第264話 捜索開始
レビュー書いていただきました!久々で死ぬほど心躍りましたありがとうございます!
「オウランが行方不明?」
神皇に会う方法を考えて数時間経ち、百以上の方法を思いついてそのすべてを却下したタイミングで、暇を持て余してどこかに行ってたルシアスからそう聞かされた。
「ああ。空間把握にも引っかからんしジャンプして探しても全然見つからなかった」
「あなたの五感で見つけられないって、相当離れたところにいるのかしら」
「三時間くらい前に、気分転換したいからこの辺の適当なとこに飛ばしてくれって頼まれてな。ニ十キロくらい離れた景色のいい山道に置いてって二時間後にここに迎えに来るって言っておいたんだが、そこにはいなかったし良く見りゃ近くの山に戦闘の痕みたいなのがあったんだよ。本格的におかしいだろ?」
「ステア、あなたの有効範囲には?」
「いない」
「てことは最低十八キロ以上は離れた場所にいるってことね。……たしかにおかしいわ。戦闘痕っていうのはどういうもの?」
「見た感じ、綺麗な断面で切れてる木もあれば無理やり引きちぎったみたいな感じの木も倒れてた。だが一番は地形だな、随分と荒れてた。多分かなりの人数の土魔術師が暴れたんだろ。それもかなり広範囲だ」
「広範囲、ねえ」
お嬢が考え込むような表情をした。私も同じ顔をしてると思う。
オウランの《耐性魔法》は、私たちの魔法の中で一番周囲の環境に影響を与えにくい。
訂正、生物にしか効果が無い私の魔法の方が影響少なかった。オウランは二番目。
とにかく、そんなに大きな環境破壊をするような魔法じゃない筈。
ルシアスなら広範囲の自然破壊くらいしそうなものだけど、それをオウランがやったとするなら。
「凄く、逃げたか、凄く、苦戦したかの、二択」
「そうね。で、どこにもいないってことは前者なら撒ききれずに、後者なら敗けてどこかに連れ去られたっていうのが濃厚かしら」
「やっぱそうなるよな。しかしよぉ、弓置いてってるとはいえアイツが負けるってナニモンだよ」
「そこなのよねぇ。側近の中で一番攻撃力が低いとはいえ、並の相手じゃそう敗けることもないと思うのだけれど」
お嬢は困ったようにそう言った。
正直、オウランは私たちの中で一番弱い。
……弱いって言い方は違うか。正確には正面切って戦うタイプじゃないし、その必要もないっていうのが正しい。
オウランの魔法の真骨頂は敵の弱体化と味方の強化だから、本当なら常にお嬢の傍にいて、後ろから一方的に私たちが戦いやすいようにするのが役目。早い話が支援系。
でも、正面から戦う手段がないかと聞かれればそうじゃない。オウランも雑魚数百人程度なら普通に仕留められるはず。
しかもオウランは常に簡単な耐性を自分に付与してるから生半可な攻撃は不意打ち含めて通用しない。
もしオウランが連れ去られたのが事実なら、相手は相当な手練れだ。
「実は俺も上からサラッと見ただけでまだ詳しく現場検証したわけじゃねえんだ。ちょっと行ってみるか?」
「そうね、ここにいても始まらないし。転移してちょうだい」
***
「ここだ」
「確かに破壊が広範囲ね」
「ふむ……ここにいたのは11人だ、多分。1人はオウランで他は男9の女1。女は何故か知らんがオウランと行動してやがる」
「え?なんでそんなこと分かるのよ」
「匂いだが」
「……そう、まあ大体わかってたけどあなた嗅覚もえぐいのね」
「らしいな。犬の数倍って診断されたことあるわ」
「超人って便利ねえ。そのままどこで消えたか辿ってみてくれる?」
「おう」
ルシアスの鼻を使って、オウランの匂いを辿っていった。
私も手伝いたいけど、私はスイみたいに物質の情報を読み取ったりは出来ないからこの場では何もすることがない。
お嬢も出来るのは治癒と攻撃だから完全にルシアス頼みだ。
「よっと。足元気を付けろよ、けっ躓きそうなところは一応踏んでならしてるけど」
「気になったんだけど、あなた今体重いくつ?進むたびにドスンって音がするわ」
「あー、180か190キロくらいだったかな。200はいってないはずだ」
「すごい」
「華奢に見えるけど筋肉の密度とかはえぐいってことでしょうね」
「姫さんと会った時は140キロちょいだったから、随分と成長したってもんよ」
そう言ってルシアスはニヤリと笑った。
超人体質も成長を続けてるってことか。
魔法が使えない時ですら当時のクロと互角かそれ以上の強さ、そこに空間魔法が加わって更に強くなった。
しかもその体質・魔法どちらも未だ発展途上。
もし仮に、その二つの武器をどちらも極めることが出来たら。
(それは多分、私と同じかそれ以上の……)
精神を操るだけで身体能力は平均以下の私とは違う。
近中遠全距離を埋められる最強のオールラウンダーの完成だ。
ルシアスとお嬢の契約は、お嬢が世界征服を達成したら戦うって話。
もしその時までにルシアスが覚醒したら、お嬢は勝てるのか―――。
(……!バカ!何考えて!)
「ステア?どうしたの?」
「……なんでも、ない」
「?そう」
変なこと考えるな。
お嬢が負けるわけない。
頭を振って思考を飛ばしていると、不意にルシアスが止まった。
「ん、なんだここ?」
奇妙な場所だった。
周囲に比べて、僅かだが地面が陥没している。中心は人型で。
木も倒れ、足跡もすべて集合していた。
「この人型の大きさ、オウランに似てるわね」
「ん。身長的に、間違いない」
「つーことは、あいつここでやられて捕まった可能性が高いのか」
「そういうことになるわね。私たちが来た方向から考えると、多分ステアの有効範囲まで逃げようとして逃げきれなかったんだと思うわ。たったの十人でオウランをそこまで追い詰めるとは相当の手練れ、しかも」
「それだけの、強さの、戦力を抱える、力を持つ、組織」
「希少魔法狙いか、それとも俺たち全員狙いか……いずれにしろやばいだろ、早く見つけてやんねえと最悪の事態も考えられるぞ!」
「落ち着きなさい。こんな死体埋めやすい山奥からわざわざ連れ去ってるんだから、少なくとも今は殺す気はないと見るべきよ。冷静に匂いを辿っていって」
「お、おう」
そう一見冷静にルシアスに指示を出すお嬢だけど、若干の心の揺らぎがある。
オウランへの心配のせいだ。
「お嬢、大丈夫」
「……ありがと」
お嬢は察してくれたのか、少し笑って頭を撫でてくれた。
嬉しいけど、私も今はオウランへの心配が勝つ。
オウランを連れ去ったヤツ。何者か知らないけど、見つけ次第ぶっ飛ばす。
「ああ?」
「どうしたのよ」
「いや、匂い、ここで途切れてやがる」
「はあ?こんな四方八方樹木に囲まれたところで?」
「間違いねえ。正確には女とオウランの匂いだけ消えて、他の男どもの匂いは向こうまで伸びてるな」
……?
どんな魔法でそんなことを。
空でも飛ぶか空間転移か、超高速移動か。いずれにしろ普通の人間に出来ないことは確かだ。
「とりあえずその男連中の匂いだけでも辿っていってみましょう」
「ん。―――お嬢、探知内に人間が入った」
「どんなやつ?」
ここから南西に17.9キロ。男二人。多分何かの乗り物に乗っている、動きが早い。
『この手紙を所定の場所に置いて来るだけでこの金額……楽な仕事だな』
『なんか犯罪とかじゃないよな?こんなにもらえるとなんか不気味だ……』
「ルシアス、ここに転移」
「うおっ!いきなり場所情報流すなよビビるだろ!」
「お嬢、ちょっと、待ってて」
ルシアスは文句を言いながらも、私を連中の位置に飛ばしてくれた。
そこにいたのは、みたことない二輪の車に乗る二人の普通を絵にかいたような二人。
「うわっ!な、なんっ!?」
「妖怪か!?」
「《精神浸食》」
私の魔法が命中して、二人は操り人形と化した。
「ここにきた、目的は?」
「皇都の裏路地でだべってたら、妙な黒ずくめの男にこの手紙を渡されたんです。これを所定の位置に持っていったらこれの倍やるって言われて前金も渡されました」
「手紙はこの山の中、人型の窪みに置いてこいと。地図もありましたし迷うこともないと思ったので受けました」
男の手には、妙に高級な紙で作られた手紙が握られていた。
《ステアのちょっとした設定》
ステアは自分の半径十八キロ以内のすべての人間に常時テレパシーが使えます。なので不意打ちは絶対効きません。ただ、それ以上に精神に干渉するときは相手の顔を視認していなければなりません(本来はテレパシーすら不可能だけどステアは魔力ブーストで無理やり使えてる)。逆に言えば一度顔を見てしまえば、ステアの射程内にいればどこでも精神操作を施せます。つまりその気になれば、ステアはノア含めた仲間全員を一人で一瞬で倒せます。ドチートっすね。