えげつない重力で空間ごと捻じ曲げてやがるのか)



((化け物が!!))


「……《加圧錬成(グラビティメイク)》」

「んお?」


 ボタンは短時間でルシアスの身体能力の異常さを理解し、長期戦は不利と判断した。

 魔力量では圧倒的にルシアスに勝るボタンだが、空間魔法を使わずともルシアスは強いし、なにより相性の悪さは変わらない。

 戦いが長引くほど、無尽蔵の()()を持つルシアスが優勢になり、自分の魔力が尽きるまで攻撃を受け続けることになる。

 自分に対して攻撃が当たらないための反重力展開―――強力な斥力を放ち続ける技は無敵だが、相応の魔力を消耗する。常に張りながら動いていては一時間も経たずに魔力が尽きる。

 故にボタンは守りを最小限に止め、魔力が尽きる前に全力で攻撃し続けるしかなかった。


「《剣の吹雪》」


 ボタンはまず、周囲の大地を重力でくりぬいた。

 それに圧力を与え、剣の形へと整える。

 その数、約100。


「ははははは!マジかよ!」


 そのすべての剣はボタンに一度近づき、そこから慣性で吹き飛んでルシアスに向かっていく。

 更には重力が持つ引力をルシアスの近くに設定し、追尾能力まで与えた。

 ルシアスは受けることも考えたが、流石に音速に近い速度で向かってくる100の刺突に耐えるのは危険と判断し、逃げを選択。


「《転移(テレポーテーション)》」


 着弾のギリギリを狙って転移し、すべてを躱した。


(これでいい。超人といえどワシのすべての魔法に耐えきれるわけではない。それに、刺突や斬撃はある程度効くようじゃ。空間魔法を使い切らせ、加圧生成した武器で猛攻すれば勝機はある!)


 ボタンの読みは正しい。

 ルシアスは確かにその体質的に殴打や圧力にはめっぽう強いが、それに比べれば剣や槍による攻撃はある程度通る。

 それにしても通すためにはフロム並の腕力と技量が必要だが、重力で無理やりブーストできるボタンには関係ない。

 つまり、面での攻撃はほぼ完全耐性をもつが、斬・突攻撃は強耐性程度ということ。

 ボタンはそこに付け入る隙を見出だした。




(やっぱりな)


 一方で、ルシアスも重力魔法のからくりの一つに気が付いた。


(俺を近づかせない手に出ると思ったのに、妙に接近仕掛けてくると思ったぜ。あいつ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだな。あの反重力がやけに突破できないし、さっきの剣ラッシュもわざわざ自分に近づけてから射出してたし間違いねえ)


 ボタンの重力操作は、距離が近ければ近いほどその威力が増す。

 触れているものに対しては魔力さえ続けば理論上無限に重力をかけられるが、1メートル離れるだけでこれが一気に最大100倍まで落ちる。


(つまりあいつの付け入る隙は……)


 ①自己と他の重力操作は両立できない。ただし、自分の重力を操作している時も触れているものに対しては例外。

 ②近づくほどに重力が強くなる。ただし①の理由から防御している間はこっちに攻撃できない。


 互いに自分の攻撃が通らない戦い、しかし勝機はある。

 戦況はほぼ五分。

 ボタンはルシアスを睨み、ルシアスは楽しそうに笑い。

 そして再び、ルシアスが踏み込んだ。

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