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第269話 際の伝言

 ―――だけど、僕の答えは決まっていた。


「ごめん、ボタン」


 僕はリーフが好きだ。


 自分を好きになってくれたのは嬉しい。凄く。

 けどそれでも、僕の頭に何よりも焼き付いているのは。

 ノアマリー様に助けて頂いた時の恩と。

 リーフが一度だけ浮かべた、あの笑顔だ。


「その、告白なんてされたことないからなんて言っていいか分からないんだけど。お前の気持ちは凄く嬉しい。まだ会って全然時間経ってないけど、お前とだったら絶対過ごしてて楽しいと思う。……でも、僕が好きな人は他にいるんだ。だから、ボタンの気持ちに応えられない」


 ボタンの顔を見るのが怖くて、目を瞑りながら僕はそう言った。

 僕を抱きしめる力が強くなっていくのを感じた。


「どうしてもダメか?」

「ああ」

「その女を忘れることは出来ぬのか?」

「無理だ」

「ワシならお前になんでもしてやるぞ?お前が望むならどんなことも叶えてやる。一生不自由なんてさせぬ。それでもか?」

「……ごめん」


 ボタンの声は、どんどん尻すぼみになっていく。

 それに反するように、抱きつきは強くなっていった。

 凄まじい罪悪感と居心地の悪さが僕を襲う。


 だけど、そんな感情は。



「……そうか」



 突然全身に走った、感じたこともないような苦痛で吹き飛んでしまった


「が……ひゅっ……!?」

「言ったじゃろ、ワシの重力魔法は対象を自分にしている時、自分自身と()()()()()()()にも重力を付与できる。ワシの体重と自重、双方にかけられれば流石のお前も耐えられんじゃろう」


 呼吸が出来ない。

 延々と体に圧力がかかって、頼みの綱の耐性魔法もブレそうになる。

 どんなに痛みを無視して集中しても、小指一本動かせない。


「な……ん、で……」

「断られるのを断る。それだけじゃ」


 目の前が白黒になってくる。

 僕を見下ろしているボタンの鮮やかな服が一瞬で色を失った。

 全力で呼吸に集中しても、普段の十分の一も吸うことが出来ない。


「広く美しい世界の中の、こんな狭い牢獄に閉じ込められ、視覚も味覚も愛した者すら失い、不幸のどん底に叩き落されたワシが―――心から好いた男にすら振り向いてもらえない。そんな現実はなくていい、あっていいわけがない。お前は誰にも渡さん、絶対にじゃ!他のすべてを犠牲にしようともお前はワシのものにするぞ、オウラン……!」

「ボ、タ……」


 ついに何も見えなくなった。

 意識は保てていると信じたい。


 この光すら感じない真っ暗な景色が、ボタンがいつも見ている世界。

 そんな場違いな考えが浮かぶくらいには、頭が混乱してきていた。

 もう、ボタンの声もほとんど聞こえない。

 殺されることはないと思いたいけど、確信は持てない。

 ……まずいなあ。きっと死んだら、ノアマリー様に殺される。

 駄目だ、もうほとんど何も考えられない。

 もう、意識が。



『オウラン!』



 突然頭に響いて来た声に、一気に頭が覚醒した。

 誰の声かは聞き間違えるはずもない。待ち望んでいた声だ、ギリギリ間に合った。

 でも、覚醒と同時に苦痛も元に戻った。持って数秒だ。


『オウラン、大丈夫!?』

『ステア、昨日今日の僕の記憶を丸ごと読み取れ!神皇の記憶と重力魔法について色々入ってるはずだ!僕はもうすぐ意識を失う、急げ!』

『何が起こって……』

『いいから早く!……それと、ノアマリー様に伝言頼む』

『なに?』

『出来ればボタンは―――神皇は、あまりひどい目にあわせないであげてほしいって』


 最後まで伝えた。

 直後にステアの声は遠のき、僕の意識は完全に落ちていった。




 ***




『オウラン……オウラン!』


 やっと繋がった私のテレパシーが、突然途絶えた。

 何度試しても繋がらない。位置も特定できない。

 位置に関しては繋がっている時に把握したけど、それよりも繋がらない方がまずい。

 私の精神魔法が通用しない対象は3パターン。

 強固な自我と膨大な魔力・魔法抵抗力を持っているか。

 意識を失っているか。

 ―――死んでいるか。


「ステア、どうした」

「……オウランと、繋がった」

「なに!?」

「確かなの?」

「ん。でも、すぐに、途切れた。多分、気絶した」


 死んだってことは、無いと思う。

 オウランに言われて咄嗟にコピーした、彼のここ数日分の記憶。

 理解するために数秒間並列思考をフル回転させる。

 神皇、ボタン・スギノキ。覚醒した土魔法、《重力魔法》の使い手。

 この国の実質的なトップにして、最強の魔術師。

 そして、オウランが好き。

 最後に言っていた言葉や性格的に、あそこからオウランを殺すとは考えにくい。

 なら次だ。余計なことを考えてる暇はない。

 どうやってオウランを助けるかだ。

 私はお嬢とルシアスに状況を説明した。


「オウランは、神皇の塔に、いる」

「あのバカ高いやつか」

「ん」

「ということは、ステアの推理は当たっていたのかしら」

「ん。オウラン、攫ったのは、神皇」

「舐めたことしてくれるわね……」


 お嬢は爪を噛んで、怒りを宿した眼をしていた。

 だけど、知っちゃった以上話さなきゃいけない。


「お嬢、オウランから、伝言」

「なに?」

「神皇を、あまりひどい目に、あわせないでって」

「はい?」

「あん?」


 二人は怪訝そうな顔をした。

 オウランの記憶を渡そうかと考えたけど、流石にプライベートな内容が含まれていすぎている。

 かといってその部分を外すと状況を説明できない。要点だけ抑えて口で言った方が早い。


「オウランは、昨日、あそこで、神皇に会った」

「ふむ」

「で、惚れられた」

「うん。……うん?」

「嫁にするって、言われて、攫われた」

「待て待て待て」

「拒否したら、ボコボコ。今ここ」

「いや全然分からん」


 ……口で説明するのって難しい。

次回更新は4日後の9月3日予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  いやーこれ以上なくわかりやすい説明だったと思うな。
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