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第259話 スギノキ入国

「見えてきたぞー!」


 船のマストの上で、超視力で周りを見張ってたルシアスがそう叫んだ。


「予定よりちょっと遅れたけど、まあ許容範囲ね。あとどれくらいかしらー?」

「多分十七キロくらいだな!」

「じゃあもう範囲内ね。ステア、お願い」

「ラジャ」


 ゴラスケを服の中に入れて梯子を昇り、マストに上がった。

 ルシアスは既に飛び降りた後で、既に望遠鏡は用意されている。私は望遠鏡を覗き込んで、水平線の向こう側に僅かに見えるスギノキに焦点を合わせた。


 まだこっちには気づかれていない。港には色々な船があって、見える範囲だけでも凄く多くの人がいる。

 着ている服は、私たちが着ているのとは全然違う。一枚のぺらっとした布を纏っているような感じ。

 そうだ、前にクロの記憶を見せてもらった時、これに似た服を見た。

 お祭りの時の「ユカタ」って言われてたやつに似てる。


「ステア、大丈夫ー?」


 下から聞こえて来たお嬢の声にコクリと頷いて、見えた人間全員の顔を記憶。

 集中して、全員の記憶を覗き見た。


 周りの音が聞こえなくなっていって、海に沈んでいくような感覚。

 海は記憶で構成されていて、深く潜れば潜るほど対象の奥底の記憶が見えてくる。

 本人も忘れているような、だけど確かに脳に刻まれている記憶。それを含めて、私が魔法を使った167人の記憶、その中から私が欲しい情報に近しいものを並列思考をフル回転させて探る。

 お嬢曰く普通の人なら脳が焼き切れているらしいこの作業も、私なら耐えられる。

 人気のない、転移しても気づかれなさそうな場所―――検索。

 ピックアップ―――候補地、計223ヶ所。

 切り捨て―――すべての記憶を正確に読み取り、少しでもバレる可能性がありそうな場所を除く。

 候補数、残り12。

 ここから更に記憶を遡り、首都への距離や周囲の環境などを読み取り、最適な場所を選出。転移先の割り出し、完了。

 ついでに全員の記憶から、スギノキの有益な情報を吸収、頭の中で完全ガイドマップを作り上げた。


「ふぅ……」


 疲れた。

 私は自分が天才なのは自覚してるけど、それでもこれだけの人数に対して魔法を使い、その半生を全て把握するのは流石に脳がへたれる。

 加えて、今はクロがいない。クロが褒めてくれない。お嬢だけでも力は出るけど、クロがいたらもっと絶好調になれるのに。


「ステア、大丈夫?」

「お嬢……疲れた」

「ええ、ご苦労様。どうだった?」

「ばっち、ぐー」

「流石だわ。あなたがいないと本当にやっていけないわね、私」


 お嬢に褒められた。

 疲れた脳がギュイーンって回復した。


「ルシアス」

「おう。……確認なんだが、前みたいに頭ぶっ壊れかけたりしないよな?大丈夫だよな」

「心配、しすぎ」


 長距離転移をノーリスクで私に習得させてもらっておいて何を今更。


「ん」

「お、うおお……相変わらずすげえな、突然見たこともない風景が目の前に浮かんでくるぜ」

「転移、できる?」

「ああ、こんだけ鮮明ならな。人数も少ないし魔力も結構余裕でいけそうだ。すぐに行くか?」

「勿論。皆支度は終わってるわね?」

「もち」

「ばっちりです」

「俺もだ」

「じゃ、乗り込むわよ。頼むわねルシアス」


 お嬢に引っ付いてルシアスに近づいて、オウランもそれに続いた。

 ルシアスが集中すると、足元に魔法陣が浮かんで、


「《長距離(ハイテレポ―)転移(テーション)》」


 一瞬の間が開いて、場面が切り替わった。


 転移したのは、うっそうとした森の中。

 スギノキにある高い山、その麓辺り。


「ここは……」

「記憶の、持ち主が、()()した、ことがある、場所。ここなら、人も、来ない」

「成程、確かに僕らなら遭難するような地域なんてどうにでも出来る。考えたな」

「ぶい」

「とりあえず入国完了ね。ありがとうルシアス」

「おう。だが長距離転移はやっぱ魔力食うな、この人数でこの距離でも半分近く持っていかれたぜ」


 ルシアスの魔力量は130。一般人よりは3倍以上多いけど、私たちの中では一番少ない。

 超人体質で完璧に補ってるから、こういう時以外は全然それを感じさせないけど。


「オウラン、虫よけをお願い」

「分かりました。《耐性範囲弱化:空気》」


 オウランの耐性魔法。対象の耐性を強化・弱体化させる魔法。

 今使ったのは、有効範囲内に入っている生物の空気に対する耐性を下げる魔法。

 加減してあるし、魔力抵抗が高い私たちは余裕で呼吸できるけど、魔力を持たない虫はそうもいかない。

 魔法の範囲内に入った瞬間に呼吸が毒に変わり、数秒で死ぬ。

 相変わらず汎用性が高くて便利な魔法。羨ましい。


「さて、ステア。さっきの過程で情報も収集してたわよね?」

「ん。共有、する。《情報発信(ブロードキャスト)》」


 私が脳内で作った完全ガイドブックを、全員の頭に共有する。


「うわっ、分かりやす」

「なるほどね……」


 私が見た情報、余計なものを省いて簡単に記しておいた。



 超秘密主義鎖国国家、海洋国家スギノキ。

 人口62万人、国土面積は世界の国87ヵ国中第63位(1位が王国を飲み込んだディオティリオ帝国、最下位がハイラント全神国)。

 成立は約2000年前、当時から独自の文化を築き続け、1400年前から鎖国。現在も文化、風習、技術などは他国とは全く違うものが使われていて、読み取っただけでもその違いは計り知れない。

 ここで過ごす中で、有益な情報は。


 ①この国では希少魔法の存在は「一応」認知されている。ただし、あまりに現れる頻度が少ないことからほとんど都市伝説として扱われている。


 ②言語は私たちが使っているのとほぼ同じ。ただし独自の言葉が幾つかあるため留意する必要あり。


「希少魔術師の現れる頻度が少ないっていうのは、やっぱり鎖国と人口の少なさが関係してるんでしょうか?」

「それもあるけどもう一つ、ずっと自国で子供を作ってきたってのもあるでしょうね。希少魔術師はかつての希少魔術師の因子を色濃く受け継いで生まれてくる先祖返りみたいなものだから、特定の範囲で子供作り続けてるとその因子が薄れていくの」

「なるほどな、それで他の国と比べても圧倒的に希少魔術師が生まれてくる可能性が年々減っていくわけだ」

「そういうこと。髪色は隠すと怪しまれるし、やっぱりしばらくは潜伏している方がいいでしょうね」

「ですね。後は……首都の状況やレベルの高い海洋技術の一部詳細、そして―――」

「『神皇(しんのう)』。こいつが、私たちが堕とすべき相手でしょうね」


 私が記憶を読み取った全員、実は全く同じ知識、そして敬愛の気持ちがある人物がいた。それが神皇とその一族。

 二千年前、この国を建国した人の血を受け継ぐという、スギノキの象徴、国民にとっての現人神だという。

 なんでも神皇に選ばれる人間は、代々不思議な力を受け継ぎ、スギノキに繫栄を齎してきたんだとか。


「政治を担っているのは別の機関で、あくまで神皇は国のシンボルみたいなものなのね。ただ神皇の意思は何よりも尊重されるから、政策や法改正は神皇の許可を得ない限り受理されない。面白いシステムをしてるわ」

「不思議な力、っていうのが気になりますね。もしかして希少魔法のことなんでしょうか?」

「話の流れから、その不思議な力ってのは全員同じものよ。でも狙った希少魔法を受け継がせるなんて方法は存在しないわ、髪色はほぼランダムだもの。環境とかに応じて()()()()()()()パターンはあるけどね。漁師の一族には青色が多いとか、鍛冶師の一族だったら赤色とか」

「つーことは希少魔法じゃないのか。……じゃあなんだ?」

「さあ。ペテンか技術か、はたまた本物の神と見紛うほどの力か。確かめてみる価値はあるわね」


 お嬢は立ち上がり、拳を振り上げた。


「さ、じゃあやるわよ。まずはもっと情報収集、そして当面の寝泊まりの場所確保。海洋国家スギノキ攻略、スタートね」

次回投稿、お休みします。

次の更新は7月18日予定です。

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