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第262話 ボタン

お待たせしてすみません!

「はあ……」


 潜伏している山から少し離れた、一応は舗装されているものの暫く誰も通った気配がない道を気分転換がてら歩きながら、僕はため息をついた。

 ポンコツバカの姉がいないとはいえ、暴走しがちのノアマリー様を止められるのが僕しかいないという状況はちょっと、いや大分心労がかかる。

 こういうとき、本当にクロさんの偉大さが分かる。あの人なら熟練の教師が如く皆を纏めてくれる。


 まして僕はノアマリー様にいじられる要素を持ってるし、自分を守るだけで精いっぱいだ。

 勘弁してほしい、僕だって望み薄なのは理解してるし、自分でもこんなことになるなんて思ってもいなかった。


「人生って、何が起こるか分からないなあ……」


 なにせ、初めて会った時は思いっきり脳天地面に叩きつけられたし。

 その後もいい印象なんて抱いてなかったのにこれだもの。我ながらなんというか、チョロいというか。

 ……あれ?もしかして僕が笑顔一発で堕ちたのって、あの馬鹿姉に影響されてるとかじゃないだろうな?

 だとしたらちょっとショックだぞ。


「いやいや、そんなはずはない……はず。うん、大丈夫だ。ていうか馬鹿なこと考えてないで僕も神皇に会う方法を考えないと」


 僕は頭を振って変な思考を飛ばした。

 この国のトップ、神皇。ソイツに出会う方法、か。

 思考を巡らせようとした―――が、当然考えなんて浮かんでこない。

 それはそうだ、こっちの頭脳ナンバー1と2のステアとノアマリー様すら思い浮かばないのに、僕が考えつくわけない。


(なんだか厄介なことになって来たよ……ん?)


 思考を止めかけた僕の視線の先に、気になるものが映った。

 いつ置かれたかも分からないほどボロボロなベンチに座る、茶髪の女子。

 慌てて被っていた帽子を上から押し込んで髪色が見えないようにした―――が、その子の見た目が気になって帽子を少し上げた。


 茶髪のクセっ毛、今まで見て来たワフクに似てはいるけど少し違う、上が白い生地で下が赤いスカートみたいな服。

 僕と同い年くらいだろうか、美人だと思うけど、確証は持てない。

 何故なら彼女は、目を赤い布で覆っていた。

 近くには加工された木の杖が立てかけられていて、よく見ると杖の先はかなりボロボロだった。


(目が見えないのか)


 盲目と思しき女は、ぼーっと上を見上げてぴくりとも動かなかった。

 欠伸している姿を見なければ死んでいるんじゃないかと思うほどに。


 なんというか……関わってはいけない予感がした。

 格好が今まで見て来たスギノキの国民のものとは違う、しかも見ただけで分かるくらい質が良いから、もしかしたら貴族階級かもしれない。

 もしそうなら、こんなところに盲目、しかも女が一人でいるとは考えづらい。誰か付き人的なのがいるはずだ。だけど周りにそれらしき人影はない。

 妙な臭いがプンプンする。僕は前を通り過ぎるのすら憚られたので、回れ右をして元来た道を戻ろうと、


「おい少年。ワシの顔を見た途端に踵を返すとは失礼じゃの」


 ……したんだけど遅かった。


「すみません。ちょいとお手洗いに行きたくてデスネ」

「見え見えの嘘はよさぬか。まあワシは見えておらぬがの。ワハハ」


 ちっとも笑えない重めの自虐ジョークを交えてきた女の方をしぶしぶ振り向く。

 いつの間にか立っていた女は、こっちを揶揄うようにニヤニヤ笑ってこっちを見ていた。


「まあこっちに来て座るとよい。丁度暇を持て余しておってな、どれくらい暇かというとこの辺一帯を吹き飛ばしてやろうかと思うほどに暇だったのじゃ」

「やめてさしあげろ」

「やめてほしかったらお前、ワシの話相手になるがよい」


 なんだこの偉そうな女は。

 でも、いたずらっぽい笑みを浮かべ、身勝手に話を進めていくその姿がなんとなく自分の主と重なって、僕はなんとなく逆らえなかった。

 言われた通り女の横に座ると女も再び座り、ぼーっと空を眺める奇妙な時間が数秒続いた。


「お前、名は何という?」

「え?」


 一瞬ごもった―――けど、名前くらいならいいだろうか。

 それになんというか、この人からは妙な感じがする。なんというか、全てを見透かされそうというか。


「オウラン、ですけど」

「ほう、オウラン……『桜蘭』とな。美しい名ではないか、親に感謝すると良い」

「はは……」


 その親は僕がオトハと一緒に殺したけどな。


「そういう君は?」

「ワシか?ワシはボタンという。良い名じゃろう?」

「うん」


 ハキハキした透き通るような心地よい声、自慢げな笑顔。

 目は隠れているけど、きっと多くに男を虜にするという確信がある魅力が彼女にはあった。


「……で、質問なんですけど」

「敬語は使わんで良い。お前とワシは年齢も近いようだしのう」

「そう、じゃあ遠慮なく。……っていうかなんで僕の年齢が分かるんだよ」

「声や歩行速度でなんとなく人の年齢は決まるものじゃ。十五か十六といったところじゃろ?」

「おお……あたりだ、十六」

「む、丁度同い年か。で、質問とは?」

「ああ。言っちゃ悪いけど、なんで目が不自由な人がこんな山に一人でいるんだ?他の人は?」

「ああ、一人で良いというのに何十人もついてきたがってな。全員はり倒して逃げて来た」

「はり倒した!?」

「こう、魔法でズドンとな」

「魔法でズドンと!?」


 もしかしてボタン、強いのか。

 目は見えていないけど、これまでの話からおそらく耳が良いんだろう。

 五感どれかを失っている人は他の四つのどれかか全部が強化されるって話を聞いたことはあるけど、ボタンはその典型で聴覚が発達しているようだ。

 周囲を把握できる聴覚と、地形を操作できる土魔法。確かに相性はいいかもな。


「いいのか?身なり的に結構良いとこの人だろ?」

「その通り、ワシは偉いぞ。この服はな、神職の中でも限られた者しか身に付けることが許されない聖なる衣じゃ。昔はワシのような立場を『ミコ』と呼んでいたこともあるようじゃの」

「へ、へぇ」


 自分で偉いって言ったぞ。

 ていうか、目が見えないのをいいことに話しちゃってるけど大丈夫なんだろうか。

 なんだか惹きつけられて思わず座ってしまった。ノアマリー様にばれたらもしかして怒られるんじゃ……?


「むっ、緊急事態じゃ」

「………」

「おい、聞いておるのか」

「えっ?あ、なに?」

「どうやら尾行されておったらしい。ワシの付き人がこっちに来ておる」

「あ、そうなのか。良かったな」

「良くないわ、一年ぶりの外じゃというのに……あとオウラン、お前ワシと一緒にいるところを見られたら多分殺されるぞ」

「……え?」

 

 僕はさらっといわれた言葉に眼を点にした。

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