表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
275/446

第265話 ステアの推理

 私は男から手紙を受け取り、身体検査をしてから記憶を消したうえで男たちを帰し、封を開いた。

 同じ言語ではあるものの、千年以上鎖国していたせいで言葉にクセが生まれていて読みづらくはあるが、前後の繋がりや読み取っておいた記憶から頭の中で良く知った言葉に正し、十枚弱に渡る堅苦しい文章を省いて簡潔に本題だけ抽出するとこう書いてあった。


『拝啓 オウラン殿の仲間の皆様


(前略)


 さて、本日は皆さまの大切な仲間であり御友人であるオウラン殿を、こちらでお預かりしているという旨をお伝えさせていただきたく、こうして筆をとらせていただきました。本件に関しましては


(中略)


 つきましては、本件について是非皆様と話し合いの場を設けたいと考え、提案させていただく次第です。提案に同意していただける場合は、○日の午前十時、皇都にある以下の住所の場所までお越しください。尚、この


(以下略)』


 差出人の名前はない。文体の癖から女であることはなんとなくわかるけど、それ以外の情報はない。

 怒りや焦燥の感情が湧き出そうになるけど、コントロールして抑え、手紙をルシアスに渡した。


「ん?読まなくていいのか?」

「もう、読んだ」

「……開いてから十秒も経ってねえぞ」


 速読くらい練習すれば誰でもできるのに。


「あー、さっぱり分からねえんだけどなんて意味だこれ」


 おばかなルシアスのために、簡潔に文章を説明してあげた。

 要するに、「オウランは預かった、返してほしくばここに来い」みたいなことだと。


「マジかよ、どうすんだそれ」

「お嬢と、相談。転移早く」

「お、おう」


 元の場所に転移で戻ってお嬢に手紙を渡すと、読むうちにお嬢の顔も険しくなっていく。

 お嬢は舌打ちをして手紙をルシアスに投げて寄越すと、近くの石に座って天を仰いだ。


「お嬢、大丈夫?」

「……問題ないわ。怒り狂ってるだけだから」

(全然大丈夫じゃねえ……)


 ルシアスの顔が引きつっている。心を読まなくても何を言いたいのか察せる程度には。

 お嬢は多分、オウランを攫われたことに怒っているんじゃない。勿論それもあるだろうけど、少なくとも割合的には半分以下だと思う。


 お嬢が、何もしていないままに『主導権を握られた』。それがお嬢の一番の激怒ポイント。


「○日ってことは、あと二日ね……」

「どうする?」

「とりあえずこの近くを拠点にするのは変更なしで、足を皇都まで伸ばすわ。ステアの力で片っ端から記憶を読み取ってそれでオウランが見つかるなら万々歳、見つからなかったらお望み通り行ってあげましょうよ。何企んでるか知らないけど、叩き潰してやるわ」

「ま、オウランが人質に取られてる以上従うしかないわな」

「ん。オウラン、戻って来たら、お説教」

「勿論」


 お嬢は静かに怒りながら、報復の内容を頭の中で超高速で巡らせていた。

 そっちはお嬢の担当だ、私は別のことを考えなきゃ。


 私は目を瞑って思考を深くした。

 次第に音も聞こえなくなり、思考が加速していく。

 考えることは―――3つ。


 ①オウランは生きてるか。

 これは多分問題ない、こっちを呼びつけるってことは交渉とか要求とかをする気があるってこと。そのカードであるオウランをそう簡単に殺すとは思えない。

 山から連れ去った話もあるし、十中八九生きている。


 ②オウランを連れ去ったのは何者か。

 おそらく高位魔法を使える九人の男と、ルシアス曰くオウランと行動を共にしていたっぽい女。

 そもそも高位魔法を使える魔術師自体が稀なこの世界で、九人も同じ組織に所属しているのは普通は考えられない。


 一つだけ候補があるとしたら―――国軍。


 もし仮にそうだとすると、オウランを連れ去ったのはこのスギノキということになる。

 それならオウランを連れ去った理由にも一応説明がつく。希少魔術師が文字通り希少なこの小国で特殊な髪色が生まれれば話題になる。なのに確認されていないオウランは、異邦人だと分かり切ってしまう。

 だからこそオウランは密入国者として捕らえられ、その仲間、つまり私たちを一網打尽にするための人質に取られた。これなら筋が通る。

 でもこれだとわざわざ届くかもわからない手紙を出すより、人海戦術で山探しした方がよっぽどいい気もする。わざわざオウランを連れ去る理由が乏しい。

 そもそもなんでこんな山奥に国軍が?私が探した中で最も人の往来が少ない場所を選んでおいたのに。

 ……ひとまず仮説段階に留めておいて次にいこう。


 ③オウランと一緒にいたという女は何者か。

 ルシアス曰く、オウランと女の匂いは常に同じ場所にあったという。

 つまり一緒に逃げていた。なぜ?ここでさっきの仮説が活きる。


 仮にオウランを捕らえたのが国軍だとすると、そいつらはオウランではなく()()()を追っていたんじゃないか?


 つまりオウランは、その女を助けようとして捕まった。

 これなら納得がいく。オウランがいくら攻撃力最弱とはいえ、高位魔術師九人程度相手なら油断しなければ頑張れば多分勝てる。

 なのに連れ去られたのは、近くに足手纏いがいたからと考えれば説明がつく。


 この考えが正しいとすると、その女は国軍に追われるほどの何かをした人間ということだ。

 普通の犯罪者なら警吏にでも任せればいい。わざわざ高位魔術師が出張るほどのことをした女。

 けど、それほどの人物なら誰かの記憶にあってもいいだろうに、該当するような人物は私の読んだ記憶の限りいない。

 ということは、国家レベルの大犯罪を犯したものの、それからまだ時間が経っていなくて一般に指名手配されていないか。

 行った犯罪があまりに大きすぎて存在を抹消されたか。


 いや、どちらも違和感がある。ただの犯罪者ならオウランが身を挺して助ける義理がない。

 ということは、女は犯罪者という私の考えが間違っている?

 それとも、オウランを捕らえたのが国軍という考え自体が間違い?

 いや、まだだ。まだ筋道はある。

 私は考えることづくめで疲弊してきた脳をポケットに入っていた飴を噛み砕くように食べて無理やり回復させて、再び思考の海に沈んだ。


 国軍に追われていて、なのに犯罪者じゃない女。

 考えられる可能性は一つ―――要人、あるいはその家族。

 それも、ただいなくなっただけで国軍の上級クラスが出動するほど、スギノキにとって重要な人物。

 政治家?大臣?……違う、()()()()なわけがない。


 ―――あれ?そもそも、なんで九人()()だった?

 こんな小国だ、高位魔術師はそう多くはない。九人はどう考えたって全高位魔術師の半分以上だ。

 それをここに結集させていたということは、十中八九対象がここにいると判断したから。

 しかしここはこんな入り組んだ山だ、普通なら遭難などのリスクを考えてもっと多くの人数を質より量で送り込むはず。

 なのにここに来たのはたったの九人。いくら高位魔術師とはいえ捜索には少なすぎる。

 何故もっと人数を送らなかった?


 ……送れなかった、のか?


 あまり人数を送れないくらいの身分だったなら、その少人数が貴重な高位魔術師なのは説明がつかない。

 ということは、その女の身分は高い。しかしそれだと今度は大人数を投入しなかった説明がつかなくなる。


 なら、その女の身分が。

 ()()()()のだとしたら?


 身分が高すぎるが故に、高位魔術師を大勢、捜索に向かわせるほどの力があり。

 身分が高すぎるが故に、雑兵にはそもそも存在を知らせることが出来ない。

 これならすべての筋道が通る。


 けど、それほどに高い位に坐する女。

 私はそれに該当する地位を、この国のシステムでたった一つしか知らない。


(まさか―――)


 この考えが正しいとすると、オウランを攫ったのは。




『神皇』だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ