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第271話 神皇の塔

 籠(※一名徒歩)で辿り着いたのは、案の定というか皇都の最奥に天高くそびえたつ神皇の住まい。

 雲よりも高いんじゃないかと疑うほどの高さを誇る塔、その中に私たちは運び込まれた。


「到着いたしました。どうぞ、足元お気を付けください」

「どうも」


 一階で降ろされて周りを確認してみると、木製の綺麗な立方体の部屋。

 この塔が建てられたのは鎖国して間もない頃、1400年前のはず。なのに目立った傷や汚れがないのは、おそらく使われている木が特殊なんだろう。

 奥側には一人のガタイのいい男がいて、こちらに恭しく一礼した。


「ここからは僭越ながら私が。こちらへどうぞ」


 男は私たちを、二畳ほどの小さな何もない部屋に招き入れようとした。


「これは?」

「自動で階層を移動してくれる、進化した階段のようなものです」

「へぇ、便利ね」


 一応嘘がないかを確認し、本当だと確認してから私が一番最初に乗った。

 それを見てお嬢が感心しながら乗り、ルシアスもそれに続く。


 ―――ビーッ。


「何の音?」

「え?重量オーバー?おかしいな、250キロまでは運べるはずが……」


 250キロ。

 ルシアスは大体180キロ。つまりあと70キロ、そこに私とお嬢の分を足したら―――。


「……ねえ、階段ってある?」

「ございますが、こちらの不手際で客人を歩かせるわけには」

「いえ、これこっちの問題だから。ルシアスあなた階段」

「なあ、この国俺に優しくねえんだけど」

「自分の体質を恨みなさい。何階に行けばいいの?」

「最上階手前、119階です。流石に大変かと思いますので、お手数ですがここでお待ちいただければ後でお迎えに」

「あなた体重いくつ?」

「は?は、81キロですが」

「じゃあ駄目だわ、どのみち重量オーバーね。じゃあルシアス頑張って」

「ちぇっ……」

「あ、お待ちください!でしたらせめてあなたの方にも人を付けますので!」


 まあ、流石に敵かもしれない人を本拠地で野放しにするわけはないか。

 でも、付けられる人は憐れだな。


「じゃあルシアス、上で待っててね」

「あいよー」


 手を振るルシアスを最後に扉は閉まり、部屋は徐々に上に上がっていった。

 大書庫から地上に戻る時みたいな感覚だ。魔法かその他の技術かは不明だけど、興味深い。

 私がキョロキョロしていると、男に話しかけられた。


「まずは119階の客室にご案内致します。少しお待ちいただいてから、我らの主、神皇陛下に謁見していただきます」

「ええ」

「しかし驚きました。まさか我が国に希少魔術師が3人もおられたとは……都市伝説だと思っていたのですが」


 嘘はついていない。

 この男はきっと何も知らされていないんだろう。私たちのことも、オウランのことも。


 オウランの記憶から読み取った、神皇ボタン・スギノキの人物像。

 ――明朗快活に見えて、その裏には底知れない影がある。

 ――私やお嬢ほどじゃないにしろ頭がいい。洞察力が優れている。

 ――そして、おそらく()()()()()()()()()()()()


 三つ目に関しては推測に近い。けど、ほぼ間違いないだろう。

 オウランに最後に言い放っていた言葉、オウランとの対話の時にわざわざ二人きりになっていたこと。様々な部分から見て取れる。

 ボタン・スギノキは、強さ・地位共にこの国では孤独な存在。

 だけどそれと同時に、孤独であることが苦手。

 それが彼女に抱いた私の印象だった。


 つまり彼女は、この塔にいる誰のことも信用しておらず、だからこそ外部の人間であるオウランに惹かれたこともあるのかもしれない。


 ―――ポーン。


 直接会う前に彼女のことを再確認したところで、部屋に音が鳴った。


「到着いたしまし……え?」

「おう、遅かったな」

「待たせたわね」


 そこには案の定、直線で上がる部屋よりもはるかに速く塔を昇っておきながら息切れ一つしていないルシアスが立っていて、彼に付けられた女性は瀕死で倒れていた。


「え、なんっ……え?」

「あ、こいつ介抱してやってくれ。途中でばてたから抱えてきた」

「客室ってあそこかしら?使わせてもらうわよ」


 口をパクパクさせている男を他所に、私たちは部屋に入った。

 タタミと呼ばれていたものが敷かれているのを見て、お嬢にあらかじめ言っておく。


「お嬢、ここ、靴脱ぐ」

「ああ、そうなの?」


 落ち着いた部屋だった。

 独特の香りと適度な温かさが結構落ち着く。帰ったらこの部屋どこかに作りたい。

 そんな場合じゃないのは分かってるけど、凄くリラックスできる。


「んで姫さん、どうするよ」

「言ったでしょ、まずは交渉。オウランを返してもらえるようにね。けど向こうはおそらくどんな条件を出してもオウランを渡すのは良しとしないわ。十中八九戦うことになる」

「恋してる奴ってのは世界で一番厄介な交渉相手と言っても過言じゃねえからな。傭兵時代も色々とあったもんだ」

「私も色々あったわねえ。昔は私を取り合う子たちで大喧嘩が勃発して街が吹き飛びかけたことがあったわ」

「交渉ですらねえのかよ単なる自慢じゃねえか」

「最終的にスイがそれを止めようとして勢い余って全員ボコボコにしたのよね。あれがあの子を副官に任命したきっかけだったわ」

「まさかの右腕誕生秘話かよ……」


 お嬢たちもリラックスしてる。

 けど、ここからは下手したらすぐに戦いになるかもしれない。

 向こうが交渉をやめて一気に仕掛けてくる可能性すらあるんだから。

 私はゴラスケをぎゅっとして心を落ち着ける。


「で、神皇の重力魔法に関してだけど。それに関してはルシアスの案を採用するわ」

「サンキュ」

「本当はあまり気が進まないけどね。九割敗ける戦いの勝率をようやく五割に戻すようなそんな案だもの。不確定要素が多すぎる」

「だが、現状それしかねえのも事実だろ?向こうがステアの分断をしなけりゃそれでよし、精神操作で向こうは詰みだ。だが、逆に言えばステアを封じられたら対抗手段はこれだけのはずだ」

「……まあね」


 神皇は、私の強さを知らない。けど精神魔術師がいるとバレてはいる。

 私の力量が分からずとも、精神操作という物理で防げない力を警戒するのは当然だ。相手が究極の物理の化身・重力魔術師となれば猶更。

 つまり、私は何らかの方法で神皇の姿を見えなくされる可能性が高い。

 神皇ほどの実力者だと、視界に入っていない限り精神魔法は通用しないから、神皇以外にその方法が知らされていなければ私が防ぐのは難しい。


「多分向こうは、私たちを殺そうとしてくることはないわ。殺してしまえばオウランから恨みを買うのは目に見えてるもの、相思相愛を望んでいる神皇にとってそれは何よりも避けたいことのはず。逆に言えば、私たちが死んでしまうほどの重力は初手で使ってこない。そこでルシアスの策ね」

「おう!」


 ルシアスは生き生きと喋っている。自分の策が採用されたことがよっぽど嬉しいんだと思う。

 無理もない、私もルシアスの策を聞いて自分がいかに常識に縛られていたかを再認識した。

 彼の策は、それほど簡単で突飛だった。


 数分、そのまま小声で相談を続けた。

 すると、ノックの後に扉が開き。


「用意が完了いたしました。神皇陛下がお待ちです」

すみません、次の投稿お休みします。

次回投稿は9月12日予定です。


お詫びの裏設定①

ボタンは身長がオウランの1センチ下、体重は可変、Aカップの巫女服美少女。

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